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第十六話

書くことが特に無い……。


 ――水の都、クヴェレ。


 地図を見れば、ダリヤに存在する街の最西端であることがわかるそこは、その二つ名の通りに、水の名産地になっている。


 通行料の30ルガクを門番に支払い、門をくぐればそこは、まさに水の都であった。


 街道に設置されている水道は、芸術と言って良いであろう巧みな配置をしている。


 そして一際目をひくのは、街の中央にある、巨大な噴水だ。


 さる高名な、水の女神の加護を受ける霊術師がかけた霊術によって、無限に水が噴き出すようになっているらしい。


 そこにお金を投げ入れて願い事をすれば、叶うとか叶わないとか。


 と今までボーッと街を見ていた俺とカイだが、ユイの一言で我に返った。


「ほら、早く宿屋に行くわよ。ここは観光地としてダリヤ一の人気だから、急がないと泊まれる宿屋が無くなるの」


 へぇ……。まあ観光地として人気なのも頷ける。


 これは一度行ってみたいと思わざるをえないからな。


 そうして、何故か迷いない足取りで歩き始めたユイ。


「ユイ、ここに来たことがあるのか? 」


 そう聞くと、待ってましたとばかりに答えだすユイ。


「えへへ、宰相の人が観光で行く時にお付きの侍女として連れて行ってもらったの」


 褒めて褒めて、みたいな表情をするので、頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めた。

 その表情を見ていると、何とも言えない気分になってくる。


 わかったぞ、俺は遂に悟った。学校の変態(ゆうじん)が言っていた事。


 ――これが、萌えなのか。


 背後、恐らくカイの方向からであろう、感じるプレッシャーのようなものを意図的に無視して、ユイを急かす。


「ほ、ほら、早く宿屋に行かなくて良いのか? 」


 そう言って手を離すと、名残惜しそうにするも、カイをちらりと見て、引き攣った笑顔を作った。


「そうね。早く行くわよ」


 逃げるように歩きだすユイ。


 通行人を軽やかに避けて歩いて行くので、見失いそうになる。


「すみません、どいてくれませんか? 」


 底冷えするような声を出すカイ。騒然としているこの道でも響いたそれを聞いた通行人は、無言で道をあけた。


 モーセの奇跡のように開いていく道を見て、満足げに頷いたカイは、ユイの下へ悠然と歩きだした。


「……ここよ」


 ユイの先導の下到着した宿屋は、豪華絢爛なものではなく、宿屋と言われなければ気付かないような質素な佇まいをしていた。


 その看板には、『竜の巣』とミミズがのたくったような字なのに何故か読み取れた。


 ユイがドアを開けると、ドアに付けられた鈴が涼しげな音を奏でた。スズがスズしげ……。ワザとじゃないぞ?


「あら、いらっしゃい」


 中に入ると出迎えたのは、それはそれは息を呑むような大層美しい女性……ではなく、筋骨隆々の美丈夫だった。


「三名様かしらん? 」


 ……ただ、そのはち切れんばかりの身体を覆っているのは、メイド服なのだが。


「とりあえず三泊したいのだけど」


 慣れたかのようにスルーするユイ。……尊敬するぞ。


「三泊ね? 食事有りだと18000ルガク、無しだと15000ルガクよ」


「食事ありでお願い。因みに一部屋で良いわよ」


 手際良く料金を払い、部屋の鍵を受け取ったユイが、部屋へ向かおうとするのについて行こうとすると、筋肉の壁が立ち塞がった。


「あらん、アナタ良い身体してるわね。どう? 後でワタシの部屋に行かない? 大人の世界を教えてア・ゲ・ル」


「遠慮します! 」


 総動員した鳥肌をそのままに、急いでユイ達の方に向かう。


「つれないわねぇ……。まあ後三日もあるわね、それまでに……」


 背後から聞こえる死刑宣告にも似た発言を無視して、2階の部屋に向かった。


 2階の12号室が、俺達の部屋だった。


 ユイが鍵を使ってドアを開ける。


 中に入ると、質素ながらも洗練されたデザインの家具が俺達を迎えた。


 十分ふかふかそうなベッドが二つ。木製のテーブルに椅子が三つ。


 計算され尽くした配置に、この宿屋の主、恐らくはあのへんた……ゲフンゲフン、男の人の並々ならぬ努力が伺える。


 早速ベッドにダイブして至福の時を味わっているユイが、口を開いた。


「さて、これからギルドに行くのだけど、まずは説明をしなくちゃね」


 咳ばらいをして、一拍置いてから清々しく言い放った。


「……次回にね!! 」


 ……コラ、やめなさい。



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