表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命に抗う者たち ~The Black~  作者: 斬崎 奇人
第一章 【It was crazy】
11/11

Chapter.10 【暗器の矛先】

リヴィアの仕事は“便利屋”。

文字通り、なんでもするのがリヴィアの仕事。


仕事の腕はピカイチで、密輸、強盗、諜報、暗殺、なんでも出来て、なんでもする。

(その分、前払いも成功報酬もどちらも馬鹿みたいに高い。)


なんでもするという事は、その分、敵やリヴィアを良く思わない連中が増えるという事。

だからこそリヴィアの姉であるセイは、自分の弟の身を案じ、リヴィアにとって育ての親であるリクは、陰ながら……ではあるがリヴィアを親のように(・・・・・)案じている。

それをリヴィアはセイの気持ちだけを受け取っている。


「ねぇ、本当にあの、便利屋……続けなきゃいけないの?」

「……まぁ、あの仕事、結構 金、手に入るし。当分は、辞めないおこうかなとは考えてる」


リヴィアの言葉にその綺麗な顔をしかめたセイは、慈しむようにリヴィアの手に触れる。

刀という武器を持つその手は、大きく、少しだけ分厚い。


「(……双子なのに、こんなにも変わってしまうものなのね、お母様……)」

「?姉さん、そんなに俺の手見てるけど、なんか……汚い?」


あまりにもジッと見詰め過ぎていたのか、リヴィアが戸惑いがちに尋ねる。

セイはニコリと微笑み「なんでもないわ」と、リヴィアの手を離し、今度はリヴィアの頬を優しく撫でる。


疑問符を浮かべたような表情をしていたリヴィアだったが、優しく微笑むセイに釣られて口元に笑みを浮かべる。

リヴィアは自分の頬からセイの手を離させると、便利屋としての仕事をするためセイを置いて家を出ていく。ただ一言「行ってきます」と言い残して。


「あの子だけ、危険なことなんてしなくていいのに……」


その言葉のすぐ後に、セイの頭を撫でる手がポンと置かれた。

驚いたセイが視線を上げ、自分の頭に置かれた手の持ち主へと視線を動かした。


セイの視線の先にいたリクは、セイの視線に気が付くと口角を僅かに吊り上げ笑みを浮かべると、ポンポンとセイの頭を撫で続ける。


「アイツがあんな仕事をするのは自分のため(・・・・・)だよ」

「……上手な言い回しをするのね、貴方って」

「そうか?」


少し自慢げに笑ってみせたリクに、セイは呆れたようにして溜息を吐くと、いまだに自分の頭を撫で続けるリクの手を振り払った。


「子供扱いしないで」


ギロリとリクを睨むその目は、リヴィアに向けられる優しい、暖かみのある目ではなくなっていた。

冷たい、氷のような目にリクは驚くことはせず、ただ少しだけ……ほんの少しだけ、悲しそうに笑った。











所々、革の剥がれたソファに座りながらリヴィアは正面に座る、顔面蒼白の男性と対峙していた。

男性の手には分厚い札束が三つ握られているのだが、男性が力を込めて握るせいでシワが寄っている。


こういう客(・・・・・)はかなり多い。


「(顔面蒼白、挙動不審、身なりに合わねぇ、真新しい札束)」


リヴィアは何かを確信したのか、元々鋭い目付きを更に鋭くさせて顔面蒼白の男性を睨み付けた。


「悪いがお前の依頼は受けられない」

「な、なんでだ?!か、金なら……金ならこんなにあるだろ!!」


青白かった男性の顔色がもはや生気を感じられないほど。

ガタガタと震えだし「殺される、殺される」と呟き続ける。


その様に、リヴィアは面倒臭そうに溜息を吐くと立ち上がり、震えあがる男性の腕を掴み追い出そうとする。


しかし、男性は逆にリヴィアの片腕を力強く掴むと鬼気(けっき)迫る表情で縋りつく。


「頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む……!!!!!アイツらに、アイツらに殺される!!!!!」

「おい、お前の生命(いのち)なんざ知るかよ」


リヴィアの言葉に男性の表情が絶望一色に染まる。


「金なら、金なら全部やる……。頼む、この金で、俺の生命(いのち)買ってくれ(・・・・・)


男性の懇願に面倒なことになったと眉間に皺を寄せ、男性を見下ろし口を開いた。

大人の男性が少年と言えるリヴィアに縋り、泣きわめく様は異様である。


だが、リヴィアは男性を慰めるようなことをする訳でも、優しく言葉をかけることもしない。


ただ、胸中でこの男性をどう追い返そうかと模索していた。


「おい、アイツらなんて言われたって、何が何だか解んねぇよ」

「アルベルト!!!!!」


リヴィアは目を見開く。その目にはもう、面倒などという感情は見えてこない。

それは男性がいきなり大声を上げたからではなく、“アルベルト”という名前に聞き覚えがあったから。


「アルベルト暗殺組織……。アンタも知ってるだろ……?あの組織が、アンタを殺そうと、躍起になっている……」


男性はうなだれたように薄汚れた床に座り込むと、両手で顔を覆い隠し「死にたくない」と頻りに呟き続ける。

だがリヴィアは、口角を僅かに吊り上げ薄く笑みを浮かべ堪え切れないのかククククと笑い声を上げ出し、腹を抱えだす。……ついに気でも狂ったかのよう。


そう思ったのは男性も同じなのか、両手を顔から離しリヴィアを見上げた。その瞬間、男性の口から引き攣ったような悲鳴が漏れ出た。

男性の目に映ったリヴィアの姿は悪魔に着かれたかのような、不気味かつ、異様なもの。シェール辺りが今のリヴィアを見ようものなら口角を引き攣らせでもしながら距離を取るだろう。


そもそも、あまり笑わないリヴィアが笑い声を上げながら笑い続けるのだ。気味が悪いだろう。


「ア、アンタ……一体、どうしたんだよ……」

「良いことを聞いた!!そうか、“アルベルト”か!!俺を殺してぇのかなぁ……!?」


リヴィアの黒く鋭い目がギラギラと怪しく光り輝く。

口角を吊り上げ、笑い声を上げていたリヴィアは特徴のある「クククッ」という喉の奥から出したような笑い声を最後に急に、黙り込んでしまう。


片手で顔の目と額を覆っているため表情は、口角の上がった口元しか見えず、いきなり黙ってしまったリヴィアに男性はどうすればいいのか判らず、ただ視線を彷徨わせるばかり。


それでもリヴィアは緩く撫でるように髪をかき上げた。






「デカい獲物がかかったな」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