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第三十話 最強夫婦、凱旋す

Ⅰ 黒き梟との最終決戦


 砦を揺るがす轟音。

 アレンの剣とカラムの漆黒の刃が激突し、火花が夜空を裂いた。

 周囲の兵たちは息を呑み、誰もが固唾を呑んで見守る。


「ふむ……思った以上だ」

 カラムの瞳が冷たく光る。

「追放者と断罪令嬢が、ここまでの力を見せるとはな」


「俺たちは追放された。お前たちが捨てたからこそ、ここに立っている!」

 アレンは血に濡れた剣を振り上げ、斬り込む。


 カラムは軽やかに身を翻し、影の剣で受け止めた。

「だが結束など脆い。強ければ強いほど、裂ければ大きく崩れる」


「崩れないわ!」

 クラリスの鎖が紅蓮の炎を纏い、カラムの足を縛る。

「私たちは、何度だって手を取り合う!」


 炎鎖が爆ぜ、カラムの外套を焼いた。

 だが、彼は笑みを浮かべる。


「面白い……では、本気で試させてもらおう」


 その瞬間、地面から無数の影兵が這い出した。

 砦の周囲を黒が埋め尽くし、兵たちに襲い掛かる。


「くっ……! 敵が増えすぎだ!」

「守れ、砦を守れ!」


 兵たちが悲鳴を上げる。


 だが、その背後でリリアナが祈りを捧げた。

「――《聖なる光》!」

 砦全体を包むような光が降り注ぎ、影兵たちの動きが鈍る。


「聖女様……!」

「まだ立ち上がれる!」


 セリアも、満身創痍の体を杖で支え、結界を展開した。

「ここで崩すわけにはいかない……! ――《氷壁》!」

 砦の裂け目に氷が張り付き、影兵の侵入を食い止める。


 仲間の支援が、戦場を支えていた。


Ⅱ 夫婦共闘


 アレンは剣を握り直し、クラリスと背を合わせた。

「クラリス、ここで決めるぞ!」

「ええ、あなたと共に!」


 二人の声が重なり、剣と鎖が同時に輝く。


 アレンの剣は真っ直ぐに。

 クラリスの鎖はしなやかに。

 二つの力が交錯し、影の剣を押し返した。


「馬鹿な……!」

 カラムが初めて表情を歪めた。

「力ではなく、心で……私の影を押し返すというのか!」


「そうだ!」

 アレンが叫び、渾身の斬撃を叩き込む。

「俺たちは追放された! だが、その痛みがあるからこそ、強く結ばれた!」


「だから裂けない!」

 クラリスの炎鎖が影の剣を絡め取り、爆ぜる。


 轟音。

 黒き梟の剣が砕け散り、砦を震わせた。


Ⅲ 黒き梟の最期


 膝をついたカラムの仮面が割れ、鋭い瞳が露わになった。

「……なるほど。最強夫婦か。……確かに名乗るだけの価値はある」


 血を吐きながらも、彼は不気味に笑った。

「だが、私を倒したところで、王都が滅ぶわけではない。……奴らはさらに強大な力を……」


 言葉を最後まで言う前に、アレンが剣を振り下ろした。

「黙れ。俺たちはこれからも勝ち続ける!」


 刃が閃き、カラムの声は絶えた。


 黒き梟――カラム将軍、討ち死に。


 その瞬間、辺境連合の兵たちの歓声が爆発した。

「勝った! 本当に勝ったぞ!」

「最強夫婦が黒き梟を討った!」


Ⅳ 勝利の代償と決意


 戦は終わった。

 砦の外に広がる影兵は消え、王都軍は総崩れとなって退却していった。


 だが、代償は大きかった。

 多くの兵が倒れ、セリアは再び昏睡に落ち、リリアナも血のように赤い涙を流して祈りを終えた。


 勝利の歓声の中、アレンとクラリスは静かに手を取り合った。

「……俺たちはまた勝った。だが、これからが本当の始まりだ」

「ええ。辺境だけでなく、この国全てを変えるために」


 紅い瞳と剣が交わり、誓いを結ぶ。


Ⅴ 凱旋


 数か月後。

 王都の城門前に、辺境連合の旗が翻った。

 剣と鎖の紋章が、堂々と城下を覆う。


「最強夫婦が帰ってきた!」

「追放者と断罪令嬢が……英雄となって!」


 人々の歓声が街を埋め尽くす。

 かつて彼らを追放し、断罪した王都の人々が、今は彼らを称えていた。


 王太子は蒼白な顔で玉座に縋りついた。

「……化け物め……!」


 だがもう、その言葉は人々には届かなかった。


 アレンとクラリスは玉座の間に進み出る。

 剣と鎖が交わり、紅い瞳と鋭い光が王を睨んだ。


「俺たちはもう敗者じゃない」

「私たちは“最強夫婦”。この国を導く者です」


 その言葉に、誰も逆らえなかった。


Ⅵ エピローグ


 季節は巡り、辺境と王都は新たな秩序の下で平和を取り戻した。

 農夫は畑を耕し、子供たちは笑い、街には商人が行き交う。


 砦には今も剣と鎖の旗が翻っている。

 それは“逆襲の象徴”ではなく、“希望の象徴”として人々の心に刻まれていた。


 丘の上で、アレンとクラリスは並んで立っていた。

 風に揺れる草原を見下ろし、互いに微笑む。


「ここまで来たな」

「ええ。追放され、断罪されて……でも今は最強夫婦」


 アレンが剣を掲げ、クラリスが鎖を揺らす。

「これからも共に歩もう。どんな未来でも」

「ええ。あなたとなら、どんな影も斬り裂ける」


 二人の瞳が重なり、世界を照らす。


 ――こうして、追放された下級騎士と断罪された悪役令嬢は、

 復讐と愛の果てに“最強夫婦”となり、永遠に語り継がれる伝説となった。

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