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無限に終わらない  作者: 睦月煉
第1章   邂逅と離別
8/50

7話     予期せぬ再開

今まで謎だらけであまり進行しなかったこの物語、ここから動き出します。

「うッ───!?」



 麗翔は目を見開いて大量の汗を流し、勢いよく息を吐き出す。そして数秒硬直した後に、ゆっくりと顔を上げ、唖然とその光景を見ていた。



 その光景とは、既に何度も見たような親近感すら湧く、見慣れた光景。

 暗い闇の中に見える、広大な海だった。


 ──なんて景色を見るより先に麗翔は、直前の出来事をすぐさま思い出して、まず真っ先に飛び上がって呟く。


「カノン……!?」


 心臓の鼓動が激しくなっていて、未だに収まらない。当然だろう。目の前で響希が灰塵となり、カノンも頭部から血を流し、炎の剣を振り下ろされた瞬間に視界が暗くなって──



「…………!」



 そこで麗翔は、ある既視感に気が付いた。

 視界が暗くなって、気がつくと海岸で横たわっている。まさしくあのタイムリープと同じ現象だ。

 そのまま咄嗟に右腕を見ると、やはり切り落とされてはずの腕が元に戻っている。次にスマホを見ると、またも時刻は0時0分。



「また、戻ってる……」



──でも、ということは、まさか。



「せっかくカノンと仲良くなれて……会話もできて、楽しく街を回って、打ち解けられたと思ったらこれかよ……」



 ここに至るまでのこの世界での記憶は、自分以外からのすべてから消え去ってしまったのだ。もうさっきまでの自分は誰も覚えていない。誰も知らない。そう考えると絶望的な孤独感が伝わってくる。


「なんで僕だけがこんな……カノンともまた仲良くならないといけないのか、また初めから関係を築かないといけないのか? 何で僕だけが忘れられるんだ、何でみんな殺されたんだ? 何もしてないのに、何で? これじゃあ……あそこに連れてきた皆を僕が死なせたみたいに……ッ」


 しかし、感傷に浸っている暇もなく刻々と時間は過ぎているのだ。失った友情を再び作り直すのは苦難ではあるが、世界が無慈悲にも巻き戻ってしまったことで、世界に怒りや悲しみをぶつけても仕方ない。


 今考えることは今後のことだ。気持ちの整理がつかなくとも、考えることは考えなければならない。そう思ってすぐに直前の行動を思い返して見る。

 そして目を細めて俯く麗翔の頭の中には、1つの疑惑が浮上していたのだ。



「確か響希が殺されて、その後であの子が殺されたと思ったら……気が付いたらここにいた」



 タイムリープの原因、それがだんだんと少しずつ解けていく気がした。



「最初のループでは、浜辺の方で爆発が起こって時間が戻った。でも、もし……」


──もしあの子がずっと浜辺にいたとしたら


「その時も、同じ爆発であの男に殺された」


 そして今さっきのタイムリープも、カノンが死んだ瞬間に発動したのだ。明らかにこれが原因ではないと言いづらい。もうその他にそれらしき原因は見当たらないのだから。



「じゃあ何だ、人の死がタイムリープのトリガーに? いや、でも響希が殺された時に時間は巻き戻らなかった。つまり……」



 半信半疑だが、結論はまとまった。



──あの子が死ぬと、時間が巻き戻る



 そして、二度目の街探索の時、響希は勿論、街の人達も、時間が巻き戻った事に気付いたような様子の人はいなかった。何故なら響希と会話する人間は、皆明らかに初対面のような様子だったからだ。


 響希ほど明るく陽気な青年なら多少は記憶にも残るはずであろう。

 その事実が表すものとはつまり──



「要するにあの子が死ぬと時間が0時に巻き戻って、しかもそれを認識できるのは何故か僕だけ……ってことか?」



 一体何故、自分がこんな宿命を背負ってしまったのか。麗翔が死にゆくカノンを救わなければカノンは無限に死に続け、世界もまた無限ループを繰り返すだろう。


 しかし、たった1人無限ループを食い止めることができるのが麗翔とは、背負う荷があまりにも重すぎる。

 あんな意味不明な炎を操る人間がいるような世界で、戦闘力も知力も並み程度な自分が一体どう立ち向かえばいいのか。


「なんで僕なんだよ……異世界転移にチート能力は付き物だってのに、こんなのチートって言えるのか? そもそも僕そのものは時間遡行を認識できるだけでただの凡人だろ……なのに僕がどうにかしなきゃいけないのか? 僕がこの事態をどうにかしない限り、ループが終わらないのか?」



