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5 好きな人の兄。

 二回目ってどうなんだろう。

 そう思いながらも、頷いてしまった。

『拳の誓い』もアニメーションも音楽もすごいよかったので、二回みても絶対に楽しめる自信があるんだけど。


 ……あと土曜日に誰かと一緒にいられることは嬉しい。

 土曜日は幸奈ちゃんの誕生日。

 達也が幸奈ちゃんと二人で楽しそうに過ごしてると思うだけで、僕は落ち込んでしまいそうだ。


 心が狭い。

 達也にとって僕は幼馴染に過ぎない。

 結婚まで考えているなら、この関係はずっと変わらないだろう。

 ……壊してしまおうか。

 嫌われてしまおうか。

 そうなると諦めが付くのかな。


 達也の愛情が幸奈ちゃんだけに注がれる。

 以前は愛情でなくても友情を僕に注いでくれた。

 彼の隣は今は幸奈ちゃん。

 僕じゃない。


 もやもやしながらも一週間が過ぎて、土曜日がやってきた。


「おはようございます!」


 家に達也のお兄さん、和一さんがやってきた。

 仕度をしてから、一緒に出掛ける。

 達也はすでに出かけた後みたいだった。


 二回目の『拳の誓い』も面白かった!

 和一さんが泣いていて、ちょっと感動してしまった。

 もらい泣きしてしまった。

 一回目は泣かなかったのに。

 泣くっていいことみたいで、どんよりと溜まっていた気持ちが少し落ち着いた気がした。

 和一さんが昼食はチーズハンバーグの美味しいカフェに連れて行ってくれた。美味しかったのだけど、価格が……。

 奢ってもらい、とても申し訳なかった。

 その内、払ってもらうって言っていたから、ちょっと気になったんだけど。

 レストランで『拳の誓い』について沢山話をした。達也とは随分話してなかったら、まるで彼と話しているような気分になった。

 兄弟だから、やっぱり目とか似ていて、ドキッとすることがある。

 違う人なのに。

 僕の視線に気が付くと、優しく微笑まれ、それでドギマギする。

 大人ってすごい。


 レストランの後、唐突に猫カフェを勧められてびっくりした。

 実は猫が好きだ。

 うちでは飼えないから、猫の動画を見たりしてた。

 いつか猫カフェに行きたいとは思っていたけど、まさか夢がかなうと思わなかった。

 流石に今度はちゃんと支払った。

 和一さんの分も払おうとしたのだけど、そこは断固断られた。

 ふわふわした猫が沢山いて、可愛かった。

 猫のおやつを購入してあげると、猫が色々寄ってきて猫ハーレム。

 ふと視線を感じると、和一さんが穏やかに微笑んでいて、本当ドキドキする。達也が成長したらあんな風になるのだろうか。

 和一さんはかっこいいな。

 ずっと達也だけを見ていたし、達也としか遊ばなかったから、こうして一緒にいると彼のかっこよさがわかる。

 猫カフェにいる女の子も、和一さんを見て顔を赤らめている人いたし。


 沢山の猫に漫画を堪能して、お店を出たらもう夕方だった。


「ああ、こんな時間。ごめんな」

「いえ、楽しかったです」


 二人で並んで歩きながら、他愛ない話をする。

 体中が猫の毛だらけとか。そういう話。

 家が近づいてくると、なんだか嫌な気持ちになる。

 達也と幸奈ちゃんはきっと家で、誕生日だし……。


「良くん?」


 気が付いたら、彼の服の端を掴んで足を止めていた。


「ご、ごめんなさい!」


 慌てて僕は手を放す。

 なんてことするんだ。僕は。


「……もうちょっと遊ぶ?俺はもうちょっと良くんと遊びたいな」

「あ、あの和一さん」

「家の事?心配しなくても。皆で楽しむさ。良くん、ちょっと付いてきて」


 和一さんが僕の手首を掴んで歩き出した。


「あの、」

「いいから。まだ帰りたくなんだよね。俺も」


 そう言われ微笑まれ、涙が出そうになる。


「さあ、行こう」


 和一さんに夜景の綺麗な場所へ連れて行ってもらった。


「キラキラしてますね」

「そうだろう。人も少ないし。落ち着くから俺は好きなんだ」


 手首を掴んでいた手はいつの間にか僕の手を掴んでいた。

 指を絡められ、ドキドキする。

 離してくださいと言えないのは、やっぱり達也に似てるから。

 達也と手を繋いで、夜景なんて観れたら、本当に嬉しいのに。


「良くん。言わないで置こうと思ったけど、言うわ。達也はやめて、俺にしよう。俺はずっと君のこと好きだったんだ」

「へ?あの」


 ぐいっと手を引かれて、抱きしめられる。

 とても暖かい。


「良くん」


 唇を重ねられて、僕は我に返る。

 力いっぱい彼を押しのけて叫ぶ。


「やめてください!」


 達也みたいだと思ったのに。

 全然違う。

 達也はこんなことしない。

 だって、達也は……。


「ひどいです。なんで」

「好きな子にキスしたいと思うのは普通だと思うけど。俺は本当に君のことが好きなんだ。君の好きなことも知っているし、達也がどれくらい好きなのもわかるよ」

「だったら、なんで!」


 それなら、なんで、こんなこと。


「不毛だからだ。達也は幸奈ちゃんを選んだ。君は幼馴染で恋人には絶対になれない」


 胸が抉られたような痛みが走る。

 そんなことずっと前から知っていた。

 だけど、諦めれなかった。


「言われなくてもわかってます。放っておいてください!」


 僕は背を向けて走り出した。

 涙がこぼれ落ちてきて、視界を歪ませる。

 僕は不毛な恋をしている。

 そんなことずっと前から知っている。






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