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He is a conductor [6月版]

作者: 結綱
掲載日:2014/05/27

初めまして結綱です。文芸部の部誌に寄稿する予定のものですが、アドバイスを頂きたくてこちらに投稿することにしました。宜しくお願い致します。


心地よい揺れのせいで眠っていたのかもしれない。列車の中は太陽の光のもとにいるかのようにやけに暖かくて、そのせいで眠っていたのかもしれない。



「……あ、起きた」

 知らない人の声が聴こえる。後ろ姿しか見えないけど、あまり僕が起きたことを気にかけていないようだった。彼はしわひとつないスーツを着こなして、大袈裟にも見える黒い大きな帽子を被っていた。そしてその姿は、薄暗くて狭くてよく解らないメーターのようなものがひしめくこの部屋によく似合っていた。そうか、先頭車両だ。それも蒸気機関車の。それを証明するかのように、汽笛の大きな音も耳に飛び込んできた。

 それにしても、どうして僕はこんなところで気持ちよく寝ていたのだろう? とりあえず車掌さんに事情を尋ねると、

「機関室の構造とか、気にならない?そんなでもない?」

とか言われて適当にはぐらかされた。だから少しムッとして黙っていたら、「嘘だよ」と笑われてしまった。そんな謎の車掌さんが続けて言うには、

「……あのね、私は君がこの列車の次期車掌にぴったりだと思ったからスカウトしたんだ」

 ……冗談を言うな、と僕は心の中でツッコミを入れた。いやいやいくらなんでも急すぎやしないか? 別に自分はあまり機関車の運転とか興味ないし、適任なのはもっと他にいるのではないか。そういう僕の複雑な心境をまるきり無視して、車掌さんはただ行く先を見つめていた。

「それよりさ、外を見てみなよ。きっと君もこの仕事がしたくなるはずだから」

 車掌さんは楽しそうだ。後ろ姿が醸し出すオーラで解ってしまうくらい楽しそうにしていた。ちくしょう、話をそらしやがって、と思いながら渋々立ち上がってみる。





 僕は闇のなかにいた。その闇のなかに、嘘みたいな天の川が走っている。

 そう、つまり宇宙だ。立ち上がった後に目に入った光景を一瞬理解できなかったけれど、一瞬を過ぎてから自分は明確に理解した。

「……夢みたいでしょう?」

 ねえ車掌さん、これは夢だよ。夢だと解っていながら見る夢だ。あるでしょそういう経験。……でもどうやら違うようだ、と直感で気づくのも一瞬後のことだ。

「本物の銀河鉄道だよ」

 そういう笑い声がした。そして車掌さんが初めてこっちを向いた。思っていたより幼い少年の顔立ちをしていた。楽しそうにしていた理由もよくわかった。確かにこんな光景を見てわくわくしない人はこの世にいないだろうと思う。実際に僕自身、この光景を見たとたん、この車掌という仕事に大きな魅力を感じてしまっていた。なんで自分が車掌に選ばれたんだろうとかいう疑問は吹き飛んで、この仕事は受けなきゃまずいとすら思った。


 車掌さんいわく、この「銀河鉄道」での仕事は、この列車に乗るお客様の行きたいところへ連れて行くことなのだという。この列車には向かう駅もなく線路も存在しない。つまりこの列車を動かすのは、自分自身と乗客……「お客様」の意志なのだ。

 それにしても、この列車のお客様って、一体何者?






