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第二十話 初陣、砦を落とす

 辺境連合が旗を掲げてから一月。

 三百の兵は日々訓練を積み、槍列も弓隊も整い始めていた。

 人々の顔つきはもう、ただの農夫や猟師ではなく、戦士そのものだった。


 そんな折、斥候が駆け込んできた。

「報告! 東の街道を守る王都軍の砦に、百の兵が駐留しているとのこと!」


 広場に緊張が走る。

 その砦は辺境と王都を結ぶ補給路に位置していた。

 ここを抑えれば、王都の補給を断ち、辺境の自由を広げられる。


「……ここが潮目だな」

 アレンは剣の柄を握りしめた。

「初陣にして、王都への宣戦布告」

 クラリスの紅の瞳が鋭く光る。

「私たちが勝てば、辺境の全てが立ち上がります」


 夜明け。

 辺境連合は砦を包囲した。

 槍兵が列をなし、弓隊が後方に構え、魔導師たちが詠唱を始める。

 その中心に立つのは、最強夫婦と呼ばれる二人だった。


「辺境連合よ! 今日の戦いは恐怖との決別だ!」

 アレンの声が夜明けを震わせる。

「俺たちは追放され、断罪された。だが今は違う! ――未来を掴むために剣を取る!」


 続けてクラリスが軍旗を掲げた。

「この戦はただの反乱ではありません! 解放の戦です! 王都の鎖を断ち切るのです!」


 兵たちが一斉に鬨の声を上げた。


 戦端が開かれた。


 砦の上から矢が降り注ぐ。

 だがセリアが前に出て杖を掲げた。

「――《氷盾》!」

 青白い氷壁が兵たちを覆い、矢を次々とはじき返す。


 その隙に槍兵が突撃し、城門に破城槌を打ち付けた。

 轟音が響き、木の扉が軋む。


「前へ! 恐れるな!」

 アレンが先頭で剣を振るい、砦の兵を斬り伏せる。


「アレン、左翼が薄い!」

 クラリスが叫び、鎖の魔法を放つ。

「――《炎鎖》!」

 紅蓮の鎖が敵兵を縛り、悲鳴が砦に響いた。


 だが敵も必死だった。

 油を流し、火矢で門を焼こうとする。

 炎が立ち昇り、辺境軍の兵が悲鳴をあげた。


「リリアナ!」

 アレンの声に応え、聖女が祈りを捧げる。

「――《聖なる雨》!」

 柔らかな光の雨が降り注ぎ、炎を鎮め、負傷者を癒す。


「うおおおっ!」

 再び兵たちが立ち上がり、破城槌を叩きつけた。


 ついに――城門が崩れ落ちた。


 砦内は混乱に包まれた。

 狭い通路に押し込まれた敵兵たちは次々と倒れ、指揮官は血相を変えて叫んだ。

「撤退だ! 砦を捨てろ!」


 だが退路はすでに塞がれていた。

 セリアの氷壁が出口を閉ざし、アレンの剣が敵を貫く。

 クラリスの采配に従った弓隊が要所を射抜き、逃げ場はなかった。


 わずか数刻で、砦は辺境連合の手に落ちた。


 夕刻。

 砦の上で、辺境軍の旗が翻っていた。

 剣と鎖の紋章が夕陽に染まり、人々は歓声を上げる。


「勝った……! 本当に勝ったんだ!」

「王都の砦を落としたぞ!」


 兵たちの喜びは爆発し、誰もが誇らしげに胸を張った。


 アレンは剣を掲げ、叫んだ。

「今日からここは王都の砦ではない! ――辺境の砦だ!」


 クラリスが隣で微笑み、声を重ねる。

「この旗が示すのは反乱ではなく、解放です! 私たちはもう追放者でも悪役令嬢でもない。――辺境を率いる英雄なのです!」


 兵たちが歓声で応え、砦は勝利の熱気に包まれた。


 だがその報せはすぐに王都へ届いた。

 玉座の間で王太子が報告を受け、蒼白な顔で震えた。


「砦を……落としただと? 百の兵を……たった一月で組織された連中に……?」


 重臣たちがざわめく。

「殿下、これはもはや一地方の騒乱ではございません。反乱軍です」

「早急に鎮圧を……!」


 王太子は叫んだ。

「千の兵を動員しろ! 辺境連合を叩き潰せ! さもなくば王国の威信は地に落ちる!」


 その怒声は、もはや恐怖にかき消されていた。


 夜。

 砦の上で、アレンとクラリスは並んで月を見上げていた。


「……これが俺たちの初陣か」

 アレンの声は低いが、力強かった。

「ええ。けれどこれは始まりに過ぎません」

 クラリスが紅い瞳を輝かせる。

「この砦を拠点に、さらに辺境を解放していくのです。そしていずれ――王都へ」


 彼女の言葉に、アレンは頷いた。

 二人の手が固く結ばれ、夜風に揺れる旗が未来を示すように翻った。


 ――最強夫婦の反逆は、ついに攻勢へと転じたのだった。

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