008 王の頼み
僕とカルさんは王の話しを聞くために謁見室に居残った。
王の後ろにいた貴族っぽい人たちは、ほとんどいなくなった。何故か第三王女と侍女っぽい人が壁際にいて、僕達をじっと見つめていた。
王が僕達の方を向き話し始める。
「エイト殿、カル殿呼び止めてしまってすまない。」
「はい、僕達に何かありましたか?」
「残ってもらったのは貴殿等に頼みがあるからじゃ。訓練場でカル殿のスキルを使用していたのを裏でこっそり見ていたんじゃが、あれは農業関連のスキルじゃろ?」
「んだ。オラは農業関連のスキルしか持たねえだ。」
「ふむ。そのスキルはどのような土地でも農作物が育つのか?」
「んだ。オラのスキルにかかればどんな荒地でも大丈夫だけど、農作物を狙うような害獣がいる場所はだめだよ。」
「なるほど。ならば西の山脈を越えた荒野に出向いて農業をやって欲しい。そこは隣接する魔の森の影響で一年中曇っていて、植物も育たない土地のため害獣も寄り付かない土地じゃ。行ってくれるか?」
「オラは農業できるんならどこにでも行ぐだよ。主様、行ってもいいだか?」
(カルさんだけなら行ってもらって構わないけど、やっぱり僕も一緒に行かないといけないのかな。ん~~返答に困るな。)
「すいません、王様、カルさんだけその荒野へ行かせて僕は王城へ残っても良いでしょうか?」
「それは否じゃな。エイト殿もカル殿と一緒に行ってもらう。半ば強制になるが許せ。」
「えっと、僕は農業関連のスキルがないのにどうして一緒に行かないといけないんですか?」
「エイト殿も一緒に行ってもらう理由は3つある。」
「1つは、エイト殿を養う余力が王国にはないからじゃ。食料が不足していて、王国民を飢えないようにするだけで精一杯じゃ。」
「2つ目は、エイト殿に戦う能力がないからじゃな。鑑定したデータは共有させてもらっているが、一般の王国民並のステータスじゃったな。カル殿以外の2体目の召喚ができないのも理由の一つじゃ。」
「3つ目は、カル殿の農業の手伝いをしてほしいからじゃ。カル殿が農業系のスキルが万全でも、収穫時は一人では大変じゃろ。」
(だめだ、こんなにボロカス言われたらさすがにもう反論しようがないな。農業やって見返してやろう。模擬戦の時、赤城達に馬鹿にされたの思い出した。)
「わかりました。僕もカルさんと一緒に西の荒野へ行きます。ただ農作物ができるまでどのくらいの期間が必要かわからないので、ある程度の食料を分けてもらいたいです。」
「うむ。できる限りの食料は持たせよう。」
「あと、西の荒野へどうやって行けば良いでしょうか?山脈には魔物がいて危険なんですよね?」
「それについては心配しなくて大丈夫じゃ。王城から荒野への転移装置があるので、そこから転移してもらう。転移には大量の魔石が必要で、今は2人分の転移できる魔石しかストックがない状況じゃ。勇者召喚時に王国中の魔石を消費してしまってな。」
(それは某銀行員のドラマみたいな使えない銀行員を低給の企業へ出向させる片道切符みたいな状況じゃないか。ちょっと嫌だな。)
「僕達は荒野へ行ったらもう王城へ戻ってこれないんですか?」
「そんなことはないぞ。しばしの間だけエイト殿達だけで行ってもらう。これからゼノンと勇者様方がダンジョンに行ってレベル上げをしてもらうが、その時に魔石も回収してもらう予定じゃ。ダンジョンでの魔石獲得量は多い。大量の魔石獲得後、往復できる魔石を持たせて荒野へ衛兵を向かわせるので安心せい。」
(うわ~安心出来ねえ。そもそも魔王軍が王城攻め込んだらどうするんだよ。まあその時は逆に荒野にいたほうが安全かもしれないけど。)
「わかりました。では出発はいつでしょう?」
「明日の早朝に2人に転移してもらう。何か必要なものがあれば、言ってほしい。できる限り用意しよう。」
「とりあえず、当面の食料や水、寝床、テントなんかあれば良いですね。歯磨きセットとかもお願いします。」
「承知した。衛兵よ今言われたものを準備せよ。」
