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いずれ何かのお役に

作者: やーめん

「今度はA135ブロックのパネルが出力低下しています。また交換ですね。」

 投げやりな助手の声に、地球を眺めていたエヌ氏は我に帰った。

「予備のパネルを用意しておいてくれ。太陽の活動が活発だからパネルの裏側から行くぞ。」

 エヌ氏はため息をつき、宇宙服ロッカーに向かいながら言った。


 ここ太陽光宇宙光発電所は、赤道上空3万5786キロメートルの静止軌道上にある国際機関が管理する太陽電池式の唯一の宇宙発電所だ。

 この発電所の構想が発表された時は、全世界のエネルギー問題がこれで解決されると期待されたものである。

 宇宙発電所の構想は昔からあったが、宇宙で発電した電気をどうやって地上に送るかが問題であった。

 当初からマイクロウェーブによるエネルギー伝送が有力視されていたが、高エネルギーのマイクロウェーブが非常に危険なため、その実用化には多くの研究と時間を要した。

 どの位危険かというと、電子レンジの内部で発生するマイクロウェーブの数万倍の出力があるので、宇宙から地上に放射されるマイクロウェーブの伝送路上に鳥が迷い込むと、一瞬にして焦げた焼き鳥になってしまうほどなのだ。

 結局危険が少ない太平洋上の島にマイクロウェーブ受信施設を建設することとなったが、電力消費地から遠いため、送電ロスが大きく、エネルギー問題の解決にはあまり役立ちそうもなかった。

 しかし、一度開発を始めた公共事業は、途中で止めるのは難しいものである。

 もし、大金をつぎ込んで始めた開発を途中で断念したら、無駄遣いだったと世間から責められてしまう。

 このため、将来のための貴重なデータを取得するという名目で、静止軌道上に一つだけ発電所を建設したのである。


 静止軌道は、気象衛星や通信衛星など多くの衛星が利用している軌道である。

 このため、発電所のためのスペースを確保するのに、各国との調整が難航した。

 また、実際に大量の太陽電池パネルを打ち上げる費用をどうするかも問題であった。

 そこで、マイクロウェーブを受信する島の周りに電力を大量に消費するアルミ精錬などの工場を各国から誘致し、電気の売り上げで開発費用を少しずつ償還する計画が立てられた。

 ところが、実際に宇宙に発電所を建設してみると、またもや大きな問題が生じた。

 軌道上にはこれまでに宇宙開発で使用した人工衛星などの残骸の破片、いわゆるスペースデブリが大量に飛び交っていたのだ。

 これが太陽電池パネルに超高速で衝突し、次々と穴をあけていったのである。

 このため、太陽電池パネルはしょっちゅう交換しなければならなかった。

 だから宇宙発電所は赤字続きで、世間から役立たずと誹られていた。

 それを思うと、この宇宙発電所から地球を眺めるのが気に入っているエヌ氏としては心が痛むのであった。


 エヌ氏は、エアロックを開き、太陽から影になる面に出た。

 今は地球の昼間の位置なので、エヌ氏の頭上に地球が明るく見えている。

 太陽電池パネルは、地球上のマイクロウェーブ受信施設の上空に静止している必要があるので、地球の自転と同じ回転速度で地球を周回している。

 太陽電池は常に太陽の方向に向くよう制御されているが、地球の夜の面に入ると、発電所が地球の陰に入ることもあり、その時間だけは発電できない。

 本来なら、地球上に多数の受信設備を建設して、常に電力供給できる体制にするべきだが、1つしかない発電所では電力供給できない時間がどうしても発生する。

 こんなことからも、世間からは欠陥品扱いにされてしまうのだ。


 エヌ氏は、命綱を伸ばして、助手が用意した交換用のパネルをエアロックから引き出し、運び始めた。

 パネルは折り畳まれており、展開すれば十メートル四方の大きな板になるもので、重さは百キログラムもあったが、宇宙空間では一人で容易に持ち運べる。

 エヌ氏は片手で巨大なパネルを持ちながら、こいつも地上にあれば数十年間は貴重なエネルギーを発生できる装置だが、ここに設置されたら数か月ですぐに穴だらけになって、役立たずの一部になってしまうしかないのだなぁなどと思いつつも、いつしかまた地球を眺めていた。


 その一見平和そうな地球では、大きな問題が発生していた。

 外宇宙から怪しげな電波が受信されたのである。

 それは初め無意味な乱数のようであったが、研究者たちの努力によって、解読がなされたのであった。

 そしてその意味を理解した時、地球の首脳たちは一様に驚愕した。

「なんということだ。今どきになって地球を侵略しにくるとは。」

「これまでに地球外知的生命体に遭遇したことはなかったが、よりによってなぜいきなり侵略してくるのだ?まず友好的なファーストコンタクトをしようとするのがセオリーではないのか?」

「しかし、ここで議論していてもしかたあるまい。向こうが攻撃するというのなら、やられる前にこちらから先制攻撃をすべきだろう。」

 このような議論の末、核ミサイルが打ち上げられることとなった。

 ミサイルは大急ぎで発射され、順調に飛行して目標を捕らえたが、侵略者たちの宇宙船から発射されたエネルギー光線で、一瞬のうちに蒸発してしまった。

「なんという強力なエネルギー砲だ。こんな武器で攻撃されたら、大都市も一瞬で壊滅してしまうぞ。」

「万事休すだ。こうなったら攻撃される前に降伏して、恭順の意を示そう。」

 地球の首脳たちは、侵略者たちに降参した意思を示すためにひれ伏して恭順の様子を示す映像を送った。

 これは非常に耐えがたい屈辱であったが、地球が攻撃されて廃墟となるよりはましである。

 侵略者たちからは、勝ち誇った映像が送られて、地球の中枢組織のある都市に宇宙船を着陸させろという電波が送られてきた。

「ううむ、なんて傲慢な侵略者なのだ。しかし、侵略者というものはそういうものなのだろう。彼らを地球連邦本部に案内するしかあるまい。」

 こう言って、首脳たちは、現在地球上で最も発展を遂げて、世界経済の中心となっている、地球連邦本部のあるインドのデリーの位置を示す映像を送った。

 侵略者たちの宇宙船は地球の衛星軌道からデリーに向けて降下を始めた。

 と、その時、宇宙船は突然火を吹いて空中爆発してしまった。

 突然の事態に首脳たちはあっけにとられたが、やがて、誰ともなしに笑い出した。

 侵略者の宇宙船といえども、強力なマイクロウェーブには、なすすべもなかったのである。

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