表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

実践日々のハラヘリズム ――「腹が減った。そうだ革命をしよう。」――

作者: はらぺこ〜にょ3世
掲載日:2026/05/16

このどうしようも無い日常への愛着が、秩序だった混沌である今日を支えている。

私たちにできるのは、今〈日常〉を認めながらも、漸進的に明日を作る姿勢なのかもしれない。

 大学三年の秋、冷蔵庫には麦茶しかなかった。


 佐原ユウは六畳一間の床に寝転び、天井の染みを見つめながら空腹に耐えていた。スマホには「ガクヒ」引き落としの通知。財布の中には七十三円。コンビニのおにぎりすら遠い。


「腹が減った……」


 その瞬間、彼の脳内に雷のような言葉が走った。


「そうだ。革命をしよう」


 翌朝、ユウは大学の掲示板に奇妙なビラを貼った。


『学食値上げ反対・空腹学生同盟結成』

『主食を取り戻せ』

『唐揚げ定食五百円防衛戦線』


 最初は誰も相手にしなかった。だが昼休み、四十四円の味噌汁だけをすすっていた学生がぽつりと声をかけた。


「……参加していいですか」


 それを皮切りに、人は増えた。


 仕送りが減った地方学生。研究室に泊まり込みで食費を削る院生。サークル費で破産しかけた一年生。彼らは皆、静かに腹を空かせていた。


 同盟の活動は奇妙だった。


 学食の余り物情報を共有し、安いスーパーのタイムセールをマッピングし、余ったレトルトを交換する。「革命」と呼ぶにはあまりにも地味だ。


 だが、人数は増え続けた。


「我々に必要なのは暴力ではない!」


 ユウは学生会館前で叫ぶ。


「必要なのは、満腹だ!」


 拍手が起きた。


 誰かが炊飯器を持ち込み、誰かが畑を借り、工学部が壊れた冷蔵庫を修理した。文学部は「空腹と近代国家」という謎の講演会を開き、法学部は「学食価格と公共性」の討論を始めた。


 大学側は最初、呆れていた。


 だが、学園祭で同盟が出した「百円カレー」が三千食を完売した時、空気が変わった。


 学長は記者会見で言った。


「これは……新しい学生自治の形かもしれません」


 翌年、大学には正式に「フードシェア制度」が導入された。余剰食品の配布、低価格食堂、学生農園。ニュースはそれを“静かな革命”と呼んだ。


 けれどユウ自身は、案外どうでもよかった。


 冬の夜。部室で湯気を立てる鍋を囲みながら、仲間たちが笑っている。


「結局さ、お前なんで革命とか言い出したの?」


 そう聞かれ、ユウはしばらく考えた。


 窓の外では、都会の電車が鉄の音を鳴らして走っている。


「……いや」


 ユウは鍋の肉をつつきながら答えた。


「腹が減ると、人間って孤独になるだろ」


 部屋が少し静かになった。


「だから、一緒に飯食える場所を作りたかっただけだ」


 誰かが「くっさ」と笑った。


 笑い声が広がる。


 鍋の湯気が白く立ち上る。


 革命は、案外こんな匂いがした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