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おもいがけない不幸

動物が傷つく描写があります。苦手な方はご注意ください。

 今日は残暑が和らぎ秋の訪れを感じさせる天気だった。

 窓を開けると涼しい風が入ってきて、とても心地よい。

 今日も一日中家に居ようかと考えていたけど、こんなに天気がいいと外に出たくなる。

「ミントと河川敷まで遊びに行こうかな」

 ふと思い立った私は、パジャマから黒いシャツに灰色のズボンと、シンプルな格好に着替えて、出かける準備をした。

 今の時刻は午前十一時。一時間くらい遊んで帰ってきたら、丁度お昼ご飯の時間だろう。

「お母さん、ミントと河川敷に遊びに行ってくるね」

「はーい。気を付けてね」

 どこか軽い足取りで私は家の外に出た。


「ミント、遊びに行こう!」

 私は犬小屋にいるミントのリードをとる。ボールやフリスビーなど遊べるものをもって、河川敷へと歩き出した。

 平日の昼間だからか、歩いている人も車通りも少ない。どこか物静かな中、私はのんびり歩いていく。

 十分ほど歩くと河川敷に到着する。時折犬を散歩させているおじさんやおばさんを見かける程度で、ほとんど人はいない。

 私は少し歩いてベンチがある広場まで移動した。そこに腰掛けてミントのリードを外す。

 ミントは自由になるや否や、私のカバンからボールをくわえて取り出した。

「まずはボールで遊びたいの? わかった」

 私はそれから時を忘れてミントと遊んだ。

 私が我に返ったのは、走り回って息が切れて水を飲んだ時に、自分のお腹が空腹を知らせるようにぐうと鳴った時だった。

「あれ、今何時だろう。そろそろ帰ったほうがいいかな」

 自覚した途端いっきにお腹がすいてきた。ミントはまだまだ元気そうだが、私は少し疲れてしまった。

「ミント、帰ろうか」

 名残惜しそうなミントと共に遊具を片づけ、私は家へ帰ることにした。


 しばらく歩いていると、道にちらほら高校生の姿が見え始めた。

 私の家の近くには高校があるうえ、スーパーもある。今はお昼だから、お昼ご飯を買いに来る学生達だろうか。

 私は特に気にせず家を目指して歩く。すると

「ていうか聞いてよ! 私のクラスにうざい女がいてさ」

「うちらが休み時間中に課題やってたら、もっと計画的にやったらどうですって口挟んでくるの。まじで関わるなって感じ」

 通りすがりにそんな会話が聞こえて、足を止めてしまった。

「えーもう無視しちゃいなよ。関わるだけ無駄だって」

 私は思わず振り返ってしまう。


 通り過ぎていったのは、髪を明るい茶色に染めた、いかにもギャルといった風貌の女子高生だった。その話し方と雰囲気に、私に悪口を言っていたクラスメイトを思い出す。

「……あーあ、やなこと聞いちゃった。ねえミント。ミントはあんなこと言わないもんね。ずっと私の友達でいてくれるよね」

 すぐに現実逃避しようと私はミントに話しかける。ミントは突然立ち止まった私を不思議そうに見つめて、早く帰ろうよと言わんばかりに先へ進もうとしている。

 その様子を見てると、ただ通りがかっただけの人の会話をいちいち気にしてる自分が、とても神経質に思えた。

「なにも気にせずいられたらな。でも私の耳はなぜか自然と悪口をキャッチしちゃうんだよな」

(ミントみたいに、単純になりたいよ)

 少し気分が落ちたけど、しっぽをふって楽しそうに歩くミントを見てると、私も楽しくなってくる。家に帰るころには、私はいつも通りに戻っていた。


 その日は雨だった。

 梅雨時のようにじめじめとして暑い中、私はこの日も絵を描いていた。

 スケッチブックもこのページで最後だ。毎日のように絵を描いているので、スケッチブックは二か月に一回のペースでお母さんと一緒に買いに行っている。

 絵が描けないならミントと遊びたい。でも雨の日はミントの散歩に行けない。それは少し寂しいが、雨の音は好きだ。

 私は雨が奏でる音楽に耳を傾けながら、ベランダの側で目を閉じて空想の世界に没頭した。

 そうしてどのくらいの時間が経っただろう。

 突然、何かがぶつかる大きな音が響いた。

「えっ……? なに?」

 驚いて体が硬直している。なんだか、この家に何かがぶつかったような感じがした。

 しばらく動けないでいたが、私はゆっくりと立ち上がりベランダにでる。下を覗くと、大型トラックが家に突っ込んでいた。

「ミント! ミント!!」

 下からお母さんの声が聞こえた。嫌な予感がする。


 私は急いで階段を降りた。一階の窓は大破しており、大型トラックの前面が歪んでいた。

 走って靴も履かずに外に飛び出す。そこには、電話している男の人と、お母さんがいた。

 お母さんのそばには、血まみれのミント。

 お母さんが呼びかけても、返事はない。ピクリとも動かない。

 ミントはもう死んでいる。

 そう思った瞬間、私の目の前は真っ暗になった。

「紫織!!」

 意識がなくなる直前、最後にそう聞こえた気がした。


 視界が白い。蝶が飛んでいる気がする。花の香りがする。

 瞼が重い。でも手足の感覚はある。芝生の上にいるような感覚。

 白い蝶が飛んでいるような真っ白な視界。少しずつ重たさがなくなっていく。私はゆっくりと目を開けた。

 すがすがしい青空が見えた。雲一つない快晴だ。

「ここは、どこ?」

 ゆっくりと体を起こす。そこは一面の花畑だった。私の周りだけ芝生で、四方向に道がある以外は全て花畑だ。花の名前に詳しくない私は、なんの花かは分からなかったが、桃色、白色、青色と色とりどりの花が咲き乱れている。

「紫織、目が覚めたみたいだね」

 突然、私の右手側から声がした。私は自分の手元を見る。そこにはエメラルドグリーンのスカーフを巻いたミントがいた。

「えっミントが、喋った!?」

 驚いて何度も瞬きをする。スカーフも見た目も、どこをどう見てもミントだ。なのにミントから少年のあどけない声が聞こえてくる。

「紫織とちゃんと喋るのは、これが初めてだよね。前の世界じゃ、僕は人の言葉を話せなかった」

「前の、世界? どういうこと?」


 私は前のミントのことを思い出そうとする。しかしまだ頭がぼんやりしていて、上手く思い出せない。けれども、ミントが人の言葉を話してなかったことは分かる。

「紫織もまだ混乱してるよね。順を追って説明したいんだけど、まず紫織はこの景色をどう思う?」

「えっと、すごく綺麗だと思うよ……?」

 私はもう一度あたりを見渡す。真っ青な空の下で花畑に囲まれる。こんなに美しい光景を見たのはきっと初めてだ。

「うん。ならよかった。じゃあこの近くに町があるから、そこに行きながら話をしよう」

「わ、わかった」

 戸惑いながらも私は立ち上がる。今気づいたがミントはリードをつけていない。ミントは私を導くように目の前の道を歩き出した。

読んでくださりありがとうございます。なにか一つでも反応をくださると励みになります!

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