1 僕はそれが恋だなんて気づきたくなかった。
いつからなのか。
僕はわからない。
気づかされたのは、幼馴染の達也に彼女ができた時。
「あの子を守りたいんだ」
中学二年生の時に、転校生がやってきた。
野生動物みたいな女の子だった。
髪はずっと洗ってないのか、だまになっていて、絡まった毛糸みたいだった。
赤毛だったから、余計にそう見えたかもしれない。
小汚い、その言葉がよく似合う女の子で、降ろしたてなのか制服だけがピカピカ輝いていた。
彼女、幸奈ちゃんは静かな子だった。
一週間後、苛めが始めった。
汚い、臭いなど、幸奈ちゃんは黙ったままだった。
庇ったのは達也で、彼はなんと彼女を家に連れて帰った。
戸惑う彼女に対して幼馴染の家族はお風呂を貸してあげたり、夕食をご馳走した。僕もその場にいて、戸惑ってしまった。
幸奈ちゃんはもっと戸惑ったと思う。
その後に、なんと彼女を家まで送っていった。
僕は流石についてこないほうがいいと言われたので、行ってないけど、達也の両親と幸奈ちゃんの父親の間で色々話し合いがもたれ、児童相談所に相談することになった。
結果、彼女は幼馴染の家に住むことになった。
幼馴染には兄しかいない。
御両親は娘が欲しかったから、ちょうどよかったみたいだ。
幸奈ちゃんは変わった。
元の白い肌を取り戻し、髪は赤毛のウェーブだ。
毎日お風呂に入って、髪も叔母さんが見てあげてるみたいで、彼女は全く別人のように美人になってしまった。
達也は彼女の虜で、僕のことは後回しにされるようになった。
幸奈ちゃんの境遇には同情しているし、達也の性格上、助けられずにはいられないのはわかっている。
僕だって、小学校の時に虐められて、達也に助けてもらったからだ。
彼女と幸せそうに笑う達也。
僕は置いてけぼりだ。
友達を失うような痛み、僕はそう思っていた。
けれども、達也が彼女への恋心、想いを語る度に僕の心臓は軋む。
「幸奈を独り占めにしたい。俺だけを見てほしいんだ。だけど、そんなことだめだとわかっている」
達也を一人占めしたい。僕だけを見てほしい。そんなことだめだとわかってるのに。
この思いが恋だと気が付いたのは、二人が正式に恋人同士になってからだ。
手を繋いで、登校する。
僕は二人の後ろを歩く。
時たま、二人は後ろを振り返り、僕を呼ぶ。
彼女は僕のことを邪険にしない。
本当にいい子だと思う。
僕とは大違いだ。