 心地よい揺れのせいで眠っていたのかもしれない。列車の中は太陽の光のもとにいるかのようにやけに暖かくて、そのせいで眠っていたのかもしれない。……

 というか気づいたらまた寝ていた。硬い床で変な姿勢でいたから肩と首が凄く痛かった。うとうとするのに丁度いい室温なのに少しも眠そうに見えない車掌さんを僕は心から尊敬する。

 夢の中にいた僕を銀河鉄道の車掌室に引き戻したのは一つの大きな揺れだった。ガタン、という衝撃音が眠る僕を襲ったのだ。それ以上動きが無かったこともあり、きっともう目的地に着いたんだろうと僕は判断した。

 列車の中でしばらくそのままぼんやりしていると、外から窓をたたく音がした。僕はまだしばらくそのままぼんやりしていたかったから無視していたのだが、段々その音が暴力的なまでになってきたから戸を開けてやった。そこにはさっきまで僕の傍にいた車掌さんが立っていた。相変わらず、凄く楽しそうなのはオーラで解った。




 湿った夏の夜の匂いがする。周りには浴衣を着た女性と子供が沢山いて、斜めになった土手に敷かれた場所取りのレジャーシートと川に浮かぶ船が目立った。

「花火大会だよ、エンジョイしないの?」

チョコバナナを持った車掌さんが笑って言う。こういう真夏の夜にも関わらずジャケット着用の彼は違和感ありありだったのだが、気にしているのはどうやら僕だけのようだ。皆が楽しそうにしているのを見ていると、ああ、これは自分も便乗しないと損だな、という気になってしまう。僕はほぼ当然のように車掌さんに同意して、一年に一度しかないお祭りに参戦することにした。始まるのにはまだ時間があるようだったので、とりあえず近くの屋台でかき氷を買うことにした。これがないと始まらない。



 ……それで、疑問点が一つ。車掌さん、ここでちゃっかり遊んじゃって、仕事になるんですか?

「発車時刻が決まってないからね。お客様が楽しんで頂いているのを見届けてから出発することにしているんだ」

車掌さんはそう教えてくれた。ええとつまり、ここに来たいと望んだ「お客様」が、確かに存在するのだ。その人(?)の気持ち、解る気がする。 それにしても、どうしてその「お客様」がここに来たかったのかが解らなかった。わざわざ宇宙を走る銀河鉄道を使ってまで、どうしてこんな所に来るのだろう?

「まあまあ、いずれ解るようになるよ」

車掌さんは意味ありげに笑ってそう言った。




 そして、花火大会が始まった。爆音の音楽と共に最初の花火が上がると、周りの人々が大きな拍手と歓声をあげた。凄く楽しかった。参戦して大正解だったと心から思った。

 その最中、車掌さんが背中をつついてくるので振り向くと、この花火大会の光景に対して違和感のあり過ぎる銀河鉄道の車体が目に入った。なんだ、それはさっきからそこにあったじゃないか、と僕は思ったけれど、車掌さんが自分に伝えたかったのはそのことじゃなくて、どうやら別のことらしかった。



「おきゃくさまがおりてきたよ」







 さっき買ってきたメロン味のかき氷が少し解けて残ってしまったのは残念だった。残ってしまったプラスチック製のカップを捨てに立ち上がると、ある男の子の声が自分の足を止めにかかってきた。

「ねえ、かき氷買いに行こうよ、お兄ちゃん」

後ろに立っていたその男の子の声は、明らかに僕に向けて発せられたものではない。じゃあその声は誰に向けられているのかというと、どうやら隣にいる一人の男性へのもののようだ。でもその男性は、この甚平を着た幼い男の子が「お兄ちゃん」と呼ぶにはどうしても違和感があった。どちらかというと「お父さん」のほうが妥当なのではないか、とすら思った。男性は少し困ったように笑っていたけれど、きっと本当は全然困ってなんかないんだろうな、と僕は思った。男性が頷くと男の子はとっても嬉しそうに笑ってから、かき氷の屋台の方へ消えて行った。花火に照らされた二人の顔は、なぜかよく似て見えた。 ……気のせいだろうか?


