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無限に終わらない  作者: 睦月煉
第1章   邂逅と離別
31/50

幕間     それぞれの意思



 それから数時間が過ぎ、窓の奥では満月が薄暗い部屋を照らしていた。

 そこは昨晩にエリクが用意した部屋、つまりつい早朝までは麗翔と響希が寝ていた部屋だ。



 そして今その部屋にいるのは麗翔とカノン。だがその場は、押し潰れそうなくらい重々しい沈黙に包まれていた。



 麗翔はカノンを呼んで今後について話し合うつもりだったが、彼女は部屋の隅で体育座りをしながら顔の下半分を膝に埋めている。

 そして部屋に入れた張本人の麗翔は、机の前にある椅子に座って、気まずさのあまり無言でいる。


 それも、そのはずだろう。



 麗翔は記憶を遡らせ、響希が馬車を飛び降りてから約一時間後の出来事を思い出す。



 兵団基地に到着したエリクは、麗翔とカノンを連れて怪我も気にせずにすぐさま会議室まで行き、扉を強く開いて全ての報告をしようとした。


 だが、そこで知らされた重大な事実を聞いて、エリクは耳の側で大砲を撃たれたように驚いたのだ。



「魔石が……ない?」


「あぁ、地下で保管していた分がごっそりと消えてやがる。 それに加えて、お前の向かった南の街とレイヴァン副団長の向かった北の街は無事だったが……西と東の街では百人以上の住民が姿を消した」



 それを聞いたエリクは勿論、その後ろにいた麗翔もまた大きな絶望を感じていた。

 ラウロスが言っていたこと──俺の仕事は誰もいなくなった街を適当に荒らすだけ、というこの言葉は事実だったのだ。



 つまり例の組織は、王都に兵士が集まっていてただでさえ基地にいる人が少ない、ちょうどこの日を狙って。

 彼らは東西南北の大きな街で騒ぎを起こし兵士を呼び寄せ、その隙に組織の数人が兵士の減った兵団基地に忍び込んで魔石を大量に奪う。


 そしてあわよくば襲った各街の住民を連れ去る。

 そんな作戦だったのだ。



「そういう、事かよ……」



 すると麗翔は悔しそうに歯を食いしばってそう呟きながら、下を向いて頭を抑える。

 そして麗翔が遡らせた記憶は、響希との会話だ。



『任せてくれ、もう逃げない。取り返しのつかないことになる前に、きっと誰も死なせずに奴らの計画とかいうのを潰して、覆滅してやる』



 ちょうど、この早朝に。

 麗翔は響希にそう言ったのだった。


 だがそんな決意とは裏腹に、どんな結果になったのかは語らずとも既に知れている。彼は惨敗したのだ。



──ねぇ響希、僕さ



──何1つ、約束守れなかったよ



 心の中でそんな独り言を呟く麗翔は、虚ろな表情のまま涙目を隠そうと机の前に顔を伏せる。

 だがそんな時、部屋内の少し離れた場所から静かに自分を呼びかける声が聞こえた。



「……レイトくん」



 声の主は他の誰でもない、カノンだ。

 彼女にもたくさん迷惑をかけてしまって、もはや合わせる顔がない。話し合いのために部屋まで来てもらったというのに何たることだろうか。


 そして麗翔はゆっくりと、静かに「うん」と呟いてカノンの方へ顔を向ける。すると彼女もまたぼんやりと虚ろな瞳で床あたりを映しながら、口を開く。



「これから私達は、どうすればいいんでしょうか」



 その声はどこか寂しげな様子で、寄りかかるようにそう麗翔へ尋ねてくる。


 どうする事が正解なのか、もはや何が正しい事なのか麗翔にはもうわからないでいた。

 ただ感じるのは、この世界に来て唯一自分を深く知り、頼れる人間だった響希との離別による虚無感と孤独感、そして完全敗北した絶望感だ。



 そんな中で、麗翔は一つだけ再び出来事を思い返すと、はっと我に返ったように気付いてゆっくりと立ち上がる。



──目標でも決めて、胸張って生きろ、か



 響希が最後にくれた麗翔への言葉だ。

 それを心の中に収めて、麗翔はカノンの方へ顔を向ける。ここで今後の目的は決まった。



 いつか響希が戻って来た時のため、異世界と現実世界の謎に触れられるかもしれないため、無償で衣食住が揃うため、こんな取り柄のない麗翔でも努力して、胸を張って生きるため。

 そして、今の自分が最も救いたいと思う人──



 理由はいくらでもある、だから決めた。



「カノン……僕と兵士になろう」



 カノンは気が付いたように虚ろだった目を見開くと、上目遣いのまま麗翔を見上げる。そうして数秒の間隔が空き、場が沈黙に飲まれた瞬間。



「──はい」



 その時に何を思ったのか麗翔にはわからなかったが、結果は肯定。ともかく返ってきたそんな答えに麗翔は安堵した。



 しかし、これで決心が固められる。

 次なる麗翔の物語は、ここから始まるのだ。



 カノンや兵団と出会うという、大きな邂逅はあった。しかし響希とは離別したまま行方不明。再び再開ができる事を祈って、麗翔は胸を張って生きる。


 響希とカノンの二人が命を使って、ようやく拾われた麗翔の命。そして響希のいない今、麗翔がその大切な命を使う相手はカノン以外にいない。


 そんなカノンも恐らくは日本から転移した人間だ。ならば目的は一つ、それは麗翔、カノン、響希と3人揃って日本という故郷に帰ること。


 だからきっとカノンを救ってみせると、そう誓う。



 やがて彼は知るだろう。

 この邂逅と離別が、今後の麗翔を大きく変えていくと。



 ──再び始まる麗翔の物語を、形成していくと。





* * * * * * * * * 




 そこは兵団基地より遠く離れたところ。

 不気味なくらいに薄暗く、不穏な空気に溢れた場所だった。


 そこまで広くない部屋だが、密閉されていて月明かりすら入ってくることはない。そんな中で、寝台と寝台に横たわる人物が一人。そしてそれを囲うように眺める二人の人物。


 彼らはお互いに一定の距離を保って会話をしていた。



「こりゃ随分と質のいい器だね」


「シャグマと一緒に寝転がってた死体が……お前もそう思うかァ? ならコイツには特別イイモンをプレゼントしてやろうかなァ」


 そこで発せられる会話を含めたこの状況は、常人には全く理解できない異質なものだろう。寝台に横たわって眠る一人の青年を見て、二人の男が嬉しそうに微笑んでいるのだ。


「ただ、他は知らんが南に行ったアギロとラウロスは兵士にやられたと、今頃は牢獄かな」


「はァ、あいつらは俺と違ってただ街ぶっ壊して逃げるだけだろォ……たまたま兵士でもいたってかァ?」


「そうらしい、まぁその辺はシャグマがまともに会話できるようになってからだ」


「あァ、そう」



 そこで不気味な会話は終わる。彼らが何なのか、何の目的で行動をしているのか、今の麗翔達ではまだ知る由もないだろう。


 やがて二人いる男の内の一人が背を向けて、どこかへと歩き出した。しかし数歩歩いたところで、突如としてその足を止める。


 すると後ろ目でもう一度、寝台に眠る人間の姿をじっと見た。


「コイツ……まさかな」



 そしてふと、そう呟く。

 彼はそんな何かへの疑惑を抱きながら、呆然と眠る人間を睨みつけていたのだった。



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