 絶望感はあるが、麗翔はひとまず誰かに相談したくなった。重すぎる荷を誰かと分かち合いたい。無論、それができそうなのは、思いつく限りたった1人だけ。


「響希、起きてくれ」


 そう言って、麗翔は響希の身体を揺する。


「……んー?」


 異世界で響希を起こすのはこれで三度目となるが、何度起こしても変わらない無防備さだった。


「え……ここは……?」


 全てを話そう。彼ならきっと信じてくれるハズだと、そう信じて──


「今から話す事を、落ち着いて聞いてほしい。 こんなこと急に信じろって言われても、無理かもしれないけど……本当なんだ」


 きっと死んだばかりで混乱をしているだろう。だから、ここまでの経緯を全て、自分の見てきた全てを、詳細に響希に話した。



* * * * * * * * * 



「時間が巻き戻る……か」


 信じて貰える確証なんてどこにもない。未来を知っているなんて、普通は誰も信じない。果たして信用してくれるのかと不安になりながらも、返答を待つ。すると響希は答えた。


「信じてもらえないかもしれないけど、これから起こる事は本当なんだ」


「なーにバカな事言ってんだよ」



 と、響希は言う。やはり、こんな何の根拠もない事を唐突に言って信じてくれるハズはなかったと、そう思うが──



「そんな顔で話すお前を、俺が疑うわけねーだろ?」



 彼は続けて当然のように、軽くそう言ったのであった。麗翔は改めて、彼の単純さと自分への信頼度に心が温まった。何故自分なんかをそこまで信用するのだろうと疑問は浮かぶが、それなら話が早い。

 そこで麗翔は穏やかな笑みを浮かべて話し始めた。



「ありがとう。それなら早速だけど奴らの拠点を探しに行きたい。拠点に帰りたいとか言ってたし、それでこの辺を立ち寄ったのなら恐らく、その森の中に拠点があるハズなんだ」


「んで、俺達がこの浜辺にいちゃいけない何らかの理由、それか殺されなきゃいけねぇ理由でもあんのかな……?」


「どうだろう。ともかく拠点に行って何か情報を得たい。普通に考えて、関わらないのが一番良いのかもしれないけど……」


 橙色をした髪の男やもう1人の赤髪の男は、明らかに何らかの目的や計画があって行動を起こしている様子だった。

 それが何なのかにもよるが、人を3人くらい殺しても構わないというとんでもない計画。つまり何も知れずただ浜辺から逃げるだけでは、すぐに死んでしまうかもしれない可能性だってある。


 事態は浜辺だけで片付く問題ではないと、麗翔はそう踏んだのだ。



「せめて拠点の場所がわかればそれでいい。その後でこの国の兵士様とやらにチクって、とっ捕まえる」


「わかった。んでもって、そのカノンって子はどうするんだ?」


「……まぁ、連れて行かないとだな。浜辺に置いておく訳にはいかない」


「よし、じゃあ俺その子起こしてくるよ」


「あ……待って」



 麗翔は、立ち上がった響希を呼び止めた。麗翔は前回のループで1つ後悔があったのだ。それを繰り返さない為にも、やるべき事があった。


「僕が話をする」


「え、お前大丈夫なのか?」


 響希は麗翔を心配した。何故なら響希は知っているからだ。昔から変わらない、麗翔の人見知り具合を。

 だがしかし、麗翔はその心配を押し切ってでもやり遂げなければならないと思っている。


 2回にも渡って世界を繰り返し、一度死んだ事によって少しは心情も変化していたらしい。



 そもそも、響希とカノンを、待ち受ける絶望から救えるのは麗翔しかいないのだ。麗翔だけが、過去を知っているのだから。過去の──未来を。

 麗翔が全てを背負わなければいけない、麗翔だけが響希とカノンを救える。だからこそ麗翔自身がカノンと直接会話をし、麗翔自身の手で救うべきだと決めたのだ。


「今のあの子は僕を知らないだろうけど、今の僕はあの子を知っている。それに、いつまでも人見知りでいる訳には……いかないだろ?」


「そうか、わかった」


 そうして麗翔は響希に背を向けると、カノンの元まで走り、彼女の手前で腰を下ろす。


 改めて、眠りにつくカノンを見ると響希と同じく本当に無防備な顔をしていた。前回一緒にいた時の、堅苦しい冷たい顔はどこにいったのやらと、そんな事を考えながら彼女の方を揺さぶった。