「御意。」
近くにいた衛兵が慌ただしく部屋から出て行った。
「これで話しは終わりじゃ。夕飯を食べて明日に備えてほしい。」
ここで、ずっと壁際にいた第三王女が僕たちに近づいてきていきなり話しかけてきた。
(あれこの子名前なんだっけ。第一王女と第二王女を凌ぐ可愛さだな。僕の妹ぐらいの年頃だと思うけど。)
「あの、エイト様。すいません、1つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。僕に応えられることなら。どうぞ。」
「エイト様の召喚はカル様の他に召喚できないのでしょうか?2体目の召喚を再度実演してもらえませんか?」
「えっと、模擬戦の時に2回目の召喚試したんだけどなあ。ではもう一回試してみますね。」
一呼吸おいて、
「召喚・・・・・・」
数秒沈黙
「2体目召喚できませんでした。すいません。」
「ミランよ、気が済んだか。エイト殿も困っておろう。エイト殿すまんな。衛兵よエイト殿とカル殿へ食事の案内をしてやれ。」
「御意。」
「エイト様、こちらへ」
(そうだミラン王女だ。ミラン姫と呼ぶことにするか。ミラン姫がっかりしているがとりあえず気にせず食事に行こう。最後の晩餐かもしれないし、切実。)
僕とカルさんは衛兵に連れられて食事へ行くことにした。
ミラン王女視点
私はミラン・ノルマディー、15歳。私の母はマウンティー領の領主の娘で、政略結婚で王である父上の第三夫人として迎えられ、私を生んで3年経ってから病気で亡くなってしまった。母上との記憶はほとんどない。兄上や姉上は私と母親が違うため、話しをする機会がほとんどなかった。私はいつも一人で遊ぶことが多かった。侍女のルナだけが私の話し相手になってくれるけど、それだけでは日々退屈だった。
そんな境遇から、私は誰よりも本を読むことが好きだった。王城に眠る本は片っ端から読み、誰も読まない古書まで読んでいた。500年前の勇者様と魔王との軍記物も一通り読んだ。所々虫食いやインクが薄まって読めないページが多かったが、私のスキル『透視』を使って読むことができた。恐らく、500年前の軍記物を正確に読むことができるのは王国で私だけだろう。
かつて、召喚された勇者様は今回みたいに複数人召喚され、その中で当時、一番活躍した勇者様が召喚士と記載されていた。召喚士様は複数の召喚によって魔王軍を圧倒したと記載されていた。他の勇者様も王国兵よりは強かったが、魔王や魔王の幹部達を倒せる実力はなかったと記載されていた。
以上の内容を父上だけに助言したが、父上は重臣達と相談し、エイト様を荒野へ追いやること決めてしまった。
「父上、本当によろしいのですか?エイト様を荒野へ行かせて。伝説の召喚士かもしれませんよ。」
「農夫一体しか召喚できない召喚士などゴミくずだろう。荒野で野垂れ死にしてくれた方が、無駄に食糧を減らさずに済む。それに、王国の食糧事情がよくないのも事実だ。エイト殿達が荒野で農業を成功させて戻ってきたら、それはそれで良いことではないか。」
「せめて、2、3日様子をみてはどうしょう?エイト様のレベルが上がれば召喚できるかもです。」
「う~む。その2、3日で確実に成果があればよいが。現在、お主の兄上達をはじめ数多くの家臣達が戦場へ駆り出され、必死に魔王軍を食い止めている状況じゃワシの一存だけでは決められぬ。」
「わかりましたわ父上。わたくしも荒野へ行ってエイト様の様子見てきます。わたくしの転移用の魔石もお願いします。」
「転移用の魔石は2人分だけしかストックはないぞ。追加の補充は1週間以上は先になる。」
「え、それではエイト様達は本当に野垂れ死になりますわ。父上、わたくし、マウンティー領の叔父上に会いに行って来ます。」
「わかった。マウンティー領の領主なら何とかしてくれるだろう。気を付けて行っておいで。」
「ありがとうございます父上。ルナ急いで支度を。」
「はい。」
ミランとルナは王国の西側マウンティー領へ旅立つ。




