26話 勇気の結果
5日も更新できなくてすみません。昨日やっと鬼畜な期末テストを乗り越え、やっと更新できました。
ひとまず今日は間が空いてしまった分、朝から書きまくったのでたくさん投稿します。
弾かれたように吹っ飛んでいったシャグマは、小屋の扉を勢いよく突き抜けながら外で転がっていく。
そしてそれはシャグマに限らず、その狂人を拘束して同時に吹き飛ばされた響希も同じ様子だった。
だが──
「ふ……ふふ、あっハハハハハッ!!」
吹き飛んだシャグマは、小屋からそこそこ離れた位置で速度を落として仰向けになる。そこで、狂気すら感じる歪んだ爆笑をしながらゆっくりと立ち上がったのだ。
その様子を見る限り、痛くて立ち上がるのに苦労する程度にはダメージを与えられたようだが、致命傷には至っていないらしい。
「右腕は折れてしまったが……これで今度こそ、君達は終わりだァ……! 私を怒らせた事、後悔するがいい、今すぐ君達を……いや、もはやその必要すらないかぁ?」
シャグマが途中で言葉を変更したのは他でもない、役目を終えた様子の麗翔と響希を見てからだ。
麗翔は魔法を放って数秒は立っていられたが、その後、魔力においても体力においても、とうとう本当に限界を迎えていた。
その結果、そのまま扉の前でそのまま脱力したように倒れたのだ。
シャグマを拘束して、熱い炎は当たらずとも魔法の衝撃によってシャグマ同様吹き飛ばされた響希も、もう動けそうにない状態で仰向けに倒れている。
「これが君達のしたかった事なのかい? 兵士ならともかく凡人の君らが? とんだ茶番だなぁ、私を吹っ飛ばしてその間に逃げようとしたんだろうが……それに力を使い切るなんて愚か者にも程がある。 今トドメを刺してあげようッ」
その言葉を聞いて地に伏せていた麗翔は、ゆっくりと僅かに顔を上げてシャグマを視界に入れると、息を荒げながら答えるように呟いた。
「ささ……」
「……ん?」
しかし今の弱った麗翔ではまともに言葉を発する事すら苦労する。
それでもこれまで受けた苦痛の数々、その恨みを晴らすようにもう一度、聞こえるように大きな声で言い放った。
「刺されるのはお前だ──シャグマッ!」
麗翔の言葉を言い終えたその刹那、シャグマの後方から太い氷柱が凄まじい速度で向かってくる。
「…………ッッ!?」
そして、それはシャグマが後ろを振り返るよりも早く────勢いよく腹部を貫いて、大胆に突き刺さった。
瞬間、シャグマはただただ困惑する。
そして唐突すぎる規格外の攻撃に驚きながらも、氷柱が放たれた方向へ顔を向けた。そこで、気付く。
「なぜぇ……貴様、がぁあ……ッッ!」
狂人は氷柱が通った軌道を遡るように、魔法の出所を確かめる。結果としてそこにいたのは────街の方へ逃げたハズのカノンの姿だった。
* * * * * * * * *
作戦その一。カノンは逃げたフリをして木の陰に身を潜め、シャグマの意識から完全に外す。
作戦そのニ。麗翔と響希がシャグマと戦い、そこで麗翔は毒を食らったと少しでも感じればすぐに死んだフリをしてシャグマの意識から逸らす。
作戦その三。響希の格闘力でシャグマの隙を作った瞬間、麗翔が火の魔法を放ってシャグマを小屋の外に出す。
作戦その四。それを合図にして、二人が戦っている間にカノンが魔力を溜めて準備しておいた太い氷柱を、外に吹き飛ばされて麗翔達へ怒りを向けるシャグマに突き刺して倒す。
麗翔が咄嗟に考えた単純な作戦ではあるが、当人の麗翔、響希、カノンがそれぞれ最高の活躍をした末に、この作戦は成功したのだ。
「あ……アァ、でぁ……」
シャグマは苦しみながら、横目で魔法を放った当人──カノンの方を見た。彼女はは嫌なものでも見るような目つきでシャグマを睨むと、すぐに目をそらす。
