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第二十三話 討伐軍、砦を囲む

 夜明け。

 砦の上から見下ろす光景に、兵たちは息を呑んだ。


 地平線を埋め尽くす松明の列。

 王都の旗が風に翻り、重装歩兵と騎兵が整然と進軍してくる。

 その数――五百。辺境連合の倍以上。


「これが……王都の本気……」

 誰かが呟き、空気が凍った。


 だがアレンが剣を掲げる。

「数に怯むな! 俺たちは既に砦を落とした! この地に立つのは“敗者”ではない! 解放を求めた戦士だ!」


 その声に、兵たちの瞳が再び熱を帯びる。


「辺境連合よ! 今日こそ示せ! 俺たちの意志を!」


 鬨の声が響き、王都軍の太鼓の音とぶつかり合った。


 開戦の合図は、敵の投石器から放たれた巨岩だった。

 轟音を立てて砦の壁に叩きつけられ、石片が飛び散る。


「セリア!」

「任せて!」


 杖を振り下ろした瞬間、青白い光が砦を包み、ひび割れを修復していく。

「――《氷結界》!」

 砦の壁は氷の鎧を纏い、次の一撃を弾き返した。


「すげぇ……!」

「魔導師隊がいる限り、この砦は落ちねぇ!」


 兵たちの声に、セリアは額の汗を拭いながら微かに笑った。


 次に押し寄せたのは、無数の矢の雨。

 だが弓隊が応射し、矢と矢が空中で激突して散った。

 空が黒く染まり、地上は火花と木片の嵐に包まれる。


 アレンは矢を避けながら叫んだ。

「弓隊、敵の投石器を狙え! 砦を叩かせるな!」


 放たれた矢が次々と敵兵を射抜き、投石器の動きが鈍る。


 その間に敵の歩兵が前進を開始。

 盾を組んだ重装兵が隊列を整え、じりじりと砦へ迫ってきた。


「門を守れ!」

 アレンが叫び、槍兵たちが一斉に構える。


 轟音と共に破城槌が門を打つ。

 木が悲鳴を上げ、鉄が軋む。


「持ちこたえろ!」

 クラリスが軍旗を掲げ、声を張った。

「恐れることはありません! 私たちの背後には家族と未来がある! その想いが、王都の命令に勝るのです!」


 紅の瞳が兵たちの心を貫き、怯えが力へと変わっていく。

「俺たちは負けねぇ!」

「最強夫婦の下で戦うんだ!」


 破城槌の音に負けぬ咆哮が、砦を震わせた。


 戦況は激烈を極めた。

 敵兵が梯子を掛け、次々に登ってくる。

 アレンは剣を閃かせ、よじ登る兵を薙ぎ払った。


「ここは通さない!」

 剣が閃き、血が飛び散る。

 アレンの背に矢が迫った瞬間――


「――《炎鎖》!」

 クラリスの鎖が敵兵を絡め取り、炎で焼き尽くす。

「ありがとう、クラリス!」

「共に戦うと誓ったでしょう!」


 二人の連携に、兵たちは奮い立った。


 しかし、戦場は甘くなかった。

 結界を支えるセリアの顔は蒼白に染まり、リリアナの祈りは声が掠れるほど続いていた。


「くっ……もう少し……!」

 セリアが杖を握りしめる。

「セリア、無理するな!」

「今やめたら……壁が崩れる……!」


 リリアナも負傷者の間を走り回り、光を注ぎ続けていた。

「お願い、立って……! あなたがいなければ隣の人も倒れてしまう!」


 兵士たちの荒い息と祈りの声が、戦場を満たしていた。


 やがて――敵軍の指揮官が前に進み出た。

 黒い甲冑を纏った騎士。

 王都近衛団の隊長、ヴァロール将軍。


「辺境の反乱者ども! 貴様らの抗いはここで終わる!」

 彼の声は雷鳴のように砦を揺らした。


「来いよ!」

 アレンが剣を構えた。

「俺たちの意志が、命令に屈することはない!」


 二人の視線がぶつかり、空気が張り詰める。


 ――討伐軍との大規模戦。

 その幕は、今まさに切って落とされた。

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