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第四話 村を救う剣と魔法

 轟音と炎に包まれ、村は混乱に陥っていた。

 外れの納屋が燃え上がり、家畜が悲鳴を上げる。

 村人たちは子供を抱えて逃げ惑い、男たちは慌てて鍬や斧を手に取った。


「野郎ども、全部奪えぇ!」

 松明を掲げた盗賊団が十数人、怒号と共に押し寄せる。

 その顔には殺気と欲望しかなく、村を焼き尽くす勢いだった。


「やっぱり来たか……!」

 剣を抜いたアレンが前に出る。

 クラリスは彼の背中に寄り添い、冷静に村の地形を見渡した。


「正面からは不利です。彼らは数が多すぎます」

「だが村人を守らなきゃならない。時間を稼いでくれれば、俺が斬り込む」

「ええ――あなたに賭けます」


 クラリスの紅の瞳が妖しく光り、魔法陣が浮かび上がった。


「《幻影の霧》」


 淡い靄が広がり、夜の街道を白く染める。

 視界を奪われた盗賊たちが罵声をあげた。


「な、なんだ!? 前が見えねえ!」

「罠か!? クソッ!」


 その混乱の中、アレンの姿は霧を裂いて突進していた。


「――そこだ!」


 剣閃。

 一人目の盗賊の腕を切り飛ばし、続けざまに二人目の胸を突く。

 霧の中から現れる剣撃は、まるで幻の獣の牙のように正確だった。


「な、なんだあいつ……ただの追放者じゃねえのか!」


 恐怖が走る。

 だが背後からクラリスの声が追い打ちをかける。


「逃がしません。《拘束の鎖》!」


 光の鎖が絡みつき、数人の盗賊を一気に地に縫いとめた。

 倒れた盗賊を、アレンの剣が容赦なく薙ぎ払う。


 ――その瞬間、村人たちが呆然と見守っているのに気づいた。


「な、なんだ……あの二人」

「貴族の女が……魔法で盗賊を縛ったぞ……?」


 彼らの目が、少しずつ変わり始める。


 しかし盗賊の頭目が吠えた。

 他の連中よりも一回り大きな体躯に、鉄棍を振るう巨漢。


「舐めやがって! ガキどもがァ!」


 棍棒が唸りを上げ、アレンに振り下ろされる。

 地面が割れ、土煙が舞った。


「ぐっ……重いな!」

「アレン!」


 クラリスの叫び。

 アレンはすんでのところで受け止めたが、衝撃で腕が痺れた。


 頭目の顔に、憎悪と狂気が混ざる。

「俺は辺境一の力を持つ男だ! 追放された騎士風情が勝てるかよ!」


 だがアレンは、力強く剣を握り直した。

「……俺は功績を奪われた。無能と嘲られた。だが――」


 剣を振り抜く。

 鋼と鋼が激突し、火花が散る。

「この剣だけは、俺の真実だ!」


 次の瞬間。

 クラリスの詠唱が重なった。


「――《炎鎖》!」


 紅蓮の鎖が頭目の足元から絡み上がり、動きを止める。

 その隙を、アレンの一撃が貫いた。


「はあああっ!」


 剣が鉄棍を弾き、巨漢の胸を裂いた。

 血飛沫と共に頭目が倒れる。


 残った盗賊たちは戦意を失い、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。


 炎は消し止められ、村に静けさが戻った。

 村人たちは口々に二人へ視線を向ける。


「……あの騎士、すげえ腕だったな」

「悪役令嬢だなんて……噂と全然違うじゃないか」

「助けられたのは事実だ……」


 少し前まで疑念と敵意に満ちていた目が、今は畏敬と感謝を帯びていた。


「……私たち、ほんの少しは認められたようですね」

 クラリスが微笑む。

 アレンは剣を収め、肩で息をしながら頷いた。


「ここでなら……やり直せるかもしれないな」


 二人は夜空を見上げる。

 月は雲間から顔を出し、村を静かに照らしていた。


 ――追放された下級騎士と、断罪された悪役令嬢。

 彼らの物語は、今ようやく始まったばかりだった。

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