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無限に終わらない  作者: 睦月煉
第1章   邂逅と離別
17/50

16話    衝突


 ──組織の計画を潰す。


 事前交渉が終わり、その反撃の二文字が具体性を帯びてくれば、その後の関係者の動きは素早い。


 場所は兵団基地の正門前。

 エリクは宣言通り数人の手練れのような兵士を連れてくるが、何となく数が少ないような気がした。


「急に連れてきてごめん」


「一応恩はありますし。構いませんよ」


 麗翔はできるだけカノンを危険に晒したくなかった訳だが、状況が状況だけに仕方がない。だが、魔力の凄まじい彼女がいれば百人力だろう。

 そして、その場には作戦に向かう全員が揃った。



「これで全員か」


 数えてみるとその数は、静かにそう呟くレイヴァンと、彼の部下であり彼をよく慕っている様子の3人の兵士。

 そしてエリクと、エリクを慕っているアモネ。

 さらには、たまたま北の街に用事があった3人の兵士。

 最後に麗翔、響希、カノンの3人。


 集められたのは12人が限界だったのだ。

 


「はい、これで全員です」


 エリクはそう答える。

 まず前回のループの時と違うのは、まだ事が起こっていないということだ。つまり全ての兵士が快く警備を引き受けてくれる訳ではない。


 何せここからでは馬車を使っても1時間以上はかかる場所に、あやふやなヤマを張って向かおうというのだから。



「東の街は俺と合わせて2人でも構わん、他の街に人数を割く」


 強情らしい、人に迫るような顔つきでそう言い放つのはレイヴァンだ。12人いるなら4で割って3人ずつ各街へ行けばいいという考えが普通だが、何とも強気な考えだ。

 純粋な戦闘力のない麗翔や響希がいる時点では妥当な判断だろうが、そのいとまがないにしろ心配にはなる。


 何故なら大抵の創作物において、そういった言動はまさに──


「死亡フラグといいますか……えっと、大丈夫なんでしょうか……?」


「この人数じゃ仕方ねぇだろ、それとも無理に粘って人集めをして、お前の言う刻限……8時を過ぎてもいいのか?」


「いえ、それに関しては異存ありませんが…」


「俺の心配ならするだけ無駄だ、戦闘に関していえば俺以上の存在がこの場にいないからな。するなら自分の心配をしろ……お前の方は、まともに経験のある人間がエリクしかいないだろう」


 南の街、ジュードに向かうのは麗翔、響希、カノン、エリクの4人だ。これ以上人数が割けないため、駆けつけてくれたアモネは別の街へ行くことに。


 アモネには麗翔を命懸けで救ってくれた恩が前回の世界で存在するが、その恩を返すのは先になってしまうということだ。


──まぁ仕方ないか、今は自分の心配をしよう。


「ともかく、馬車の準備もできたようだし行こうか。 君達も乗ってくれ」



 そう言ってエリクは馬車の御者台に乗り出す。続いて麗翔、響希、カノンも屋形に乗り込んだ。

 同時に東へ向かうレイヴァン班や、その他の班も馬車に乗って移動し始める。




「行くぞ──」


 

 エリクは手綱を引いて馬を走らせ、ジュードを指して向かって行った。



* * * * * * * * * 



「街に着いたよ、降りてみようか」



 しばらく馬車に揺られていると、ジュードの街に到着する。

 カノンは相変わらず静かな様子だったが、響希は麗翔の真剣さに気付いたのか前回ほど興奮した様子を見せなかった。


 さらに、それと同じくに、早朝だからなのかあれ程賑わっていた街は静まり返り、人すら見えないという様子だった。


 しかしどこからも煙が上がっておらず、騒ぎも起こっていない様な様子を見て、麗翔は安堵の息を漏らした。


 

──これだけ大きな街だ、まだどこで何が起こっているかはわからない



 そうでなくともこの静けさは、あまりにも不気味すぎるのだから。



「街を回らせてください、きっと奴らがどこかに潜んでいるハズなんです」


「あぁ、そのつもりだよ」


 こうして彼らは街の探索をする。





 しかし、そのまま数十分探索しても一向に変化が訪れない。


──おかしい、そろそろ出てきてもいい時間だ、兵士が来たことに気付いて怖気付いたか……?


 妙な困惑を感じながらも、麗翔はそんな事を考えて、難しい顔で歩き続ける。

 

──そういえばまだ、アジトについて話していなかったな



「エリクさん、南の方へ行くと海があるんですが、その近くの森に──」



 しかし、麗翔がそれを言い終える直前だった。




 

 忌まわしい思い出が、記憶が、トラウマが、古井戸の底から這い上がってくるように蘇った。


 時間にして一瞬ほどのその鮮明な映像は、前触れもなしにやってくる。予兆もなければ、猶予もない。全身が震えるような感覚と共に鼓動は高く、速く、大きくなった。



 その原因となったのは、他でもない。

 麗翔の耳を通り、刹那にして全身に再び恐怖を刻み込んだ「音」だった。



 地軸もろとも引き裂くような爆発音。それに関連した恐怖の思い出が麗翔の記憶の中にあるとすれば、それは1つしかない。




「オイオイ……早速もう兵士さんがいるじゃんかよ」



 不敵な笑みをこぼし、爆炎によって崩壊する数々の建物から跳んできたのは、橙色の髪の毛を爆風に靡かせる青年。

 麗翔は歯を食いしばり、その名を呼んだ。



「ラウロス……!」



「ア? 俺いつ名乗ったっけ?」



 ラウロスはまだ倒壊していない別の建物の屋根へ飛び移った後に、何故か自分の名前を知っている麗翔を見ながらそう呟いた。



 しかし、その間は兵士にとって好機でしかなかった。先程まで隣にいたはずのエリクはすぐさまラウロスの方へ飛び上がり、振りかぶった右腕に翡翠色の魔法陣を展開させていた。