麗翔の作戦だが、純情な彼女が狂人にトドメを刺せというのだからカノンにとっては辛い役回りだっただろう。しかしこの場でそれができるのはカノンのみ、できなければ全滅するだけ。
そしてその点を麗翔も考慮して、あえて氷柱の狙いは心臓や首ではなく腹部とした。麗翔の恨みを完全に晴らすのであれば首を狙いたい限りだが、麗翔の腹いせと今のカノンは関係がない。
そう説得してカノンは作戦を飲んでくれた、その結果がこの勝利だ。
そうしてシャグマは白目を向きながら苦しそうに喘ぎ、膝をついた。その体は風に揺らめく程に弱っていて、もはや押せば倒れるのではないかというくらいに瀕死状態となっている。
そして、そのまま。
「まだ、私は……私は貴様らを、貴様らを貴様らをこの手で……そしてイ……いッ、石を……私が手にし、私が……私が私が私が…………あぁ…………」
麗翔にはとても理解できない、というよりも理解すらしたくない意味不明な言動を続けた後に──
「ま……だぁ、おわ……えな……」
まだ終われない、とでも言おうとしたのか。その真意は分からなかったが、そう言ってシャグマは静かに倒れ、その身を地に伏せた。
「終わった……のか」
響希は倒れていた自分の身体をゆっくり起こすと、疲れ果てたように目を細くして静かにそう言う。
そして麗翔はうつ伏せに倒れながらも、勝利の喜びを感じて脱力したように再び顔を伏せる。この瞬間、これまで異世界で起きた全ての騒動は完全に幕を閉じたのだと理解できた。
何度も何度も繰り返し、苦しみ、決して楽な道ではなかったが、その結末がこれならば最高の形で幕を閉じただろう。
だがそれでも、麗翔には喜ぶ気力すら残っておらず、立ち上がる事ですら苦痛に感じてなかなか腰を上げられない。
──まぁ、そりゃそうか……
麗翔は、前日のように疲れ果てて意識を失うよりはマシかと安堵して、途中まで上がった身体を再び寝かそうとするが──
その時、下を向いた瞬間。
目の前には小柄な影が視界に映った。それを見た麗翔に僅かな好奇心が浮かび上がり、同時にゆっくりと顔を上げてみる。
「────」
──そこにいたのは、麗翔に向かって手を差し伸べるカノンだった。
麗翔は差し出された白い手を泣きそうな目で呆然と見上げている。
倒れている麗翔と手を差し出すカノン。その光景がまさに、カノンが死んでしまった別の世界線で、初めて麗翔がカノンと打ち解けるきっかけになった場面とあまりに似ていたからだ。
「あぁ……やっと、また……」
麗翔は涙で瞳を潤わせながら、和やかに微笑んだ。
その瞬間、たったそれだけの記憶と一致していただけで、ここに至るまでの全てが、苦労も苦痛も何もかも全ての記憶が一気にこみ上げて来たのだ。
カノンは不思議そうな顔で首を傾げるが、わからないのも無理はない。むしろわからなくていい。こんな苦行を背負うのは麗翔一人で充分だ。
爆発音が聞こえたかと思えば突然時間が巻き戻る。カノンと仲良くなれたかと思えばラウロスに殺される。兵士と共に組織を一網打尽にしようとすれば予想外の事態が起きすぎて全滅。
響希を殺されカノンを殺され何度も諦めようとした。それでもそこで心の励みとなったのが、響希でありカノンだ。
彼に背中を押されて彼女の背中を追いかける。
三人がそれぞれ、お互いの欠けた部分を補い合う。そんな三人で勝利を収めた。
あの時に響希が麗翔を励まし、麗翔の背中を押してくれたことがどれだけ麗翔に勇気を与えたのか。
あの時カノンが手を差し伸べて、麗翔にこの子を救いたいと思わせた事が、どれだけ麗翔に勇気を与えたのか。
そんなものは計り知れない。
そうして麗翔は軽く微笑み、差し出された白く小さな手を固く握って、ゆっくりと立ち上がったのだった。