 それにしても、こういう楽しそうなのが花火大会の醍醐味だよなあ、と思う。みんな笑っているし、夜が明るくなるという特別な感じが、また良いのだと思う。




「楽しいね、こんなの初めてだ」

 車掌さんが独り言のように呟いたのを、僕は黙って聞いてから立ち上がった。かき氷のごみを捨てにいくというのももちろんあるけれど、さっきの二人のことが気になったから、というのもあった。普通の光景なのに、人のこころを引きつけてしまう何かを、さっきの二人は確かに持っていたのだろう。でも、ついて行ってしまうと車掌さんに変な奴に思われてしまう気がしてやめて、ゴミ箱へ走った。


 ところで、結局「お客様」って誰だったのだろう? さっき車掌さんは降りてきたことを教えてくれたけど、そのお客様らしき姿は見えなかった。

「うん、本当のことを言うとね、私自身、よく解ってないんだ、お客様が誰なのか」

 あ、そうだったんだ。……じゃあなんで、「お客様」が列車から降りてきたことが解ったんですか?

「この仕事をしているとね、何となくわかるようになるよ、何となく。なんかこう、降りて来たなって感じがする」

 勘で、ということ?

「ううん、そういうのじゃなくてね、……まあ、解るようになるって。私は本気で君にこの仕事を引き継ぐ気でいるから、その時まで楽しみにしておいて」

 車掌さんは穏やかな微笑を浮かべたまま銀河鉄道を振り返った。

「もうすぐ行こう、次のお客様がお待ちだから」

まだ終わってないのに、と目でアピールしてみると、車掌さんがまた楽しそうに笑った。







「それじゃあ、今から引き継ぎを行います!!」

会場を後にして走る列車の窓には、あの美しい宇宙が戻ってきていた。そして自分は……車掌さんの今のシャウトで目が覚めた。

 ……本当に、こんなに寝てばっかりの人間に仕事を引き継ぐの?

「私の直感を侮られちゃ困るよ」

 車掌さんにそうやって笑いかけられると何故か安心してしまう自分がいた。



[仕事の内容:「お客様」に、旅を楽しんで頂くこと。

      そして、自分自身も楽しむこと。]



「雰囲気で伝わるからね、楽しさって」

意外と車掌さんは背が高かった。車掌さんは被っていたあの大袈裟な帽子を僕の頭に乗せて、子どものように笑った。何でそんなことをするんだ、と目で訴えると、

「……ガキ扱いすんなって思ったでしょう」

少しムッとした様子で車掌さんが言ってきた。ごめんなさい、それ図星です。でもまあ、自分の方がこれからは後輩なのだから、仕方ないなあとも思った。

 列車が、またどこかに辿りつく。車掌さんは少し名残惜しそうに、それでも笑っていた。

「君に出会えてよかった」

車掌さんは自分にそれだけ伝えた。ここが、車掌さんの終着駅だ。自ら扉を開けて列車を発つ車掌さんの後姿に向かって、僕はいつまでも手を振った。今日から(突然押しつけられたようなものであるにしても)あの車掌さんの仕事は僕の仕事になるのだ。嫌な気はしなかったし、悔いも何も無かった。これでいいんだ。


 いつか僕も、この列車で、自分の行きたい所を見つけていくのだろうか。この列車に揺られて、どこかに在る自分の居場所を目指すことになるのだろうか。

 道に迷っても、これからは、笑っていることにしよう。



「車掌さん」

 後ろから声がした。

「ねえ、車掌さん」

 その声は、僕のことを呼んでいた。声の主の姿は、振り向いても見つけられなかった。

「行きたい所があるの」

 「お客様」だ。

どこへ、行きたいのだろう。

「行き方は教えてあげる」

 声は、僕に向かってそう言ってくれた。

 ありがとう、それは助かります。僕がそう叫ぶとお客様が微笑み返してくれたのが、何となく解った。



 開け放した扉を閉めて、新しい車掌は進行方向を見つめた。この先に、新しいお客様が待ってる。




もうそろそろ、出発の時間だ。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  ほのかにテーマに包まれた魅力的な文学でした。  なにより構成が美しい。文章も整理されていて、こまやかな気配りが伝わります。 [気になる点]  寄稿のために苦言をお求めと聞きましたので、あ…
2014/06/01 03:49 退会済み
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