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無限に終わらない  作者: 睦月煉
第1章   邂逅と離別
20/50

19話    凡人は抗う




──このタイミングで、くるのかよ



 暗い淵に引きずり込まれたかのような絶望感だけが、麗翔達の心を覆っていた。


 ラウロスがまだ少し戦えそうな様子でいるというのに、そこで更に、元気そう──というよりも気持ち悪いくらいに幸せそうな顔をしたシャグマの出現。



 対してこちらは、近接戦闘しかできない響希と、魔法も近接戦闘も中途半端な麗翔。そして膨大な魔力を使いすぎて疲れ果てているカノン。



 誰が見ても一目瞭然。明らかに絶望的な状況だ。



──どうするべきだ、どう乗り越えるべきだ、どう生き残るべきだ



 もはやこの場から生きて帰る事すら無謀に思えてくる。またも響希やカノンを死なせ、0時に巻き戻ってしまうのか。結局自分は何も変わらずただの無能だったのか、此の期に及んでそんな事を麗翔は考えていた。



「もう誰も、死なせない」



「レイト……?」



 感情のままに呟いた一言に、響希は困惑した。彼だって作戦を立てる役割を担っていた麗翔がこんな状態であれば困るだろう。戦闘どころか指揮にも役立たないとなれば麗翔の存在価値はどこにもなくなる。



 だから、今すべきは明確な目標の提示だ。そう思った麗翔は、決意と共に立ち上がった。



──考えが全然纏まってない、だけどやる、体を動かしながら頭を動かすだけだ! 子供っぽいラウロスの性格になら付け入る心の隙がある……!



「響希、カノン。ラウロスは僕が絶対どうにかする、だから僕が戻るまでもう1人の男を頼みたい。もしもの時は自分の命最優先でね」


「あの、何を……」



 弱った声のまま、カノンは上目遣いで尋ねてくる。きっと作戦がこんなにグダグダになってしまって失望してるだろう。

 ここでラウロスをどうにかするハズが、予想外の巨大な魔法を使われ、そこにシャグマまで乱入してきたのだから。



「今来た男は毒を使う、気軽に接近しないようにして。カノン、残りの魔力はどれくらい?」


「最初の四割くらいしか……」


「そっか……響希、カノンをお願い。カノンも魔法でできるだけ耐えてほしい、いざとなったら無我夢中で逃げて」


「あぁ、任せろ」

「はい……」



 2人の返事を聞いた麗翔は、頰に汗を浮かべながらカノンと響希にぎこちない小さな笑みを浮かべると、ラウロスに顔を向けて言い放った。



──こんなことするのは初めてだけど、こいつの気を引くにはきっとこれが……!



「ラウロス、お前って結構弱いよな」



「──は?」



「正直言って初めから、幼稚でガキっぽいとは思ってたけど、無鉄砲に魔法バンバン出しちゃってそれも防がれてるとか恥ずかしくないのかな? 肉弾戦だって兵士でもないヒビキにすら歯が立たなくて、腹パンされた時も苦しそうな顔をしてたよね、正直言って傑作だったよ? 街ではかっこつけて派手な魔法使ってたのに、腹パンされた瞬間に驚いたフグみたいな顔しててさぁ……」



「お前それ挑発のつもりかよ、全然効いてねぇぜ?」



「あっごめん、あまりに幼稚な性格だったからつい子供相手みたいな挑発かましちゃっ──」


 さらに挑発の追撃をかまそうとした麗翔を見て、ラウロスは瞬時に火球を生み出し麗翔めがけて飛ばした。


 麗翔はその攻撃にギョッとしながらも紙一重のタイミングでギリギリ回避する。するとラウロスは麗翔の方へ静かに歩き出した。



「あっ……ぶな」



「随分余裕があるみてぇじゃん、お前からぶっとばしていいんだな?」



──火球が遅いし小さい。 魔力が残り少ないのか、ならきっといける……!



「かかって、こい……えっと、ハゲ!」



 正直に麗翔の現在の心境をいえば、それは恐怖だ、むしろ恐怖でしかない。一度殺された相手に挑発をしているのだから。


 しかし、そこで引き下がればカノンや麗翔を再び死なせることになる。その惨劇を繰り返すわけにはいかない。だから麗翔は、震えそうな声でも、引きつった笑顔でも、挑発ができたのだ。

 そしてその挑発にラウロスは見事に乗った。



「誰がハゲだこのビビリ野郎、陰でビクビクしてたお前がやっと真面目に戦う気になるとはな、上等だ」



──挑発に挑発で返すあたり本当に幼稚で助かった、このままここから引き離す



 そして麗翔はすぐに森の奥へと走り出す。

 それを見たラウロスも歯を食いしばり、気に障って鬱憤そうな顔をしながら追ってきた。



──できるだけ、遠くに!!



