黒崎一護(34歳)の日常。
黒崎一護まさかの某有名漫画のヒーローと同じフルネームを持つため、さんざんネタにされ続けて生きてきたため挨拶がたいてい「はじめまして、黒崎です。」になり、決して下の名前を教えないと本人は頑張っているのに、周囲が面白がってすべてをバラされてしまう苦労人。
たまたま、涼風の中で珍しく文系に強い、正義感が強いとそろっていたため、年下たちに政治経済専門に勉強を教えていたら「この個性豊かすぎるメンツが何かやらかした時にこそ、法律の力が必要なんじゃないか」とひらめき、警察官志望から弁護士志望にチェンジして、3年間司法試験に落ち続けるも、めでたく弁護士となり最近仙台に帰ってきました。咲也がバトンタッチして東京に行くことになった際に、団長としての仕事も引き継ぎ、実質的に現在の劇団を支えています。
また、仙台のバスケチームに所属しているも、補欠が多く、また何故か関係者が見に来るときはほぼベンチという完璧にネタを持っている人です。
最近の悩みは「アラサーアラサーとネタにしてきた弟妹たちがアラサーとなり自分は、あと一年でアラフォーとなる事実から目を背ける方法が思いつかないこと」と「見合いを真剣にすすめられること」。
「さーてと、今日中に片づけておくのは不良債権のやり取りの方かなー。」
机の上に山積みになった資料をファイリングしながら、手帳を確認して、優先順位を考えていくという作業にもようやく慣れてきた。「正義を貫きたい」とかっこつけて弁護士になったのはいいけれど、それなりに苦労しているし、苦労してきた。
特に自分の関わる人たちからの法律相談は、気が重くなる。
いつだって正しくありたいと思えば思うほどに、「正しさの定義」が重くのしかかってくる。
不良債権を出してしまったのは確かに問題事項だ。でも、それを必死に返そうとする人と当たり前のように踏み倒そうとする人、その2つをひとくくりにして判断することはできない。
今になって思えば、向いていない仕事についたとも思ってしまうほどにバカ真面目さで上から怒られることも多い。
「…そういや、そろそろ劇団の方の決算もやらないとだよな…さすがに二月はやること多くて手が回らないけど…今年は予想外の理解者ができたからな。」
予想外の理解者一人目は総務部に就職した七海ちゃん。会社の仕組みを学ぶ場にいるために、どんな手順でお金が動くのかなどを理解し始めたのが地味に助かっている。
もう一人は神山信也。一度は辞めたのだが、彼も今年自衛隊に再入隊して活躍している。正義感の強さは、もしかすると負けるかもしれないとさえ思いつつある。
どちらかというと、色の濃い兄弟たちに囲まれて、自分を見失うことの多かった信也とは、昔からからかわれ仲間としてよく話していた。
バスケが趣味という共通の話題もあって、仲も悪くはなかったが、受験に備えて東京に行ったあたりから、お互いに豆ではなかったために距離ができてしまっていた。
なんとなく、それを寂しいと思っていた。
咲也となら口論になることでも、信也とならちゃんと話し合うことができる。お互いにそんな関係と距離感を持っていた。
七海については、咲也から様子を見るよう頼まれていることもあり、よく会うが、信也とはそうでもなかった。何か理由をつけないとならない。
何気なく、電話を手に取るとそのままコールボタンを押した。
「よぉ、兄弟、これから正義について話でもしないか?」
「…拒否権は?」
「ないよ、拒否られても話したい気分だから。」
「めんどくさい…。」
「なら、咲也も呼ぶか?」
「分かったよ…。」
「さすが信也、頼りにしてるぜ。」
「…調子いいな。」
自分でもなぜかわからないけれど、信也相手にはやや意地悪なことを言ってしまっている。
自分が大人だとは思わないが、信也は大人びている。
一時期は本当に咲也を目指しキャラ変えを図っていたが、この必要最低限のことしか話さないテンポに逆に安心している団員も多い。
太陽と月のようにどちらもなくてはならないものだ。
「…社会情勢を見すぎたせいか。」
「…?なんだ?」
「いや、ただの独り言、じゃあいつもの店予約しとくから。」
「…わかった、あとで。」
親が警察官。親が自衛官。
幼いころから適度に「現実」を教えられて生きてきた者同士、波長が合うのかもしれない。
以前、咲也も交えて三人で飲んでいた時に、同じように「正義」について語り危なく殴り合いになりそうになったことがあった。
完璧主義者の咲也は「すべてを守る」と言い
現実主義者の信也は「自分の手の届く範囲を守るためなら切り捨てる」と言った。
「切り捨てる」という表現にひっかかった咲也と「現実を見ないで理想を語ること」にひっかかった信也が互いに互いを論破しあい…俺は全く口をはさめずに見ていた。
咲也はすべてを守ろうとして自分を捨てがちだ。
そして、本当にわずかでも手から零れ落ちたら悲しみに暮れる。
信也は大切なものを守ろうとして誤解を受けてしまうことが多い。
そして反面では、切り捨てたものをいつまでも引きづりながら生きてしまう。
どちらも不器用なんだ。そして、どこまでも純粋だ。
どちらの掲げる正義も否定したくなかったし、自分は第三になるほどの意見を持っていなかった。
…じゃぁ、俺は?
俺の正義ってなんだ?
「あぁ、そっか…そんな不器用な奴らの正義を守ってやることか…。」
苦笑いをしながら、やはり弁護士になってよかったと思った。
誰があいつらを否定したとしても、あいつらが正しいことをしている限り、俺はもてる力のすべてを使って守ってやることができる。戦ってやることができる。
純粋でまっすぐなものは脆く壊れやすいから、それを貫けるように俺が剣となり盾となる。
そう考えている自分が一番不器用な気がして笑えた。
はじめからそうだった。
どこか社会や家族になじめない生き方の不器用な子どもたちを集めて作った家族。
それが涼風だ。
「黒崎さん、クライアントから電話きてますよ。」
「…ありがとう、代わるよ。」
手元に置いてあった古い集合写真を軽く撫でたあと、思いっきりの笑顔を声をかけてきた社員に向ける。
ちょっと驚かれてしまったのか相手は固まったけれど、俺は俺で、俺らしく正義や夢を追う者たちを支えていきたいと思う。
日々、悩みながらも誠実におのれの仕事とからかわれながらも真面目に団員たちの幸せについて正面から向き合う、それが黒崎一護(34歳)の最近の日常なのでした。
追伸、良い人なので、本当に早く良い方と巡り合ってもらいたい…。




