第十二話
この調子で、頑張って一話あたりの文字数を増やしていければと思います。
……エタらなければね!
ユイが、茫然自失を体現したかのような表情で固まっている内に、さりげなーく膝枕から脱出する。
正直な話、もっとあの柔らかさを感じていたいという欲望もあるにはあったのだが、戒に見られたりすると羞恥心で軽く死ねそうなので、断腸の思いで脱出した。
体中に鬱陶しく纏わり付く砂を手で払い落としながら、俺は思いっきり背伸びをした。
程よい暖かさで射してくる太陽のようなもの――恐らくは閉月か、の光を体いっぱいに浴びながら屈伸運動を始めた俺を、硬直から回復した母さ……そうじゃなくて、ユイが怪訝そうにこちらを見ていた。
「……何してるの? 」
「何って……。まごうことなき屈伸だけど」
あれだ、同じ姿勢で長時間固まっていた時なんかは、背伸びの後に屈伸とかのコンボで体がほぐれるじゃないか。
納得したようなしていないような表情をするユイだったが、唐突にそうじゃなくて! と言い、頭を振った。
「神様と喋ったって、本当? 」
「本当だけど」
「……ホントにホント? 」
「ホントにホント」
ハァ……とため息をつかれた。失礼な、俺は別に何もしていないじゃないか。
「あのね、神様と喋ったのは多分だけど、悠くんが世界初」
「おおう、こっちにギネスブックみたいなものがあるなら載るんじゃないか? 」
「多分あったとしても、載る前に脳の中を調べられたりで実験動物になるかもしれないから、黙っておいた方が身のためよ」
なんか怖いな。そんなに危険な事だったのか……。
「でも脳の中身を調べるなんて出来るのか? 」
俺の知識だと、こういった異世界では、地球で言う中世程度にしか発展していないんだが。
そう言うと、ユイは少し呆れた顔になった。
「あのね、霊術があるじゃない。技術に関しては、まあ中世くらいだけど、霊術があるから地球を上回っているものも多いわよ」
例えば、と言ってユイは続ける。
「医療。これは治療を司る神様が居るから、かなり進んでる。治療の神の加護を受けた人達の事を、治療師って言うんだけど、腕の良い治療師なんかだと癌でも治しちゃうの」
「へえ……。それってかなり凄いよな」
「まあでも霊力に限りはあるし、癌がどんな病気で、何が原因か辺りは全くわかっていないけどね」
なんと言うか、凄くちぐはぐな印象を受ける世界だな。
いつの間にか手に持っていた、指揮棒のようなものをこちらに向けてビシッとするユイ。微妙にドヤ顔を決めている。
「というか、その指揮棒みたいなのはどっから出したんだ? 」
この瞬間を待っていたんだ、とばかりにドヤ顔を深めるユイ。
子供が精一杯背伸びをしているかのような微笑ましさが漂うばかりなのは、言わぬが華であろう。
「私の霊術で創ったの。見かけ倒しのものなら、ワンアクションで何でも創れるわよ」
「じゃあ、ドラゴンを創ってくれ」
そう冗談半分に言うと、ユイは持っていた指揮棒のようなものをプロの指揮者、或いはハ〇ー・ポ〇ターのように振りまくった。
そして棒の先端が光ったかと思うと、目の前にいきなりドラゴンが現れた。
その鱗は、見る者全てを魅了する金色に輝いている。
どこかで見たことあるような……。
「どう? このリオ〇イア稀少種は」
「なんか、迫力が無いな」
「うぐ……。気にしてる事を」
恨めしそうにこちらを睨んでくるユイ。
そんな目で見ても、可愛いだけ……ゲフンゲフン、失礼。
要するに、本物にしか見えないが全く息をしていないし、何より存在感が無い。
実際そうに近いのだが、出来の良い模型を見ている気分になる。
「ま、まあ話がそれちゃったから戻すけど、良いわよね? 」
別にダメな事もないので、頷く。
「神様と話をした、なんて絶対に言っちゃダメ。危険だから」
念を押すように言ってくる。……俺ってそんなに信用ないのか。
「うっかりポローッと喋りかねないからね、悠くんは」
「そうですよ兄さん。ちゃんと気をつけておいて下さい」
ここでさっきまで水を汲みに行っていた戒が、水筒を持って戻ってきた。
そう、水筒である。
俺達は、こっち――つまりツァイリングに転移するにあたって、役に立ちそうなものをイロイロと持ち込んでいる。
今言った水筒から始まり、ライターや筆記用具、ノートに香辛料と調味料、そしてなぜか家にあった日本刀等など……。
だけど、使うのなら極力俺達だけで使う、とルールを課した。
行き過ぎた技術が使用された品を伝えたら、何が起こるかわからないからだ。
技術は、人と同じように少しずつ、少しずつ時間をかけて成長するべきだ、と思っている。
人間だって、なんらかの影響でいきなり成長する――例えば、思春期という、心を成長させる重要な段階をすっ飛ばして成長させたら、それは精神の未熟な大人が出来上がる。
だからこそ、他の世界のモノは伝えるべきではないと思う。
原理を全くこれっぽっちも理解せずに使うのは、危険だと思うから。
まあ、詭弁じみているのはわかっているが、こういう事には細心の注意を払いたい。
……と、戒が言っていた。
そんな事を脳内で思い返していると、リュックから取り出したアルミ製のコップに水を注いで、戒がこちらに渡してきた。
初めて飲む異世界の水は、どんな味なのか。
内心ワクワクしながら口をつける。
なぜかキンキンに冷えている水は、スーパーあたりで売っている、どこで汲んだのかよくわからない怪しい天然水なんかよりも断然美味しかった。
「ふぅ……。美味しいですね、これ」
戒もユイも満足そうな表情をしている。一息ついていると、ユイが喋りだした。
「そうだ! 悠くんにはもう言ったけど、これからはユイって呼んでね」
「へ? ……あぁ、そういう事ですか。わかりました」
何を納得したかはわからないが、アッサリと頷いた戒。
「何がなんだかさっぱりわからん……。それで、ここってどこなんだ? 」
そう聞くと、ユイは言葉を濁した。
「えーっとね、言っても怒らない? 」
上目遣いで俺を見つめてくる。こんな顔をされて、怒れるわけがあろうか。いや、ないな。
「大丈夫大丈夫。絶対に怒らないから」
「ありがとう。……えっとね」
次にユイの口から飛び出す言葉が無茶苦茶な事は、想像に難くない。
「現在地は、ツァイリング、ダリヤ領地最西端――ファファル砂漠です♪」
キャピキャピとした雰囲気、まあ空元気であろうが、謎テンションのユイ。
……遠いとは予想していたが、さすがに最西端とは思ってもいなかった。
「ち、因みに最寄りの街までは、どれだけかかるのでしょうか? 」
頬をピクピクと引き攣らせながら質問する戒。普段はこういう事にうるさいが、よく耐えてるな。
「1番近くの街は、少なく見積もって三日かかります。テヘッ」
舌を出して片目をつぶり、自分の頭を小突いているユイ。
本ッ当にイライラしてくる表情だ。
「ユイさん、少しそこに座ってくれませんか? 勿論正座で」
顔に満面の、しかし目は笑っていない笑顔を貼り付け、背後にオーラを出しながらユイに近づいて行く戒。
こ、怖えぇ……。
この後小1時間は、説教で潰れるのだった。
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