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第十九話 辺境連合、旗揚げ

 戦から十日。

 焼け落ちた家々には新しい木材が積まれ、村の空気は再び活気を帯びていた。

 だがそれはただの復興ではなかった。


 ――周辺の村々から、人々が続々と集まってきていたのだ。


「ローウェル卿、我らの村も加わりたい」

「ヴァルモンド様、どうか指揮を!」

「最強夫婦の軍に従えば、未来が拓ける!」


 槍を携えた農夫、矢筒を背負った猟師、かつて王都に仕えていた流浪の兵士まで。

 彼らは皆、王都に虐げられ居場所を失った者たちだった。


 広場に簡素な壇が設けられた。

 その上にアレンとクラリスが立つ。

 見渡す人々の数は、すでに三百を超えていた。


 ざわめきを鎮め、クラリスが紅の瞳を光らせて言葉を放つ。


「皆さん。あなたたちは“敗者”でも“余り者”でもありません。――この国の真の力です!」


 響く声に、兵たちの胸が震える。


「王都は追放と断罪で私たちを切り捨てました。ならば私たちは自らの手で未来を掴みましょう。辺境を一つに束ね、この国を揺るがすのです!」


 歓声が爆発した。


 アレンが剣を掲げ、咆哮を重ねる。

「俺たちは最強夫婦だ! お前たちの誇りを、力を、ここに集え! 今日この日、俺たちは――“辺境連合”として旗を掲げる!」


 兵たちが槍と剣を天に突き上げ、鬨の声が空を震わせた。


 夜。

 新たに作られた軍旗が焚き火に照らされていた。

 赤と黒を基調にした布に、剣と鎖が交差する紋章。


「どうかしら?」

 クラリスが布を広げて微笑む。

「お前の美意識が出てるな」

 アレンは苦笑した。

「でも……悪くない。強さと絆を象徴してる」


 セリアが横から口を挟む。

「村人たちも誇りを持てるわね。この旗の下でなら、どんな戦も戦える」


 リリアナが祈るように布に触れた。

「どうか、この旗が血で汚されても、希望を失わせませんように」


 四人の瞳に炎が映り、同じ決意を共有していた。


 翌日。

 辺境の村々の代表が集まった。

 丸太の長机に地図が広げられ、クラリスが冷静に指揮を執る。


「補給線を確保します。北の村には食糧を、東の村には矢を、南の集落には医療を担当してもらいます」


 農夫の代表が頷く。

「俺たちにできることなら、なんでもやる」


 猟師の頭領が声を張る。

「山の道は俺たちが守ろう。敵が進軍すれば、すぐ知らせる」


 兵站、偵察、訓練――すべてが形を帯び始めていた。

 クラリスの采配は王都の官僚に匹敵する冷徹さを持ち、アレンの存在は前線の誇りを支える。

 聖女リリアナの祈りは兵たちの心を守り、セリアの魔術は砦そのものを強化していた。


 こうして、“辺境連合”は本格的な軍として胎動を始めた。


 だがその頃――王都。

 玉座の間で報告を受けた王太子は蒼白になっていた。


「辺境連合……? 三百もの兵が旗を掲げたと……?」

「殿下、もはや小さな騒乱ではございません。これは反乱です」

「黙れ! あんな追放者と断罪者が……!」


 だが老宰相が静かに言葉を差し挟んだ。

「殿下。これは火遊びでは済みませぬ。今や“辺境連合”は人々の希望。……戦わねば王国そのものが揺らぎます」


 王太子の手が震えた。

 嫉妬と恐怖、そして焦燥が彼を縛っていた。


「大軍を……五百だ! いや千でもいい! 必ず叩き潰す……! 奴らを王都に近づけるな!」


 命が飛び交い、戦の影はより濃くなっていった。


 その夜。

 辺境の丘に立つアレンとクラリス。

 軍旗が風に揺れ、焚き火が赤く燃えている。


「ついに、俺たちはただの村じゃなくなった」

 アレンが呟く。

「ええ。もう後戻りはできません」

 クラリスは静かに微笑む。


「でも……怖くはない」

「どうしてだ?」

「あなたと一緒だから」


 紅の瞳と鋭い剣が、夜空の星に照らされる。

 二人の背後には三百の兵が立ち並び、歓声が闇を震わせていた。


 ――最強夫婦の物語は、ついに「反乱の炎」へと燃え広がった。

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