「逃がさねえよ!」




 ラウロスは魔法で生み出した火球を幾つか飛ばすも、麗翔はそこら中に聳え立つ樹木を盾にして鼠のように逃げ回っていた。



「くそ、ウロチョロと……!」



 走って、走って、走る。

 これだけ太い樹木が並ぶこの森なら、魔力をかなり消耗したラウロスの火球くらい幹を盾にすれば防げる。



 自分が疲弊してることも気にせず険しい顔で火球を連発するが、それは全て麗翔の目論見通り、太い樹木によって防がれていく。



「こんな森で当たるわけないのに凄い……あいつバカだ、いけるかも!」



 そんな風に若干調子に乗り、今まで極限まで気を引き締めていたのが少し緩まったのを感じる。しかしラウロスが苛立ち始めた様子になった頃、同時に麗翔も息切れを感じていた。


 それでもカノン達に影響が及ばない位置までラウロスを連れてくる事には成功したのだ。


 そうしたら、次やるべきは決まっている。



──逃げるのは、ここまでだ



 すると麗翔はスマホをポケットから雑に取り出し、とある操作をした。そして鬼の形相で追ってくるラウロスを後ろ目でちらりと見ると、茂みの中に埋まるように飛び込んだ。




 数秒後、麗翔を見失った様子のラウロスは立ち止まって辺りを見回す。



「あ……? どこに隠れた?」


 

──呼吸は最小限に、草の音も立てるな



 怒りと困惑を兼ねたような表情のラウロスをひっそりと見ながら、それだけを自分に言い聞かせ、時が過ぎるのをひたすら待つ。

 そしてそのまま、この貴重な羽休めのできる短時間で、状況を整理する。



──今までのあいつならすぐに、自分の周囲を爆破させてでも僕を見つけるハズだ、それをしないってことは……



 魔力が限界に近い、そう考えるのが無難であろう。カノン程の疲れは見せないが、それでも痩せ我慢しているかのようにラウロスは息を切らしていた。



「クソ、腰抜けが、とっとと──」




 その瞬間、ラウロスは言葉を続ける事なく驚いた。



 その原因となったのはスマートフォンのアラーム。

 それはラウロスの言葉を遮るように、そして糸が切れるように突拍子もなく、彼からすれば全く聞いた事がないであろう無機質な音を大きく鳴り響かせたのだ。



 波のように鼓膜へと伝わるその音は、魔力を少なくして焦りを見せる緊迫状態のラウロスにとって凄まじいものだった。



「──!!」



 そしてラウロスは声を上げる事も忘れ、脳を回転させるよりも早く、ただ反射的にその音の方へ体を向ける。

 そのまま音の主の方へ火の魔法をぶっ放した。




 しかし魔法による爆裂音が轟き、耳から入る情報の全てがその音によって支配された瞬間、ラウロスは同時に2つの不覚に気が付く。



 魔法によって散らされた茂みから飛んだのは、黒く四角い物質。


 麗翔の目線でいえば、それはただのスマートフォンが音を鳴らしているだけに過ぎない。しかし、そんな物を知らない異世界人のラウロスが、それが音の正体だと気が付く頃には──もう遅い。



「ふ──ッッ!!」



 麗翔は、背後からラウロスの後頭部に石をぶつける。さらにそれによって怯んだところを見て瞬時に、欠かさず自分の片腕をラウロスの首に巻いて圧迫した。



「て、めェ……ッ」




 立った状態で悶え苦しむラウロスを見て、麗翔は彼にあまり力が残っていないことを察する。



──石の打撃も当たった、疲弊してる、魔力も少ない、きっと気絶させられる……!




 察しの通りラウロスの首の気管は圧迫され、微かに聞こえる呼吸もか細いものになっていた。

 


──そのまま、落ちろ!!



 

 と、麗翔がより腕の締めをきつくしようと力を入れた瞬間だった。事はそううまく運ばなかったのである。



「く……そ、がァァアア!」



 残りの少ない魔力で身体強化をしたのか、背後から首を締めていた麗翔は強引にその腕を外される。



 そしてすぐに、怒号を上げるラウロスによってその身を担がれ、麗翔は木に向かって投げ飛ばされた。

 背中を打ち付けられる強い衝撃を味わい、すぐに立ち上がる気力が湧かない。



「石殴りだろうが首絞めだろうが、そんな力じゃ効かねぇんだよ……!」




 そう言いながら病人のように息を切らしながらも不敵に笑うラウロスは、躊躇うことなく麗翔へ手を向け、そこから紅色の魔法陣を展開。



「……あ」




 麗翔がそれを回避する猶予は愚か、立ち上がる間すら与えることなく、麗翔が顔を見上げた瞬間にラウロスは火球を放つ。




 麗翔は無理矢理、必死に横へ緊急回避するが、それでも明らかに火球による爆発の影響が及ぶ位置だ。





 すぐに轟音と共に火球が樹木に直撃して爆発が起こる。そして──




「──ッッ!!」



 そのまま麗翔は強く吹き飛んだ。

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