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無限に終わらない  作者: 睦月煉
第二章   罪と約束
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38話    冷淡な銀と旺盛な金

ギャグ日常回もあと2話くらいで終わりです



 突如始まった麗翔の訓練。

 お手本にルキノが色々と剣術を見せてくれるそうだが、どうやら麗翔と同じく突如連れて来られた本人も納得はしていないらしい。


「お手本……あなたが直接教えればいいんじゃないの? それでも一応は歳上の上官でしょう」


「俺を上官って認識できてるなら、あまりにも俺への扱いが酷すぎねぇか!? 敬語とかは!?」


「そんな義理ない。私がここまで来てあげただけでも良い方だと思うけれど」


 ラルガとルキノはそんな風に言い合うが、一言一言の毒が強いルキノが優勢か。かと思いきや、彼女は急に黙って麗翔をじっと見つめる。


「…………」


「────?」


 麗翔とルキノは無言で見つめ合うものの、やがて彼女の方から口を開いた。


「あなた、どこから来たの?」


「えっ……あっその、よく覚えてない」


「そう」


 冷たい返しをされるが、ひとまず気にせず話の進行を待ってみる。

 するとそれに気付いたラルガは、その間に持ってきていた袋から謎の鉄板を取り出した。見るからに決してすぐに折れるような薄い鉄板ではない。


 急にそんな物を取り出した意図がわからない麗翔は疑問を顔に浮かべるが、ラルガはすぐに口を開く。


「コイツは防具にも使われる鉄板だ、見ての通りそこそこ分厚い。まぁルキノ、まずこれを斬っ──」


 が、そう言いかけた瞬間。


「────」


 迸った斬撃は、我を忘れるほど美しかった。

 直後にルキノが剣を一振り。刹那にして剣風が吹き飛び、銃弾をも防げそうな鉄板は甲高く響いた音と共に分断される。そしてその断面は、機械で断たれたかのように正確で乱れがない。

 何より彼女の持つ銀色の長髪が、その冷ややかな美しさを一層上げているのだ。


 ──が、ラルガは一瞬唖然とした後で我に帰るとすぐさま犬が吠えるような顔で怒鳴る。


「急に斬るなよ心臓に悪ィだろ!」


「どうせ斬るんだから別に変わらない。それより、あとはその辺のものを適当に斬っておけば終わりでいいんでしょう?」


「……え?」


 しかし直後にルキノが放った言葉に、ラルガと麗翔は声を揃えてまたも困惑する。そんな二人を気にも留めず、ルキノは真顔で歩きだした。


 ──そんな彼女の視線の先にあったのは、立派に育った一本の樹木だ。その樹木を斬るつもりなのかと麗翔が察するが、樹木──つまり植物を見て同時に思い出したことが一つ。


「あっ」

──ここの植物斬ったらヤバイんじゃ


 が、直後に斬撃音が響き渡る。

 もう何もかも遅かったようだ。麗翔とラルガが止める間もなく、樹木は綺麗に真っ二つ。その太い幹は美しい断面をこちらに向けて、轟音を放ちながら大胆に倒れたのだった。



* * * * * * * * * 



「つッッかれたああっ!」


 麗翔は勢いよく大の字で寝転び、仰向けになって夕焼け空を眺めた。荒らげた息を繰り返しながら、それでも必死こいて声を上げる。


 そこでなんとなく顔を横に向けてみると、視界に映ったのは涼しげな顔で樹木に寄りかかるルキノだ。

 麗翔は息を切らしながら話しかけた。


「副団長に怒られて、訓練で長時間走らされて死ぬほど素振りさせられて。その後、さっきルキノが斬った樹木の断面と断面を無理矢理合わせて強引に包帯で固定する、とかいう大変な作業をやったはずなんだけど……なんでそんな平然としてるの」


「魔力を使えば大した苦でもない、あなたの体力がないだけ。そんな事よりあの子を気にしてあげれば?」


 そう言いつつもルキノの頭にはレイヴァンのデコピンによって作られた、痛々しいたんこぶがあるが──麗翔にもある事だし触れないでおこう。

 それよりも、ルキノの視線の先にいるのは壁際で静かに体育座りをするカノンだ。


 どうやら彼女は昼までずっと寝込んでいたらしく、午後の訓練で会ってからもずっと暗い顔のままだ。

 それも昨日の暗い顔とは比にならないくらいの暗さになっていて、兵団の中で最も会話をする麗翔でさえ声をかけるのを躊躇う程である。


 ルキノの言葉を受け、流石にそろそろ声をかけるべきかと思い麗翔は立ち上がった。そして一応巻き込まれたりはしたが、剣術を見せてくれたお礼くらいは言った方がいいと思い、麗翔はルキノの方へ振り返る。


