表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/30

第十二話 王都の動揺、辺境軍の胎動

 敗報は、王都へ瞬く間に届いた。


「な……に? 討伐軍が、追放者と断罪令嬢に敗れただと……!?」

 玉座の間に響く王太子の叫び。

 重臣たちがひざまずく中、顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた。


「わずか百にも満たぬ村人どもが、五十の兵を打ち破るなど有り得ぬ!」

「殿下……報告によれば、彼らは“軍勢”を築き始めているようです。追放された聖女リリアナも加わったとか……」

「聖女まで!? くそっ、どうしてあの女どもは私の足を引っ張るのだ!」


 王太子は机を叩き、荒々しく立ち上がった。

「辺境を見せしめにする! 次は百だ、いや二百だ! 必ず叩き潰せ!」


 その背後で、冷静な老宰相が小さく目を細めた。

(殿下……感情で動けば、かえって国を揺るがす火種になるぞ……)


 一方その頃、辺境の村。

 討伐軍を退けたことで、人々の心に誇りが芽生えていた。

 だがクラリスはその熱を冷まさず、確かな形へと育てようとしていた。


「この勝利を偶然で終わらせてはいけません」

 焚き火を囲む会合で、クラリスは堂々と語る。

「軍を整え、指揮系統を作るのです」


「軍勢……か」

 アレンは腕を組み、真剣に考え込む。


 セリアが紙に魔法陣を描きながら提案した。

「まずは三十人ずつの小隊に分けましょう。訓練を効率よく進められます」

「いい案です。私は補給と財務をまとめますわ」

 クラリスの瞳は強く光る。


「私は祈りと癒しを担います。兵たちの心を守るのが役目です」

 リリアナが穏やかに告げた。

 村人たちの間から安堵の声が広がる。


「……なら俺は前線を率いる」

 アレンが剣の柄を握り、低く言った。

「剣を振るうだけじゃなく、全員を守るためにな」


 翌日。

 村の広場では初めての“軍事訓練”が始まった。


 槍を構える若者たちに、アレンが声を張る。

「突撃! 一歩前へ!」

 地響きのような足音が揃い、槍が一斉に前を向いた。

 不揃いながらも、その姿は確かに兵の列だった。


 クラリスは後方で書類を広げ、兵站を整えていく。

「食糧と武具の管理はここで一元化します。盗賊に奪われぬよう厳重に」

 その冷徹な采配に、村人たちは真剣な顔で頷いた。


 セリアは魔法陣を刻み、結界の練習を指導する。

「この陣を村の周囲に張り巡らせれば、防御力が格段に上がるわ」


 リリアナは負傷者の回復を行いながら、静かな祈りを捧げる。

「大丈夫。あなたたちには“守られている”と感じてもらうことが、力になるのです」


 ――こうして、辺境軍は少しずつ形を成していった。


 夜。

 丘の上から村を見下ろしながら、アレンとクラリスは肩を並べていた。

 村の広場には松明が灯り、訓練に励む人々の声が響いている。


「……すごいな」

 アレンは思わず呟いた。

「数日前まで、ただの農民だった人たちが……今は兵士に見える」


「人は変われるのです。居場所を与えれば、希望を与えれば」

 クラリスの紅い瞳が、夜空の星を映す。

「だから私たちは、この村をただの村では終わらせません。――王都に匹敵する力を持つ、独立の拠点に育てます」


 その言葉に、アレンは黙って頷いた。

 彼の心にはもう迷いはなかった。


「……必ず守るさ。お前と、みんなと、そしてこの未来を」


 クラリスは微笑み、彼の手に自分の手を重ねた。


 遠く離れた王都では、また新たな陰謀が生まれていた。

 王太子の命を受け、さらなる大軍の準備が進められている。

 その数は数百。もはや辺境の村一つで受け止められる規模ではない。


 だが――辺境軍もまた、確かに成長していた。

 追放された騎士、断罪された悪役令嬢、辺境の魔導師、追放された聖女。

 そして彼らを信じる村人たち。


 小さな火は、やがて炎となり、王都を揺るがす日が来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