海の姫
相変わらずマイナー邪神です。
出典的には某世界最強ロリコン探偵の名前の由来になった邪神ハンター兼探偵から。
とある誰もいない白い砂と青い海が広がる浜辺。
初夏に入りたてで蒸し暑くなってきたが、海開きはまだのためか、人気がなく閑散としている。
「♪Look to the sky, way up on high~♪」
そこでは、少女がたった一人で何かを称える唄を歌い、舞い踊っていた。
青く長い髪を紐のようなものでツインテール風にした髪型、白い肌に整った顔立ちを彩るは碧眼。
幼い体を包むのは海のように青いサマードレス。
肩を露出し、肘より手首までを膨らんだ飾り布が覆い隠す。
靴は履いておらず素足が砂を踏みしめる。
「♪They will return♪」
口ずさんでいた唄が終了し、舞いも同時に終了した、すると。
パチパチパチパチ
誰もいなかった砂浜に拍手が鳴った。
少女が目を向けた先にいたのは、一人の少年。
少女と同じくらいの年をした、幼い顔の無垢な瞳が尊敬のまなざしで少女を見ている。
「きみってすごいね。それなんのおどり?」
少年は、無邪気にもそういった。
「ありがとう。褒めてもらったのは初めてよ」
少女は笑顔で答え、少年のほうへと歩いていく。
「私はクティーラ・ゾス・ルルイエっていうの。あなたは?」「ぼくは海岸湊。ねぇ、いっしょにあそぼうよ」
少女は少し考えこう答えた。
「いいわよ。一緒に遊びましょう」
†
少年、海岸湊はこの漁村の出身というわけではない。
父が此処の出身で、初夏の休みを利用して実家に遊びに来たのだ。
だが、漁師に休みはない。祖父の話は面白いが、行動派の少年はすぐに瞼が下がって船を漕ぎ出してしまう。
いとこ達と遊ぶのも楽しい。しかし、末っ子の少年の立場など無きに等しく、いじめまがいのことから逃げてたどり着いたのが、この人の寄り付かない砂浜だった。
海でも見ながら、時間をつぶそうと思っていたが、しばらくすると人気のなかった砂浜から歌声が聞こえてきた。
その歌声は、少年の耳からしてもとても美しく、幻想的だった。
少年は気になった。
このきれいな唄を歌っているのは誰なのだろう。
できるのなら一緒に遊びたいと。
少年は唄のしているほうへと走る、砂に足を取られても止まることはなかった。
「♪Bode a returning season of doom~♪
♪Scary scary scary scary solstice~♪」
暫らくして、彼は唄を歌う青い少女を見つけた。
綺麗な子だなと呟き、彼は青い巫女装束のような服を着た少女に目を奪われた。
近くには決していないタイプで、少しだけ自分より年上に見える少女は、さながら足の生えた人魚のようであった。
動きにくい砂の上を滑るように動き、白鳥の様に踊り、金糸雀の様に歌う。
少女は自分に気づいていない、なら歌と踊りが終わるまで待っていよう、彼はそう考えた。
「♪They will return♪」
唄と舞が終わり、彼は思わず拍手をした。
それは無意識のことだった。
少女は少年に気づき、彼を見た。
その瞳には、驚きが見え隠れしている。
少年はこの少女と遊びたいと思っている。
だから、少年は少女に質問をして、遊べるかと問う。
少女は思った、少し舞と歌を休める口実が作れると。だから答えた。
「一緒に遊びましょう」
†
その後、湊とクティーラは砂の城を作り、波際で水を掛け合い、ヘトヘトになるまで遊んだ。
しかし、別れの時は近づく。
太陽は傾き、日没までもうあまり時間はないだろう。
そんな時、砂浜に声が響いた。
「クティーラ、どこにいる?」
湊とクティーラより離れた場所で声は聞こえた。
その声は低く渋い男の声だった。
「ごめんね、ミナト。お父様が迎えにきたみたい」
そういうとクティーラは体育座りを崩し、立ち上がった。
「つぎはいつあえるの?」
湊も立ち上がり、クティーラに聞いた。
「ミナトが大人になっても私を忘れてなかったら」
「ぼくはクティーラのことわすれないよ。わすれるもんか」
「本当に?」
「うん、ぜったいにわすれない」
「じゃあ、指切りしましょう。
約束は絶対よ?」
そういって、クティーラは小指を立て右手を出した。
「うん、わかったよ」
湊も右手をだし、小指を絡ませる。
「「ゆびきりげんまん」」
二人の声が砂浜に響く。
「「嘘ついたら」」
「私はあなたを殺します」
「ぼくは、クティーラのそばにずぅーっといます」
「「指切った」」
二人は同時に指を離した。
「じゃあね、ミナトまた会いましょう」
クティーラは声のしたほうへと走って行った。
一人残された湊はクティーラを見送った後、ゆっくりとした足取りで帰路についた。
†
「お父様~」
湊と別れた場所から少し離れた海岸にクティーラはいた。
駆け寄った先には、灰と黒の混じった髪を緩く後ろで一本に束ねた、クティーラと同じ碧眼をした初老の男性が立っていた。
「とぅ!」
彼女の掛け声と共に足が地を離れ、男の胸めがけて飛びついた。
男、クティーラの父はよろめくことなく難なく受け止め、娘の髪を撫でながら言った。
「まったく……、家を抜け出すのはいいが書置きくらい残しなさい、ダゴンやハイドラ達が心配していたぞ?」
「はーい、次からそうしまーす」
髪を撫でられ気持ちよさそうに目を細めながらクティーラは答えた。
「それで何か収穫はあったのか?」
父は聞いた。クティーラの無断外出を許したのは、様々な経験を積ませた方がよいと思っているからである。
「えぇ。凄くあったわ。私に好意を寄せてくれるニンゲンがいたの。指切りもしたし、十年後二十年後に忘れてなかったら彼は私のものになるの」
「それはよかったな。わが娘、クティーラよ」
クティーラを降ろし、ゆっくりと歩いていく父を追い抜かし、振り向きざまにクティーラは言った。
「それにね、例え忘れていても私の糧にすることも出来るし、顔と体をそのままに深きものどもにして、ずっとずぅーっと私の僕にしてあげてもいいの。いいわよね、我が父大いなるクトゥルフ?」
顔にゆがんだ笑みを浮かべ、小首をかしげるクティーラに父――クトゥルフは答える。
「勿論だとも、わが娘クティーラよ」
「ありがとう、お父様。」
クティーラは天を仰ぎ、星を指さし叫んだ。
「覚えておいてね、ミナト。私は絶対に忘れなんてしないからね。
ウフ、ふふふふふふふふ。アハハハ、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
クトゥルフはその光景を微笑みを浮かべながら眺めている。
そして、邪神とその娘は海の闇と消えていった。
一人の少年の将来を決めて。
この作品はこれっきり、のはず。
設定は他作品に持ち越します。
クティーラのイメージ画像は
「シアンのゆりかご」様、邪神の三ページ目です。
↓URLよりGO
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