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無限に終わらない  作者: 睦月煉
第1章   邂逅と離別
15/50

14話    反撃の濫觴

短めですが、ここからやっと反撃の始まりです。





「あ──ッッ!」



 意識が覚醒した瞬間、目に映ったのは天井だった。呼吸が酷く乱れ、身体中から汗が流れている。

 気が付くとそこは数時間前に自分が寝ていたベッドの上。気怠い身体を起こし、カーテンの隙間から見える窓を覗いてみると、外は宵闇のように真っ暗だった。


 スマホの指し示す時刻は0時00分。普通に考えて時間が巻き戻ったと考えるのが妥当だが、麗翔はその記憶を思い返してみる。



 時間が巻き戻ったという事は、自分の死後にカノンも殺害されたという事だが──すぐに麗翔は、恐怖と絶望の渦に飲まれた。思い出すのも恐ろしい、記憶に存在する映像が脳内で鮮明に再生される。




 小屋ごと爆散され、惨殺された響希。鋭利な大爪に、無慈悲に切り裂かれて息絶えたアモネ。麗翔の目の届かない場所で人知れずアギロとラウロスに果敢に立ち向かい、死亡したエリク。


 そして──自分の首に刃物が突き刺さった記憶。


 麗翔は改めて自分の首、喉仏に指で触れてみる。そして軽くそこを押す。それだけでも苦しく感じる人体の急所がノドであり首だ。


──これが指じゃなくて太い刃物で、これが今触れている喉の皮と肉をぶち破って……


 自分はそのノドに、勢いよく刃物を突き刺され、死亡した。皮膚をぶち破り、肉を貫いた刹那の感覚は、もう一生忘れることができないだろう。



 その指先は何にも触れていないにも関わらず、細かな震えを発していた。それは指先から次第に腕へと伝わり、しまいには全身を襲う悪寒と化して麗翔を締めつけ、思い出すことそのものが恐怖へと繋がっていく。


「なんだよ、あれ……もうどうしようも……ないだろ」



 思考は負の螺旋を繰り返し続けていた。

 震えは止まず、堂々巡りを続ける陰鬱な思考は光明さえ見出せない。


──奴らの事はもう忘れるか?忘れて街一つ犠牲にして、知っているハズのアジトも隠したまま兵団で過ごすか?


