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第九話 逆襲の布石、辺境の誓い

 翌朝、村の空気は緊張に包まれていた。

 夜の襲撃を目撃した村人たちは口々に囁きあい、王都の密偵が現れたことを知って震えていた。


「……やはり、ただの噂じゃなかったんだ」

「王都に狙われるなんて……俺たちの村が戦場になるのか?」


 恐怖が村を覆う。

 だがその中央に立つアレンとクラリスの瞳は、決して揺らいでいなかった。


「王都が我らを恐れるのなら、むしろ好機です」

 クラリスが紅い瞳で村人たちを見渡す。

「追放者や断罪者に未来はない、と彼らは嘲りました。ならば――私たち自身で未来を築けばいい」


 その声音は凛と響き、怯えた人々の心を掴んだ。


 一方その頃、王都。

 王太子の執務室では、怒声が飛び交っていた。


「密偵が返り討ちに遭っただと!? たかが追放者と悪女に!」


 重臣たちが沈黙する中、ひとりの老将が低い声で告げる。

「殿下、軽視は禁物かと。あの二人、そして辺境の者たちを糾合すれば……反乱の火種となりましょう」


 王太子は顔を歪めた。

「反乱……? 冗談ではない! 今のうちに潰せ!」


 その声は、王国全土へ戦乱の影を広げようとしていた。


 夕刻、村の広場。

 アレンは剣を背に、村人たちの前に立った。

 クラリスとセリアも並び立ち、焚き火が三人の影を大きく映し出す。


「みんなに頼みがある。……俺たちと共に戦ってくれ」


 その言葉に、ざわめきが広がる。

「俺たちは農民だ。戦なんて……」

「王都に逆らったら、処刑されるぞ……」


 怯える声。しかしアレンは真っ直ぐに続けた。


「俺は追放された。クラリスは断罪された。セリアは孤独に魔導書を抱えていた。――だが俺たちは力を合わせ、この村を守った!」


 彼の言葉に、村人たちの表情が揺れる。


「王都にとって俺たちは棄て駒だ。だが……だからこそ、自分たちの居場所は自分たちで守らなければならない!」


 その声は熱を帯び、広場の空気を変えていく。


 クラリスが一歩前に出た。

「私たちに必要なのは“信じ合う力”です。あなたたちの力を貸してください。私は必ず、この村を守り抜きます」


 紅の瞳が真剣に村人たちを見つめる。

 やがて農夫のひとりが手を挙げた。


「……俺は戦う。昨日あんたらに救われた。今度は俺が返す番だ」

「俺もだ!」

「俺も……!」


 次々と声が上がる。

 恐怖の色は消え、代わりに闘志が燃え始めていた。


 夜。

 アレン、クラリス、セリアは広場に集まり、三人だけの誓いを交わした。


「これで、軍勢の礎ができましたね」

 クラリスが静かに呟く。


「まだ小さな一歩だ。だが、これを積み重ねれば必ず王都に届く」

 アレンの声は低く、だが確かな決意がこもっていた。


 セリアが頷き、笑みを浮かべる。

「孤独じゃない。三人がいれば、必ず道は開ける」


 三人は焚き火の前で手を重ねた。

 追放者と断罪者、そして辺境の魔導師。

 決して交わるはずのなかった運命が、いま“軍勢”という形で一つになろうとしていた。


 その夜更け。

 村の外れ、丘の上。

 アレンとクラリスは並んで夜空を見上げていた。


「……お前、本当に大丈夫か?」

「ええ。むしろ胸が高鳴っていますわ」

 クラリスの微笑みは、凄絶でありながらも美しかった。


「復讐だけじゃない。これは私たちの未来のため。――最強夫婦として、必ず王都に凱旋しましょう」


 アレンは頷き、彼女の手を強く握った。

 星々の下、二人の誓いが重なる。


 ――逆襲の物語が、本格的に動き始めていた。

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