 同じ過ちを繰り返す訳にはいかない。同じ心残りを作る訳にはいかない。麗翔は一歩、成長するのだ。ここから──



「……え? ここは……いや、あなたは……?」



 わかっていたことだが、改めて自分が誰かと問われればさすがに傷付いてしまう麗翔だ。仕方がないとはいえ辛いものは辛い。

 そうして一瞬目を逸らし、同時に悲しみごと心の内から逸らそうとした末に、再び言葉を発する。


「一緒に逃げよう」


 敬語を使わず、これからすべき事だけを真っ先に伝える。もっと言葉を考えてから言えば良かったと後悔するが、もう遅い。

 あとはもう、伝えるべき事だけを自分の思いつくままの言葉で伝えるのみだ。


「あの、えっと、状況が全く……」


「僕も正直言って訳がわからない、何もかもがわからなくてうんざりだ。でもこの浜辺がもうすぐ地獄になるって事はわかる……そうなる前に一緒に来て欲しい」


「えっと……あれ、なんか私、何も思い出せないんですが……もしかしてあなたとどこかで……?」


 当然、急に知らない人間からそんな事を言われれば誰だとなるだろう。極端に言えばこれは誘拐だ。だが麗翔は彼女の事を少しだけ知っている。

 内気で引っ込み思案だが内面は明るい、そしてこんな頼りない自分に手を差し伸べてくれる優しい少女。


 たったそれだけのことしか知らないが、だからこそ麗翔はもっと知りたいと思った。だからここで、再び新たな関係を築くために──



「いや、初対面。初対面で、しかも急で、本当に悪いと思ってる。でも、それでも……僕は君を助けたい、君を救いたい」



 麗翔は何も知らないふりをする。その上、初対面から「実は未来から来たんだけど」なんてことをいえば確実に変人扱いだ。

 そもそも正直に言えばこんなセリフ、女の子と面と向かって言い放ってると思うと死ぬほど恥ずかしいものだが──これもカノンのため。


 そして救ける理由は無限ループを阻止する為、ではない。勿論それも理由の1つだが、あくまで理由の1つ。麗翔は本気で彼女自身をを救いたいと、そう思えたのだ。


 コミュ障の麗翔はどうしようもないくらい会話が下手だが、伝えるべき事は伝えた。あとは彼女の返答次第だ。


 そして数秒間をあけ、軽い笑みをこぼしながら彼女は言った。


「なんですかそれ……でも、わかりました」


「────」


 その時、そう言って麗翔の話を聞き入れてくれたカノンが──微かに笑った気がした。その様に麗翔は一瞬だけ唖然としてしまう。

 ともあれ多少強引だが、これで彼女を連れ出す事は成功だ。後は森の探索。ここで拠点を見つけられるかが鍵となる。

 と、そう考えているとカノンは聞いてきた。


「あ、そういえば名前は……」


「僕はレイト」


 過去の響希を見習い、軽く微笑んで、苗字ではなく名前を教える。あの時作った関係は消えてしまったが、麗翔は少しでも失った仲を取り戻す為に、そうした。


「あぁ俺はヒビキ、あれ、ていうかコレって俺が輪に入ってもいいのか……?」


 逆に彼を気まずい感じにしてしまったかもしれないと少し申し訳なさを感じるが、彼ならきっと大丈夫だろう。


 響希が麗翔を信じるように、麗翔も響希のコミュニケーション能力を信じているのだ。心配は必要ない。

 

 むしろ「えっと」や「あっ」など、言葉の途中で不要な単語が入りまくる麗翔の方がコミュニケーション能力としては心配されるものであろう。


「あ、あと……その、君は……」


 既に知っているハズの名前だが、唐突に彼女の名前を呼べば何故知っている、となるだろう。だから、麗翔は知っているハズの名前を尋ねようとする。



「カノン、だと思います」


「あー、うん……よろしく……カノン」


 彼女はそれを察してすぐに答えた。

 そして名前を聞いた麗翔は少し照れくさそうに、ぎこちなく彼女の名前を呼んだ。そういえば名前を呼んだ事はまだなかったなと、そんな他愛もない事を考えながら。



 ここから麗翔の物語は始まる。

 無限に終わらないループを止めてカノンを救うために、幾度となく立ちはだかる絶望と──戦い続ける。

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