 とはいえそんな勇気はない。

 けれども立ち向かう勇気もない。


 なにをどうすれば前に進めるのか、立ち止まったままでいないで済むのか、その糸口すらも今の麗翔には掴めないでいた。



 そんな中、この世界で最も信頼できる存在が声をかけてくる。



「どした?」


 眠そうな目を右手で擦りながら、こちらを気にかけてくれるのは響希だ。


「ごめん。もう、どうすればいいのか、わかんないや」


 大儀そうにそういうと響希は不思議そうな顔で見つめてくるが、それも当然だろう。彼は自分が惨殺されたことを知らないのだから。



「……?」


「また、過去に戻ってきたんだ」


「過去にって…カノンが死んじまったってこと……か?」


 カノンも響希も守ることができず、そのくせしてアモネに守られアモネを死なせ、挙句の果てに自分も犬死と。

 なんともまあ、どうしようもない無様さだ。


「あぁ、この後僕らは昨日の組織と再会する。そして僕は……何もできないまま、みんなを死なせた」



 そういうと響希は、些か呆気にとられたような表情を見せる。すると響希は数秒「うーん」と言いながら考え込んだ末に、相変わらずアホそうな顔で言った。


「でも今は、生きてるぞ?」


「え、あ、いや、でも別の世界線の君を死なせてしまった訳で……」


「でも俺生きてるし、そんな気にならねーかな」


「え……」



 響希を死なせてしまった事を伝えても、彼は気にする素振りを全く見せなかった。



「俺バカだから、難しいことはわかんねぇけど……むしろまぁ危険を教えてくれて助かったって思うわ」


 なんて気楽なものだろう。自分もそんな風に何も考えず気ままに人生を堪能してみたいものだ、と麗翔は思う。


「羨ましいくらい、気楽だね」


「だろ? でもお前は色々深く考えすぎ」


「僕も、君を見習わないと……いけないな」



 建前ではなく、本心からの言葉だった。

 いつもウジウジと優柔不断で、これをやったら嫌われるかも、これは言わない方がいいかもだとか、いつも余計なことを考えて生活してきた。


 その結果が、今のコミュ障の自分だ。自分の弱気さが自分を苦しめたのだ。

 

 異世界にきてからの人との交流は、全て響希頼り。それどころか、異世界に来る前に怪物に襲われた時も、異世界にきて魔獣に襲われた時も、いつだって麗翔を守り、先に戦ってくれたのは響希だ。



 ラノベをよく読んでいた麗翔ならよくわかる。異世界転移された主人公とは大抵、強くて頼りになる存在なのだ。そう考えれば自分は脇役で響希が主人公、そんなことは一目瞭然だ。もはや自分に存在価値なんてないように思えてくる。


 響希が魔力を持たなかった人間だったことだって、きっと主人公特有の特別な理由があったに違いない。魔力を持っているにも関わらず大した戦力になれもしない自分になんて、存在価値は───



「なんかすげぇ難しい顔してるけど、見習う必要なんてねーよ? てかむしろ見習っちゃだめだぞ?」


「────?」


 彼は何を言っているのだろうと、麗翔は不思議に思う。前日負ったケガだって自分を守ったせい、もっといえば自分が焦って、何が起こるかもわからない危険な夜中に行動してしまったせいだというのに。


「いやいや、不思議そうな顔すんなんっつの。当たり前だわ、俺が響希でお前は麗翔だろ? 俺は脳筋だけど、お前はいろんな考えができる。俺がお前の立場だったら、ここが異世界だとかカノンが死ぬと時間が巻き戻るとか、そんなん気付くのに100光年はかかるぞ?」


「光年って時間じゃなくて距離の単位……いやそれよりも、僕は実際に無能だったんだ。いざ事が起きてみればすぐ無能になる。もしも僕みたいな人間が主人公のラノベなんて存在したら、批判ばっかで荒れまくるよ」


「その辺はわからんが、そんな気にすることねーよ。お前のその嫌な記憶は今後に生かせる。誰だって急に異世界放り込まれたら無能になる。カノンが死ぬことで時間が巻き戻るのは可哀想だが、カノンが無自覚に与えてくれたチャンスだろ? だったら尚更、弱気になってる暇なんてねーぜ」




「どうして響希はそこまで──」


 そう尋ねると響希は立ち上がりつつ、言った。



「だって俺ら友達だろ?」



 響希は当然のように、考える間もなく即答した。1+1を答えるように、周知の事実を述べる。




──あぁ、わかりきったことを聞いたな



 そう思い麗翔は苦笑しながら立ち上がる。すると響希も優しく微笑みながら続けて言った。



「麗翔が俺みたいでいる必要はねーよ、お前は麗翔としてすっげぇ頼りになるんだ。だから頼むぜ? これからも」



 こんな情けない自分を頼ってくれる人間がいたのだ。力及ばずでも、必死に期待に応えるしかない。それが麗翔なりの、異世界での生き方なのだから。だから麗翔も微笑み、答えた。



「任せてくれ、もう逃げない。取り返しのつかないことになる前に誰も死なせず、奴らの計画とかいうのを潰して、覆滅してやる」


「おう」


  今だって麗翔は自分が好きになれない。けれど響希がそんな自分を頼ってくれるのなら──



──戦おう。



 そう、麗翔に強い覚悟と勇気を与えてくれるのだ。

 彼がいる限り麗翔は戦える。だから、戦う。



 ここからが────反撃の濫觴らんしょうだ。



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