3 僕の気持ちは誰にも悟られたくない。
「すまん!『拳の誓い』は幸奈と観に行くんだ。あ、一緒に行くか?」
「うん、いいよ。二人で楽しんできて」
『拳の誓い』にTVアニメで、三年ぶりに映画化されたものだった。
幸奈ちゃんと出会う前に二人ではまっていたアニメだ。
達也に僕の感情を悟られたくなくて、僕は笑顔を今日も作る。
「じゃあ、二回目、一緒に観に行くか?」
「いいの?」
「もちろんだ。だって、ずっと楽しみにしてたじゃんか」
「嬉しい」
二回目でも一緒に映画を観れるのは嬉しい。
僕はそう思っていた。
映画館で達也の隣に座る。
それだけでドキドキする。
今日は彼は僕の隣にいる。
待ちに待った映画だったのに、達也の様子が気になった。二回目だったからか、僕が緊張したり、感動した場面でも彼は静かに観ていた。
きっと一回目だったら、もっと違う表情が見れたかもしれない。
そんな嫌な気持ちが浮かんできて、映画は楽しめなかった。
これだったら、一人で観たほうがよかったかもしれない。
「面白かったよなあ。本当、二回観ても飽きないし、すごい」
「そうだね!楽しかった。続きが楽しみだね」
「続きは二年後。その頃はもう大人かあ」
「大人って、高校卒業してるだけだよ」
「大人だよ。だって、結婚できる歳なんだぜ」
達也は急に表情を改めて、極めて真剣な顔になる。
僕は息が止まるかと思った。
まさか、すでに結婚のことなんて考えてるって思わなかった。
「た、達也。気が早いよ。もう結婚のこと考えるなんて」
「気なんて早くないぞ。うかうかしたら、幸奈が誰かに取られるだろう」
「取らないよ~!幸奈ちゃんも達也からは離れないよ」
「そう思うか?」
「うん、そう思う」
「そうか、良がそう言うなら信じられる」
別れてほしい。
幸奈ちゃんには別の人と一緒になってほしい。
本当の気持ちを押し込めて、僕は精一杯の笑みを浮かべた。
「達也、この後どうする?何か食べていく?」
「あ、すまん。お昼は幸奈と約束してて」
「あ、そう。そうだよね。ごめん。ごめん。待ち合わせは家?」
「違う。えっと、100のビルの前」
「あ、近いね。もしかして幸奈ちゃん、待ってたりして」
「早すぎる。あり得ない」
達也は大笑いしながらも、少し期待している、そんな表情だった。
家に戻る途中に100はあるので、そこまで一緒に行くとになった。
「本当、あの」
今日の映画の感想を言いながら二人で歩く。
二人で歩く時間はとても貴重だった。
だけど、僕の話の途中で、達也は急に黙り込み、明後日の方向を見ていた。そこにいたのは、幸奈ちゃん、そしてもう一人、達也の兄の和一さんだった。
「兄ちゃん!幸奈!」
兄にまで嫉妬しているかのように、血相を変えて、彼は走っていった。
僕は置いて行かれたくないので、一緒に走る。
隣に並ぶことはできずに半歩以上遅れて彼の後を走る。
幸奈ちゃんが達也に気が付き、微笑みを見せる。
とても可愛くて幸せそうだ。
僕の気持ちは誰にも知られたくない。
だから、変な顔をしないように、僕は少し俯いて走っていた。
それがよくなかったみたいで、足を引っかけた。
「良!」
地面に激突しそうになった僕を支えたのは和一さんだった。
「危ないなあ」
「あ、ありがとうございます。和一さん」
僕はこの人が苦手だ。
達也と正反対で何を考えているかわからないからだ。
でも達也的には僕と和一さんは似ているみたいだ。
それってよくわからないってことって聞くと、違うよって達也は答えていたけど。
「次から下を向いて走らないほうがいいよ」
和一さんは僕を支えたまま、忠告する。
意外に強く掴まれていたみたいで、少し痛い。
「和一さん、あの」
「あ、ごめん。はい、気をつけて」
やっと離してくれて、ほっとする。
なんだろう。
ちょっと怖い。
「そうだ。良。兄さんとご飯食べて来いよ。金持ってるぞ。うちの兄は」
「いや、いいって」
反射的に僕は断った。
「お腹空いてる?じゃあ、俺が奢るよ。良くん」
「ほら、奢ってもらえ」
「いや、いいから」
「遠慮するなって、じゃあ、兄ちゃん。良をよろしくな」
僕の意志を無視して、和一さんとご飯を食べることになってしまった。
達也と幸奈ちゃんは仲良く手を繋いで、街中に消えていく。
「寂しい?」
「は、え?」
ぼおっと二人の背中を見ていると、頭上から声をかけられた。
ものすごい優しい目で僕を見ている。
でも怖いって思うのはなんでだろう。
「そんなことないですよ。あの、和一さん。僕、いいですから。お腹もすいてないし」
「遠慮しないで。いつも達也がお世話になってるし。良くんは俺をあんま話したことなかったでしょ?」
「そうですけど」
なんで、怖いんだろう。
達也のお兄ちゃんなのに。
「さあ、行こう。何が食べたい?お兄さんに任せない」
からっと笑顔を和一さんが浮かべる。
達也とそっくりだ。
大丈夫。
怖いなんて失礼だ。
「じゃあ、ファミレスでチーズハンバークセットで」
「ファミレス?寿司とかでも俺はいいのに」
「ファミレスって気分なんです」
「ふうん。だったらいいけど、じゃあ行こうか」




