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卒業式と赤色のファイル

作者: AwayL

高校の卒業式。


引っ越しの荷造り。


思い出される赤色のファイル。


幸せな道に進むことができた”優等生”の物語。

僕は高校3年生。今は3月。

この3年間頑張り続けたおかげで念願だった東京の大学に合格することができて、東京に1人で暮らすための物件も決まった。

高校も無事に卒業できた。卒業式が終わり、そして…


僕はもうすぐ家を出ていく。親離れをして1人で生活するのだ。

ただ、その前にやらなきゃいけない高校生活最後の宿題が残っている。

このぐちゃぐちゃに散らかった自分の部屋の片付けだ。

足元にも自分の机の上にも受験期に使ったたくさんの問題集や教科書が散乱している。

クローゼットの中にも、大量の服や思い出の品が…お?なんだこれ?


クローゼットの端っこに埃だらけの赤色のファイルが置かれていた。

背表紙には“高1 プリントまとめ”と擦れた文字で書かれている。

でも…


僕は重度のハウスダストアレルギーだった。

触れるだけで痒みがっっ。思い出すだけで痒くなる。


僕はこのファイルには触れられない。

でも見たい!!!!!見返したい!!!!!

…そうだ!こういう時は


ってことで扉が開いたままになっている妹の部屋に凸る。


「クローゼットの片づけ手伝ってくれたらずっと前から食べたいって言ってたパフェ食べさせてあげるから!!!!!」

そう言うと今まで座って本を読んでいた妹は立ち上がった。

そしてマスク・掃除機を装備、僕の部屋の窓を全開にする。

ほんっとに単純なんだから、操るの簡単すぎ

そう思って僕はクスっと笑った。


そうして、妹にファイルのページをめくってもらい、それを妹の後ろから見る。

高校の授業は基本的に教科書を使った座学だったのでファイルに挟まれているのは主に宿題プリントかテストだった。

その宿題プリントも壊滅的すぎ。今考えると意味わかんないくらい×が多い

テストのクラス順位も 37位/40人 って、、バカなん?おい?


「お兄ちゃん、、高1、のときこんな壊滅的だったのに。よく東京の、大学合格できたね。」

妹が呟く。本当に頑張ったからなぁ。

ってか、今ちょっと言葉に詰まってなかったか?

ふぅん。僕が家を出ていくのが寂しくて泣くの我慢してるの?

“へえ、かわいいとこあるじゃん“って煽ってもよかったけど、空気感を壊さないためにぐっと言葉を飲み込んだ。

そのまましばらくの間、宿題のプリントを眺める。どれも壊滅的だなぁ。


最後の方のページに“高校生の抱負”というタイトルのプリントがあった。

“ゴールデンウイーク明けに提出”と書かれているからこれも宿題だったのだろう。きっと。

そこには、友達をたくさん作るだとか、忘れ物をしないといったごくありふれた文が書かれていた。

でも、一番最後、“高校卒業後、どんな道に進みたいか”という欄。

そこには、「東京の大学に行って、一人暮らしを始める。」と書かれていた。

このころの自分にとっては夢のまた夢だった。ただそれに少しでも近づくために僕は努力したんだ。

でも…



この夢は叶わなかった。



クローゼットの中にはもう1つ、高2のプリントをまとめた青色のファイルが立っている。

でも高3のプリントをまとめた白色のファイルはない。

たしか卒業式の日に卒業証書を入れるために抱えてたっけ。


高校で努力したおかげで地獄へ行くことにはならなかった。ひと安心だ。

妹の涙はもう抑えられないほどになっていて、体はプルプル震えていた。


開け放たれた窓。そこから見えるポスト。

そこに入っている新聞の一面には「学校に刃物を持った男が侵入 卒業式を狙った凶悪な犯行」という文字が大きく載っていた。

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