「──捉えたッ」



 その言葉と同時にエリクの振った右腕から強く放たれたのは、途方もなく巨大な風の刃。



 風の刃は、真っ直ぐとした軌道を描き、ラウロス目掛けて飛んでいく。



 しかし、目にも留まらぬ速度で空気を切り裂き続けるそれが、ラウロスに当たる少し手前で──



「やはりあの時、殺すべきだったかな」



 エリクから衝撃波のように飛び出した風は、粉砕する氷の盾と共にただの空気として消え去り、その攻撃は防がれた。



「な……」


 虚を衝くように仕掛けた攻撃は直撃せず、エリクは驚愕する。



「次から次へと……ッ」



 そして、またも突如現れた赤髪の男──アギロの介入を見て、麗翔は内に憤懣を感じながら空しく苛立つ。



 しかしエリクの魔法が当たらなかった事によって生じた猶予を、ラウロスは見逃さない。



「──エクリクシス」



 ラウロスは、麗翔が聞き覚えのない単語を静かに呟いた。それと同時に、目が染まるくらい鮮やかな真紅の魔法陣が、ラウロスが手を当てた建物の屋根に大きく展開。



「──ッッ!?」



 それを目にした麗翔からすれば、それがどんなに危険で、とんでもなさそうな魔法なのかは何となく察知はできる。


 そもそも麗翔の記憶の中で響希が2回も爆炎によって命を落としているのだ。今回も同じように響希やカノンを失う訳にはいかない。




 麗翔は即座にカノンと響希の手を引き、近くの建物に猛ダッシュで連れ込んだ。



「カノン、強い衝撃にも耐えられそうな氷魔法で僕らを包み込むことはできる!? というかやってほしい!」



 エリクは自衛できるとして、今の麗翔と響希はカノンの魔法に頼る他ない。突然そんな事を頼むのも申し訳なさがあるが、それだけが今現在の危機を逃れ、3人一緒に助かる為の手段なのだ。



「え、でき……あっ、やってみます!」



 案の定、カノンも唐突すぎる焦燥に駆り立てられたような表情で返答する。申し訳ない事に「できるか」ではなく「やってほしい」と無理強いをするしかないのだ。



 後できちんと感謝を伝えなければと、そんな事を麗翔が考えた頃には既に、彼らの周囲一帯は凍てつくように冷めていた。




「ふ──ッ」



 カノンが声を上げると同時に3人の全方位からクリスタルの宝石のような色をした魔法陣が次々と出現する。



 そしてそれに包まれた麗翔達は、あたかも冷凍庫の中に閉じ込められたような──というよりも、まさにそこは冷凍庫の中といってもいい。




 そしてすぐにその場は、分厚い鏡のように蒼白い氷で囲まれる。


 それと同時にぼんやりと見える氷の外の景色は、爆炎に飲まれていた。そして何度も、耳を聾する様な炸裂音が氷の中にも響いてくる。




 やがて爆発音が鳴り止み、爆炎や黒煙によってよく見えなかった氷の外の様子も何となく静まり返ってきた頃。



「ありがとうカノン、多分もう大丈夫」


「はい……」


 そういうとカノンは疲れを吐き出すように小さく深呼吸をすると、氷は静かに蒸発していった。



 氷という視界を遮る鉄壁がなくなってからゆっくりと辺りを見渡すと、そこにあったのは数十個にも及ぶ建物の残骸。


「なんだよこれ……」


 響希が隣で血の気が引いたような顔をしている。

 しかし、麗翔には1つ疑問が残っていた。



──そういえばおかしい、前回のループでもそうだったけど死体が全くない。それどころか、さっきから街の人達の姿どころか悲鳴すら聞こえない。



「どういうことだ……」


 次々と出てくる疑問の多さに、麗翔はそんな言葉を溢した。その直後、



「3人とも無事か!?」



 建物の残骸から発せられた煙からそう言って出てきたのは、黒煙や砂によってその身を汚した様子のエリクだ。

 幸いな事に怪我をした様子はない。



「エリクさん……!」



「俺も咄嗟に魔法で防いだが、その隙に奴らを見失ってしまった」


「そう……ですか」



 麗翔は顎に手を当て、考え込むようにその言葉を小さく呟くように繰り返した。それはエリクの失態について何かを言うと言うわけではない。

 するとエリクは黒い固形物──恐らく通信機器である魔法具を片手にして言った。


「ひとまず組織から増援を呼んだ……が、すぐにはこれないだろう、どうしたものか」


 そしてエリクは訝しそうな表情で麗翔を見つめる。カノン、響希も同じような様子で、この先どうするべきかわからないといった感じだ。


 しかし、何度も敗北を味わった麗翔には今すべきことがわかる。もっと言えば、今行く場所までも把握している。増援が来るまで奴らは待ってくれない。


 そう、向かうべきは当然──



「奴らのアジトを知っています、案内させて下さい」



 そう言って麗翔は、立ち上がった。

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