表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/30

第十三話 初遠征、広がる伝説

 辺境の村で軍整備が始まってから一週間。

 人々の動きは確かに変わっていた。訓練を重ねた槍の列は揃い始め、兵站も整えられ、村全体が一つの砦のように引き締まっていく。


 そんな折、隣村から駆け込みの使者が現れた。

 衣服は泥にまみれ、息も絶え絶え。


「た、助けてください……! 盗賊どもが、村を――!」


 広場に緊張が走る。

 セリアがすぐに使者を支え、リリアナが癒しの光でその体を包んだ。


「隣村ですって……?」

 クラリスが低く呟く。

「ええ。これを放置すれば、私たちも同じ標的になる」

 アレンの瞳に決意が宿った。


「……初遠征だな」


 夜明け。

 辺境軍は総勢五十。槍を構える村人、魔法陣を刻むセリア、祈りを捧げるリリアナ。

 そして最前列にアレンとクラリスが立っていた。


「皆、恐れるな!」

 アレンの声が響く。

「俺たちはもうただの農民じゃない。訓練した兵士だ! この剣で、仲間を守る!」


 続いてクラリスが紅の瞳で全員を見渡す。

「勝てば、あなたたちは“王都に抗う力”を証明できます。誇りを胸に戦いなさい!」


 兵たちの胸に炎が灯り、鬨の声が夜明けを震わせた。


 隣村は炎に包まれていた。

 粗末な家々が燃え、住民たちは縛り上げられ、盗賊団が酒をあおりながら嘲笑っている。


「ここはもう俺たちのもんだ!」

「女も家畜も、全部好きにしろ!」


 その時――轟音と共に槍の列が突撃してきた。


「な、なんだ!? 兵士だと!?」

「辺境に軍なんてあるはずが――ぐあっ!」


 アレンが剣を振るい、敵をなぎ倒す。

 セリアの氷の魔法が道を塞ぎ、敵の逃げ場を奪う。

 クラリスの鎖が指揮官を拘束し、リリアナの光が人々を守る。


 村人たちは驚愕し、やがて歓声を上げた。


「助けに来てくれたんだ!」

「俺たちは見捨てられてなかった!」


 戦闘は一刻と経たずに終わった。

 盗賊団は壊滅し、隣村は救われた。


 縛めを解かれた老人が震える声で言った。

「……あんたたちは一体……?」


 アレンが剣を収め、胸を張って答えた。

「俺たちは追放された騎士と、断罪された令嬢。だが今は違う。――辺境軍だ」


 クラリスが微笑み、紅の瞳を輝かせる。

「最強の夫婦が率いる軍勢、とでも呼んでくださいな」


 村人たちがどよめき、やがて拍手と歓声が広がった。


 遠征から戻った辺境軍を迎えたのは、故郷の村人たちの大歓声だった。

 彼らの勝利はすぐに辺境一帯へと広がり、「追放者と断罪令嬢が軍を率いて盗賊を退けた」という噂が伝説のように語られ始めた。


「……評判は一気に広がりますね」

 セリアが呟くと、クラリスは静かに頷いた。

「はい。これは王都にとって、最も恐ろしいこと――人々が私たちを“希望”と呼び始めたことです」


 リリアナは祈りを込めて言った。

「この光を消さぬよう、私たちが導いていかなければ」


 アレンは焚き火を見つめ、拳を固く握った。

「必ず王都に届く。俺たちの声も、剣も、そして……この絆も」


 その夜。

 遠く離れた王都。

 密偵の報告を聞いた王太子は顔を歪めていた。


「辺境に……軍勢? それも人々の支持を得ているだと……!」


 苛立ちが玉座を震わせる。

 だがその声は、やがて恐怖にかすれていった。


「放っておけば……やがて王都を脅かす……!」


 辺境の小さな火は、確かに広がり始めていた。

 そして誰も、その炎を止められなくなりつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