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無限に終わらない  作者: 睦月煉
第二章   罪と約束
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34話    新たなる生活


 麗翔とカノンが武器屋を訪れたその頃──同時に、とある日陰の裏路地では、数人の青年による談話が行われていた。



「それで、アイツらをどう思う?」



 やや気怠げな声と表情で石段に座りながらそう問いかけるのは、前髪を分け、やや乱れた黒髪をを持つ青年だ。

 彼が顔を横に向けて放った言葉は、すぐ近くの壁に寄りかかって立つ少女に向けたものだった。


 少女は暗く赤い瞳をゆっくり青年へ向けると、腰辺りまで伸びた銀髪を触りながら静かに答える。


「別に。昨日見た限りの様子じゃ、どちらも怪しい様子はない。それどころか狡猾さも武力も持たない凡人、あんな(なり)でスパイとは考えづらい。ただの人見知り……というより、ただのビビり?」


「まぁ同感だな、そう思わせるための演技って可能性はあるが……そこまで危険視するまでもねぇか」



「……あーっと、リオもルキノも恐い顔で難しそうな話してるけど、あいつら二人とも面白くて良い奴だぞ? それにエリクさんが選んだ二人だし心配ねーって!」



 と、そんな会話をしている最中で横から──というよりも二人の真正面から口を挟むのは、何も考えていないかのように間抜けそうな顔を向けるアルムだ。


 それに反応してアルムに目を向ける青年、リオは、呆れたように溜息をついて返答する。


「相変わらず能天気だな。奴が選んだ二人っつったって、言い換えればシスコンな変人が選んだ二人だぞ? 心配にもなるだろ……」


「大丈夫大丈夫、エリクさんは変人だけど頼れる時は頼れる良い人だからさ!」


「だといいが……奴は今頃あの武器屋に向かってんだろ? そんならマズイぜ、奴の変人っぷりを新入り二人に見せちゃあ、この組織そのものに悪いイメージを持たれかねねェ」


 そう言い返すリオを眺めるアルムは、どこか引きつった表情をしている。そこで数秒の間が空くが、アルムはやがて悪いものを見るような視線ををリオの横──ルキノへ向け、ハッキリ言い放った。



「なぁ……? この組織に悪いイメージ持たせてるのって、エリクさんだけじゃないよな」


「そう?」


「そう、じゃねェエッ! お前が持ってるソレ、後で兄貴に渡す水筒だよな、なんで辛子を投入してんだ!?」


「あぁ、あの人確か辛いもの苦手とか言ってたから」


「確信犯じゃねえか……!? あぁもう、俺は知らねぇからな!」



 すぐに呆れたアルムは、手を顔に当てて大きな息を吐くと荷物袋から水筒を取り出して飲み始める。

 すると、それを見たルキノが思い出したように──



「あ、それ海水だけど」


「しょっぱあああッッ!?」


 ルキノの忠告は完全に遅すぎた。

 というよりも間違いなく確信犯だろう。流石のアルムも、すぐにそこまで理解が辿り着く。水筒の中身を海水にしておくなど、誰が考えつくものか。


 そんなアルムの叫び声だけが響き渡る、日陰の路地裏だった。



* * * * * * * * * 



「ンで、エリクよォ……そこの小せぇ嬢ちゃんはともかく、こっちの15歳にもなって一回も剣に触ったことがないってのァどういうこった?」


 

 場面は変わり、そこは麗翔達がいる武器屋。

 麗翔は勿論、剣なんて握った事も触った事もない。それが何故やら、この世界ではおかしい事らしい。

 何となく釈然としないが、それこそが剣と魔法の異世界だと割り切るしかないのだろう。


 麗翔がそう考えながら沈黙していると、すぐ近くにいたエリクは微笑んで返答した。


「まぁ仕方ない……とはいえレイトは一応これでも、街を破壊し回った賊に打ち勝ったんだ。これから剣術を覚えて、さらに強くなれればそれでいいだろう? お前もそう思わないか、我が親愛なる妹よ」



 と、それを聞いた瞬間、麗翔は驚きのままに声を上げる。どこに驚いたかと言えば他でもない、エリクの返答の最後の部分に関してだ。


「親愛なる……妹!?」


「あぁ、 どうだ。可愛いだろう俺のシャロンは」


 彼はそう言いながらシャロンの頭を触ろうとするが、シャロンは瞬時にして体制を下げながら回避。

 直後、彼女の鋭いアッパーが龍のように昇り──


「気安く触んなぁぁッ!!」


「だぶッ!?」


  見事に顎へ命中。エリクはその勢いのまま上に吹き飛び、天井を貫通して上半身が突き刺さった。木片と埃が飛び散り。もはやこちらから見れば天井から生えた下半身だけの生物と化している──が、彼は声色ひとつ変えずに呟く。


「オイオイ、危ないじゃないかシャロン。いつから俺に暴力なんて振るうようになったんだ?」


「危ないも何も直撃してるから! アンタこそいつからそんな変態になったのよ、この変態野郎!」


「野郎じゃない、『お兄ちゃん』だろう?」


 直後に「そこじゃなくて変態を否定しろよ」という麗翔の脳内ツッコミが心の中で炸裂するが、そんな麗翔の呆れ顔を見ても、何故かエリクは爽やかな笑みを浮かべている。なんとなく釈然としない気分だ。



 そのまま麗翔は不服そうな顔で沈黙していると、店主の男は再び二本の武器を麗翔の眼前に差し出した。


 片方はいわゆる西洋剣、もう片方は形状を見る限り日本刀だ。


「本来、魔力も剣術も持たない凡人は槍でも使っとくのが無難なところだが……どっちがいい?」


「ぼ、凡人……いや、じゃあその、カタナで」


 唐突にディスられて若干ヘコむ麗翔だが、刀を使わせてくれることには感謝をしなければならない。

 理由は何かと言えば「純粋にかっこいいから」と、そんなところだ。実際に両者の特徴を詳細に知っている訳でもない。


 だが、テニスの経験があるため棒を振り回す事は案外慣れている。そういった点で、突き刺すイメージがある西洋剣よりも振り抜くイメージがある日本刀の方が使いやすそうだと思ったのだ。


