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第十四話 迫る大軍、備えの誓い

 辺境軍の初遠征から数日。

 「追放された騎士と断罪令嬢が軍を率い、村を救った」という噂は雪崩のように広がっていた。

 人々は彼らを“最強夫婦”と呼び、希望の象徴として語り始める。


 しかしその希望は、同時に王都にとって脅威でもあった。


 王都・謁見の間。

 豪奢な絨毯を踏み鳴らし、王太子は怒りの声を張り上げていた。


「まただ! また辺境の連中が勝ったというのか!」

 報告に震える重臣たちを睨みつけ、机を拳で叩く。


「もう盗賊相手ではありません、殿下」

 老宰相が低く言った。

「もはや辺境は“軍”と呼べる存在になりつつある。小手先の討伐では抑えきれませぬ」


「ならば……」

 王太子の瞳がぎらつく。

「二百、いや三百の兵を動員しろ! 辺境を踏み潰し、あの女と追放者を晒し首にしてやる!」


 怒声が玉座の間に響き渡った。

 戦火は確実に近づいていた。


 一方その頃、辺境の村。

 焚き火を囲んで四人は会合を開いていた。


「王都が兵を集めているという噂が届きました」

 セリアが地図を広げる。

「二百を超える軍勢。盗賊とは桁が違う規模よ」


「二百……!」

 村人たちの間にどよめきが走る。

「俺たちじゃ、とても……」


 恐怖が広がるその声を、クラリスが制した。

「確かに数では劣ります。ですが、私たちには“知恵”と“絆”がある」


 紅の瞳が強く光る。

「籠城に備え、結界を村全体に張り巡らせます。物資の備蓄も徹底する。そして――同盟者を求めます」


「同盟者?」

「ええ。辺境は広い。追放された者、虐げられた者たちが他にもいるはずです。彼らを迎え入れ、私たちの軍をさらに強くするのです」


 その言葉に、人々の表情が揺れた。

 リリアナが静かに手を組み、祈りを込めて言う。

「人は孤独では弱い。ですが、共にあれば奇跡を起こせます。――私たちがそれを証明しましょう」


 セリアも杖を掲げ、強く頷いた。

「結界の強化は任せて。三重の防御陣を敷けば、敵の進軍を足止めできるはず」


 アレンは剣を握りしめ、低く言った。

「数で押されても、俺たちは折れない。守り切ってみせる」


 翌日から、村は総力を挙げて動き出した。


 広場では槍兵の訓練が続き、若者たちの声が響く。

 女や老人たちは食糧の干し肉や保存食を用意し、子供たちですら矢羽根を整えていた。


 セリアは森で魔石を集め、結界陣を刻む。

「これで……三重の防御線が完成するわ」


 リリアナは負傷者を癒し、同時に兵たちの不安を祈りで和らげる。

「恐れるな。あなたたちは守られている」

 その声は心を照らし、兵たちの胸に勇気を宿した。


 クラリスは兵站を整え、補給線を管理した。

「一粒の穀物も無駄にはできません。戦は物資で勝敗が決まります」


 アレンは前線を率い、剣を振るい続けた。

「怯むな! お前たちはもうただの農民じゃない。誇りを持て!」


 村人たちの動きは日ごとに変わっていった。

 恐怖に揺れていた目が、今は戦意に燃えている。


 その夜、丘の上。

 四人は並んで村を見下ろしていた。

 松明の灯りが揺れ、整然と動く兵たちの姿は、もはや小さな村ではなく“軍”そのものだった。


「……信じられない。ここまで来るなんて」

 セリアが呟く。


「人は変われるものですわ。追放された私たちがそうであったように」

 クラリスが微笑む。


 リリアナが祈りを込める。

「この炎を絶やさずに……王都に届かせましょう」


 アレンは剣を背に、力強く言った。

「王都の大軍が来るなら受けて立つ。俺たちはもう“追放者”でも“悪役”でもない。――最強の軍勢として戦う!」


 四人の影が月明かりに伸びる。

 それはやがて、王国を揺るがす戦火の序章となるのだった。

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