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雨宿りをする豚とアジフライ

作者: 高橋ひかり

雨宿りで入った食堂でのお茶目な1日

 雨が本降りになり、私は軒先に駆け込んだ。そこは昔ながらの佇まいをした、年季の入った食堂だった。扉を開けると、湯気と出汁の懐かしい香りに包まれる。


「すいませーん、雨宿りいいですか?」

 

 カウンターには誰もいない。厨房の奥から、ぼこぼこと何かを煮込む音が聞こえてくる。

 そっと厨房を覗き込んだ私は、思わず目を疑った。

 大きな寸胴鍋。本来なら熱々のスープや出汁が仕込まれているはずのそれに、一匹の豚が気持ちよさそうに浸かっているのだ。

 

 寸胴の中は適温のお湯らしく、豚は器用にお玉を使い、自分の体にお湯をかけている。


「ふぅ、極楽極楽」

 豚はため息まじりにそう言った。

「え、豚が...しゃべった?!」

「おお、お客さん。失礼。ええ湯でしょ? 私、ポークと申します」

 豚、ポークはそう自己紹介した。


「寸胴で何してるんですか?」

「いやいや、雨で体が冷えちゃってね。店主には内緒でひとっ風呂。このお湯の香り、いいでしょう? 実はこれ、とん汁のベースになる出汁なんだ。私の汗がいい隠し味になるんですよ」

 

 そう言って、ポークは自慢げに体から湯気を立てた。その瞬間、奥から店の親父さんが、ギョッとした顔で飛び出してきた。


「こら! ポーク! また勝手に寸胴を使うんじゃない! 衛生に悪いだろうが!」

 親父さんの怒声が店内に響き渡る。

「やっべ! バレた!」

 ポークは慌てて寸胴から飛び出し、床を濡らしながら店外へ向かって走り出した。


「じゃあねお客さん! あばよっ!」

 走りながらポークは振り返り、悪びれずに「豚だけに、トンズラだ!」と一言、叫んで雨の中へ消えていった。

 

 親父さんは溜息をつき、頭を掻きながら私に言った。

「見ての通り、変な豚でね……。お客さん、すみませんね。すぐに掃除しますから。さ、せっかくだから何か召し上がっていきませんか? 今日のおすすめは、自慢のアジフライ定食です」

 

 私は思わずツッコミを入れた。

「……豚じゃないんかい!」

下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオの『タイトルは面白そう』で、柳生二十兵衛のラジオネームで出したメールで登場した豚のポークを出しました。

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