 ──勿論、だからといってすぐに使いこなせる訳もないが。



「よし、じゃあとりあえずこの刀から始めるか、新兵初めての武器ってんなら金はいらねぇ。支給品だと思って受け取れや」


「あ、ありがとうございます。って重……ッ」


「まぁそりゃ初めて持つってんなら重いだろうな。ホレ、そこの嬢ちゃんは軽い細剣でいいか」


 麗翔はぎこちない手つきで刀を受け取り、その予想を消える重量感のあまり驚愕した。カノンもまた、細剣だというのに予想外の重みを感じて唖然としながら、無言で会釈をして剣を手に取る。


 すると、それを見ていたシャロンが万遍の笑みで言い放った。


「ルーちゃん優しい!」


「その呼び方はやめろって言ってんだろ……」



 瞬間、麗翔とカノンは硬直した。何に対してかと言えば、それもまた単純なものだ。


「ルーちゃん? ルーちゃんってもしかしてこのオジサン? このゴツくて恐い店主がルーちゃん?何それ名前だけ可愛い」


 直後に麗翔は誰もいない方へ顔を向け、肩を震わせ笑いを堪えながら小声で呟く。

 しかし、そんな麗翔を呆れ顔で見るエリクが次に放った言葉で、再び麗翔は衝撃を受ける。何を言ったかというと──



「本名は『ドルーガ・バルディオン』だけどな」


「どこの国の魔王!?」


「まぁ確かに本名と愛称の差が激しすぎる気もするが……こんな見た目だし、少しは呼び名に可愛気がないとな」


 そう言ってエリクは微笑むが、ドルーガは納得いかないような顔でタコのように膨れて怒鳴りだす。


「俺の話はもういいだろ!? とにかく……他の新兵の剣術訓練は前からエリク達が受け持ってんだよな? だったら、そこにこの新米のガキ二人を急に入れちゃあ着いていけねえ。だからエリク、一つ提案だ」


 話に割り込み何らかの考えを浮かべたルーちゃん──改めドルーガ・バルディオンは、そこはかとなく悪そうな笑みを浮かべると、疑問のままに答えを待つエリクへ向けて言った。


「コイツらの訓練に関して、俺からレイヴァンに話をつけてやろう」


「本当か、助かるよ」


「……って訳だガキども、せいぜい頼れる兵士に育つんだな。この素手でも獣と渡り合える俺が応援してやる、獣殺しのドルーガとはよく言われたもんだぜ」


「人殺しのドルーガ……?」


「言いがかりにも程があるだろ!?」


 麗翔は慣れないイジリをしてみるが、割と反応が良くて安心する。そんな訳で、麗翔とカノンはレイヴァンの元で訓練させられる事になった。

 まず第一に思うのは、不安だ。レイヴァンの印象は最初から今まで変わる事なく「恐い」の一点張り。


 一度だけエリクを説得する際、優しさを見せてくれた事もあったが、やはり恐いものは恐い。


 ともあれ、ここでようやく武器も受け取り指導者も確定し、兵士として活動する準備が整った麗翔は悪い気分ではない。


 だが、これはほんの始まりの始まりに過ぎない。彼はまだスタート地点に立っただけなのだ。


 麗翔は兵士として、戦う者として。

 この先何を成し遂げるのか──



 そんなものは誰も知らない。

 未来を切り開くのは、誰でもない──麗翔自身なのだから。


 

* * * * * * * * * 




「って訳で、コイツら頼むわぁ!」


「……クソジジィが」



 場所は戻って兵団基地。街でやる事をあらかた終えて、麗翔とカノンとドルーガは、一足先に兵団基地へ帰ったのだ。


 そして、そこでドルーガが渾身の笑みで懇願するが、レイヴァンは早速暴言で返答した。とはいえこれも想像の範囲内だろう。

 彼を詳しく知らない麗翔から見ても、レイヴァンはそう易々と新米の世話をしてくれそうにない雰囲気を持っている。

 


 これは無理かと、麗翔はそーっと覗き込むように、下を向いたレイヴァンの顔を見てみる。そうした瞬間、彼の鋭い目と麗翔の目が合った。


 ギョッとして硬直する麗翔だが、レイヴァンはそのまま麗翔を見続けている。そのまま、数秒間沈黙が続き──



「チッ……いいだろう、育ててやるよ。お前らが選んだ、このガキ共を」


 吐き捨てるように乱雑な口調だが、彼は了承してくれた。その理由は今の段階では誰も知らない。しかし結果的には、麗翔とカノンはレイヴァンの元で訓練させてもらえる事になった。



「よーっし、そんじゃあ決まりね!」



 直後に張り切った声でそう言ったのは、麗翔のすぐ近くにいた少女。しかし麗翔は彼女に見覚えがある。彼女は最初の新兵紹介の場にいた者、つまりは麗翔とカノンと同じ新兵だ。


 かなり長めに伸びた薄い茶髪を下ろしている。年齢は恐らくだいぶ下だろう。現実世界でいえば小学校六年生か中学一年生くらいか、声や表情などの元気な様子もそれくらいの年代に近しい。



「……で、ドルーガさん? 訓練って何やるんですか? それにこの子……」


 ひとまず浮かんだ疑問を尋ねようとするが、ドルーガから返ってきた答えは案の定、



「オウ、まぁ頑張れや」



 それだけだった。

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