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不登校女子の唯一の味方

 私、斎藤紫織は友人と一緒に幸せな人生を送るのが夢だった。

 でもそれは過去の夢。今の私は人間が嫌いだ。

 正しくいうなら、人間のことが信用できない。

 中学一年生の頃までは、私は人付き合いが苦手なだけの、普通の人間だった。

 毎日学校に行き、成績も平均くらい。友達は少ないけど、毎日登下校を共にする親友はいた。部活もさぼらず特に目立つこともない。そんな中学生。


 けれども中学二年生になったとき、私は何がきっかけか分からないが、自分の陰口をよく耳にするようになった。

『私このクラスに嫌いな人いるんだよね~。前の席に座ってて、眼鏡をかけてて、セミロングヘアの真面目ちゃん』

『えーそんな人いる?』

『いなくなっても分からないくらい、影の薄い女なんじゃない?』

 廊下で笑いあいながらそう話すクラスメイト。窓際の席に座る私に、その会話は丸聞こえだ。きっとわざとなんだろうけど。

 私はそういう陰口を自分に向けられたものだと感じる一方、どうすることも出来ず、自分自身がどうしたいかも分からない。ただ嫌な気分だけが蓄積していき、学校は楽しくない。

 やりたくないことをやり続けるのは、とても辛いことだ。


 そしてクラスで陰口が聞こえるようになって以降、私の心は今まで以上に敏感になった。

 元々自分が周りからどう思われているか、嫌われていないかと気にするタイプだったけど、その傾向はさらに強くなった。

 それからの私は、とてもしんどい思いをしながら学校に行っていた。学校に行きたくないという思いは、日に日に強くなっていた。

 それでも私は、学校に行くのをやめなかった。真面目なせいで。


 私の中でその意地っ張りが崩れたのは、中学二年生の秋だった。

 昼休みのとき、私は図書室へ行こうと教室を出た。隣の校舎に行くために渡り廊下を渡ろうとしたとき、いつも陰口を言っているクラスメイトと、私の親友が話しているのを見つけた。

 気にせず彼女らの背後を通りすぎようとした、そのとき

『私は紫織のこと嫌いだよ?』

 反射的に足を止めてしまった。

『もう習慣になってるから一緒に登下校してるけど、あの子って声小さいし早口だし、何言ってるかわかんなくて、一緒にいて楽しくない。そのうえ自分の好きなことを長々と喋るオタクっぽいところもあるし。めんどうだよ』

 彼女らは外を見ながら話していて、背後の私に気づいてない。私は足早に渡り廊下を渡った。走ってないのに、心臓はバクバクとうるさかった。


 私は図書室に行かず、トイレに駆け込んだ。涙は止まってくれなかった。チャイムが鳴っても、その場から動けなかった。

 その日以降、私は学校に行ってない。他の友人も、家族さえ、私のことを嫌っているかもしれない。人と関わるのが嫌になった私は、部屋に引きこもった。


 中学三年生の夏休み明け。私はいつものように、お母さんが貰ってきた学校のプリントに目を通す。修学旅行の案内や、進路相談の日程などを無視し、私はプリントを全てゴミ箱に捨てた。

 私にはこれといって将来の夢がない。来年の春から通信制高校に行くことになっているけど、そこで何がしたいかと言われても返答に困る。強いて言えば、イラストを書くことは好きだが。

(友達を作る? なりたい仕事に就く? そもそも、誰かを信じるなんて出来そうにない)

 私は勉強机に座り、スケッチブックを開いた。


 家族以外の人と関わってない私には、癒しが二つある。一つは、空想の世界だ。

 本を読んだりゲームをしたりして、空想の世界へ行く。その間だけは、現実のことなど忘れて楽しめる。時には、こんなキャラになってこの世界に行きたい、とオリジナルキャラクターの設定とイラストを描いたりする。

(社交的で、人と話すのを恐れない。信じる人と疑う人の区別がしっかりしてる。それが私の理想。みんなに頼られる人になれるのは、空想の世界だけ)

 一心不乱にイラストに色を塗る。十数分で、大人っぽい女子高生の絵が完成した。

(こんな可愛くて純粋な友達がいたら……)

 そこまで考えて私は頭を振る。そんな人、いるわけがない。


 スケッチブックを片づけて、ベッドに寝転がる。ふと、お母さんの言葉を思い出した。

『今は難しいかもしれないけど、いつか紫織も誰かを信じれる日が来るわ。心の傷は、時間が癒してくれるものよ。だから少しずつ、元に戻せていけたらいいわね』

「……本当に、私が誰かを信じれる日がくるの? そんな人、いるなら今すぐ会いたいよ」

 時間が立てば、勝手に人を信じられるようになるのだろうか。そんなわけない。自分から動かない者が、どう成長するというのだろう。

「私は、幸せになりたいよ。誰も信じれない私には無理だろうけど」

 また暗い考えに陥りそうになる。私は逃げるようにして、スマホで音楽を流す。昨日プレイしたゲームの音楽だ。目を閉じそれを聞いていると、そのゲームのことばかり考えられるようになった。

 そのまま私は眠りに落ちた。


 目を覚ますと、既に西日が傾く時間になっていた。

 二時間くらい昼寝をしていたようだ。私はゆっくりと起き上がる。

 そのとき、扉の向こうから犬の鳴き声が聞こえた。

 私は扉をあける。その瞬間、私の足元にペットのミントが突撃してきた。

「わわ、ミント、久しぶりだねぇ」

 私は口元を緩ませその場に座り、ミントを抱きかかえる。小さなチワワであるミントは、エメラルドグリーンのスカーフをつけていて、毛がふわふわしていて人形のようだ。


 私の第二の癒しはミントと触れ合うこと。動物は人間より思考が単純だ。嫌いなのにそれを隠すとか、相手を言葉で攻撃しようとか、そんなことはしない。嬉しいときは嬉しい、怒っているときは怒っている。とても分かりやすいのである。

 小学五年生の頃からの友達であるミントと遊ぶことは、私が生きてるうえでの大きな楽しみになっていた。

 そのことを理解して、お母さんは私の部屋にミントと遊ぶための道具を持ってきてくれた。日々増えていくそれで私は今日もミントと遊ぶ。

 ちなみにお母さんに関しては、半信半疑といった感じだ。私のためを思ってないと、道具を持ってきてくれたり、プリントを渡してくれたりしないと思う。その反面迷惑をかけているということは自覚しているので、完全に信頼することも出来ずにいる。


「ミント、ボールで遊びたいの? じゃあ廊下でやろ!」

 私は廊下の端から端へボールを投げる。それをミントがすぐに取りに行き、また私が投げる。狭い廊下だけど、時折奥の部屋にボールが行くこともあるので、それほど単調でもない。

 それでも何度も繰り返していると飽きてくる。

「ミント、外で遊ぼっか」

 私は今ほとんど学校に行ってない。でもお母さんやミントと一緒なら外には出られる。ミントの散歩に行くこともあるし、お母さんの買い物に付き合うこともたまにある。それでも昼間はあまり外に出たくないけれど。

 フリスビーを持って、家の外に出ようと準備する。そのとき

「紫織―! お風呂沸いたわよ!」

 と一階からお母さんの声が聞こえてきた。

「はーい」

 楽しい時間が終わったことに落胆し、私は上着とフリスビーを片づけた。ミントはまだ遊びたいといいたげな目で私を見ている。

「ごめんね。今からお風呂いかなきゃ。また明日遊ぼう」

 私がしゃがんでそういうと、ミントはワンと元気よく返事して、先に一階へ降りていった。

読んでくださりありがとうございます。この話は短編です。

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