「今日はありがとう」


「別に」


 表情も変えず、なんとも彼女らしい返答だった。これはこれで良いだろう。やがて麗翔も、カノンの方へ歩き出そうとする。

 その瞬間。



「──あなた、異世界って信じる?」



 麗翔は困惑した。いつの間にか異世界というワードに心臓が飛び上がりそうなほど敏感になっていたのだ。何故なら響希以外の誰にも言っていない事だったから。


 まだ大して深い関係でもないのに、言って頭のおかしい人間だと思われたくないというのが第一の理由だが──彼女は何か知っているのだろうか。


「それは、どういう……?」


 恐る恐る聞き返してみると、彼女はジト目をこちらに向けて目を合わせる。そして少しの間を開けてから口を開いた。


「私が子供の頃に流行った噂だけど……この世界と似通った別の世界がある、なんてイカれた妄想話があったの。でもある日それを真に受けた子供が、家出したっきり行方不明になったりした。未だに見つかってない」


「────」


 麗翔はどう反応すればいいかわからなかった。異世界の異世界──つまり逆の逆、麗翔が元いた世界の事であろう。

 そんな概念がここにもあったのかと唖然とする麗翔。ルキノが言いたいのは行方不明になった子供が異世界に行ったのでは、という事だろう。


 にわかには信じ難いが、実際に体験している自分がいる以上疑う余地はない。それよりも新たに「異世界と現実世界は行き来できる」という可能性がより確かなものとなってきて若干の嬉しみすら感じる。



 ここで麗翔が考えたことは一つ。

 自分がその、彼らから見た異世界人である事を言うか隠すかだ。やがて数秒間の間俯き、悩んだ末に出した答えは──


「……逆に、僕が異世界人だって言ったら信じる?」


 質問への質問だ。

 麗翔自身が異世界人だということは濁しつつ、その事実を本当に打ち明けた時にどうなるか。

 しかしルキノは無言のまま涼しい顔で立ち上がると、麗翔に背を向けて言い放った。


「ありえない」


 ──何となく釈然としない麗翔。だが彼女はどうにもそういう性格らしいので文句を言っても意味はないだろう。

 そう考えた麗翔は立ち去るルキノを、静かに呆れ顔で見つめるのだった。



* * * * * * * * * 



 ──結局、気が付いた時にはカノンの姿がなくなっていた。何も話せなかった麗翔は沈んだ顔をしながら兵団基地の寮を歩き、自室へ向かっている。


「しっかし今日のカノンはまた、いつもに増して暗いというか……日に日に元気がなくなってるというか──」


 麗翔はそう呟きながら自室へ入ろうとドアノブを捻る。しかし、ドアを目前にした瞬間から麗翔は奇妙な違和感を感じていた。

 麗翔は部屋に鍵をかけたハズだ。しかしその部屋から、何故か笑い声が聞こえるのだ。


 不気味ではあるが、麗翔は何となく聞き覚えのある声だと察して、そのまま疑うように難しい顔で扉を開ける。そしてすぐに部屋を見渡した瞬間だった。


 麗翔が自室を見渡して広がっていた光景は、洋風な雰囲気を醸し出すベッドに机に棚、そして──人間。



「おう、おつかれ!」

「やっほー」

「おかえりー」


「なんでいるの!?」



 何故やら麗翔に部屋には、同じ新兵であるアルムにシャロンにサフィールと。さらには、まだ少ししか会話したことのないルキノと全く会話したことのないリオまでいる。

 どういうわけか、カノン以外の全新兵がこの部屋に集まっているのだ。


 金髪のアルムに関してはとにかく目立つので、麗翔も一瞬にしてベッドで寝転がる彼に気が付いたのだが──そんなアルムはアホ面を向けながら麗翔を見上げると、思い出したように言葉を発する。


「あ、お邪魔しまーす」


「何でこのタイミングで言った!? というかこの部屋、鍵かけといたハズなんだけど!?」


 それにしたってやりたい放題だ。麗翔の部屋は獰猛なペットでも飼っているかのように散らかされているのである。が、もちろんその後も麗翔とアルムによる漫才のような言い合いが続いていた。



「まぁまぁ許せ許せ! しっかし何だよこの本、笑いすぎて腹が痛ェよ……あっ涙出てきた」


「それ数学の教科書ッ! その本の何を見て爆笑してたの!?」


「あぁ? 別に大して面白くなかったけど」


「じゃあ尚更さっきは何に爆笑してたんだ!?」


 そう言い返すとアルムは不敵な笑みを浮かべ、唐突にベッドを降りて麗翔に近付く。やがて疑問を顔に浮かべる麗翔は、そのままアルムに肩を組ませられた。


「まぁそんな気にすんなって。ホレ、お前もコレ食うか?」


「なん、何これ……」


 同時にアルムが何かを噛み砕きながら麗翔の眼前に差し出したのは、砕かれたチョコのような小さい固体だ。しかしアルムは何も答えず、怪しげな表情で麗翔に顔を近づけて言い放つ。


「まぁまぁ、一回だけなら平気だぜぇ。すぐ気持ちよくなれるしさぁ、騙されたと思って一口だけでもよぉ……」


「勧め方が危なすぎる! っていうかこれ……ドッグフードォォッ!!」


 固体の正体はドッグフードだったらしい。その見た目と床に散らかっていたドッグフードの袋からそれを判断できたが、まともに食べていたら腹痛でも起こしていたかもしれない。


──って、あれ?


「アルム、残ってるのってこの一粒だけ? たくさん入ってたと思うんだけど……」


「あぁすまん、全部食っちまった」


「────!?」



 すぐに麗翔は戦慄した。

 ──この男、凄まじいバカである。

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