転生担当の神だけど、転生者達が理想高すぎて頭が痛いです
初めまして、神です。
神と言っても、八百万の一柱でしかありませんが。
皆様、神と聞いて何を思い浮かべますか?
全知全能?困った時の祈り先?悪魔より人を殺している奴?無類の女好き?
全部正解です。といっても、全ての神がそういうわけではありません。
皆さんもご存じの通り、西洋の神ゼウスは好色な神ですし、神聖四文字は(自主規制)
さて、私が何故こうして越えられるはずのない壁を越えて、貴方達へと語りかけているのか。
現実逃避をしている私の元へと戻ってみましょう。
* * *
「だから神様ぁ!俺は剣と魔法の世界に行くんだろ!?だったらチートの一つでも二つでもサービスしてくれよ!知ってるんだぞ俺!異世界転生って!ラノベで読んだんだ!!」
お帰りなさい私、まだまだこの少年はゴネゴネ中です。さぁ一緒に仕事に戻りましょう。
「はぁ……。ですから何度も申し上げている通り、こうしてあなたの人格を保ったまま別世界へ送る事自体が最大のチートであると言えるのですよ」
手元の書類を手に最低限の営業スマイルを浮かべて、目の前の椅子に踏ん反り返って貧乏ゆすりを続ける少年へと優しく語り掛ける。
「はぁあっ!?だって、ほら……異世界は俺の力を求めてるんだろ!?神様だって俺が向こうですぐ死んだら困るだろっ!」
「別に困りはしませんよ。仕事が減るだけなのでむしろありがたいです」
「神ってホント役に立たねぇよな!腹痛い時も全然助けてくれねぇし」
「担当違いです」
しまった、つい本音が。
「あなたの求めている……剣豪?のスキルだかギフトだか知りませんが、才能を埋め込んで送り出すことはできますよ」
「何だよ、やっぱりできるんじゃん!」
「その代わり、今お話ししているあなたは消去されます。それでいいですね?」
「は……?」
何度言えば理解してくれるのでしょうか、この少年は。……段々イライラしてきました。
「……は!?なんでだよっ!俺は楽して俺ツエーしたいんだよ!!」
「そんなご都合展開あるわけないでしょうが!!いいですか!大体貴方達は都合が良すぎます!
えっと?笹原大樹……さん?貴方の経歴、最後こそ居眠りトラックから小学生を庇って死亡したみたいですが、陰キャでコミュ障で、友人は0で、離す相手は親と親戚くらい。彼女はいる訳がない、成績も下、運動もダメ。それに対して何の努力もしていない、他人が悪い世界が悪いと他責しかしていない。そんなあなたが何故、誰かを、異世界を救えましょうか!?」
思わず怒鳴ってしまった言葉を、目を白黒させながら聞いていた少年。笠原大樹は目元に涙を浮かべ始めた。
「だ、だって……だって……!!ラノベではそうなってたんだよっ!!最強のSSSクラスの能力を持っているとか、最初から剣術スキルが最強だとか、追放されたけど本当は最強だったとか!!ここ天国なんだろ!転生できる場所なんだろ!?最後くらい、俺の願い叶えろよっ!!」
「残念ながら、ここは現実でラノベではありません。例えラノベだったとして、あなたは主人公の器ではありません。そろそろ時間も押しているので決めてください。転生か!!消滅か!!」
「ぐぅっ……うううっ……転生で……お願いします」
「はい、転生。じゃあいってらっしゃい」
『転生行き』と彫られたスタンプを笹原の略歴書へとペタコンと押すと、彼は項垂れたまま椅子ごと足元に開いた穴へと落下していった。
「ふぅ……やっと決まった」
ぐっと背筋を伸ばし、凝り固まった肩や腰をほぐしていく。
――あぁ、お見苦しいところをお見せしましたね。いかがでしたか?私の仕事。
『転生』担当の神、リインと申します。どうぞお見知りおきを。
私の仕事は、こうして転生者として、他部署から送られてくる人間を別世界へと降ろす、プランターの植え替え作業のような事をしています。
基本的に人間の生と死は、生の方が多くなるように定められていました。
100人が死して天上へ戻れば、150人が生まれる為に送り出されていく。
そして魂は一度旅を終えたら終わりではなく、天上での漂白を受け再び旅立っていきます。
そのバランスが崩れた世界を調整する為、安定した世界から漏れ出したまだ比較的新しい魂を別世界へと移し、そこで循環をさせるのです。
別にそれに特別な選出が行われるわけではありません。ただ単にふるいの網から零れ落ちたものを拾ってくるだけなのです。
ただ魂だけを勝手に移しても良いのですが、我々も鬼ではない。ちょっぴり罪悪感を感じて、理から外れた魂へ選択をさせてあげるのです。
中には転生を拒絶し、消滅を願う人間もいる。その場合、観察の必要も無くなる為選んでくれると大変ありがたいのです。
観察というのは、転生させた先で悪い事をしていないか。バランスを崩すような真似をしていないかチェックする事です。
といっても、転生者の大体は1週間と持たずに輪廻へと戻ってきますが。
……さて、そろそろ次の転生者がやってくる頃ですね。
また仕事が終わった後に会いましょう?
一旦短編としておきます。
筆が乗ったら2話以降も書くかもしれません
最近のなろうに見られる、転生前の主人公の設定があまりに弱者過ぎて……。
底辺からハーレムへ その落差が大ききれば大きいほど読者は気持ち良いのかもしれない。
だとしても。 コミュ障で友達もいない、女子と目を合わせる事も出来ない、運動音痴で発達障害や鬱病持ち。
そんな主人公が、どうして異世界に行った瞬間イキれるのか不思議でならなくて。
ご都合展開を失った主人公達は、プロローグから1話に行くまでの間、生き延びる事が出来るのか
リイン視点で覗くお話になるかもしれません。