築城
予約投稿してませんでした……
というか、前話は昼の12時に公開してたことを忘れてた
その日、蜂須賀小六は足早に家路を歩いていた。腕を組み、視線は数歩前の地面に向けられていて、通りかかる人々が巨漢の彼を避けてくれなければ、何人かぶつかったり踏んづけたりしていたかもしれない。しかし屋敷の門をくぐったところで立ちふさがる影があった。
「小六殿、稲葉山の殿様の用事は何じゃった!?」
「小右衛門殿? 藪から棒に何じゃ」
飛び出してきたのは彼とは義兄弟の間柄の前野小右衛門であった。二人はともに川並衆と言われる土豪であり、木曽川沿いの流通に関して利権を持つ者たちだった。つまり、上流の一色(斎藤)家とも下流の織田家とも敵対しない(できない)立場である。
小右衛門が出先から帰ったら当主になったばかりの美濃の若殿から直々の呼び出しがかかっていて、小六が一人で登城してしまったというのだから気が気でなかった。
「頼まれたのは築城だ」
「築城? どこに?」
「墨俣だ」
彼らは別に技術集団というわけではない。生業にしているのは河川流通およびその警護だ。墨俣は一色(斎藤)家の勢力範囲内なのだから、わざわざ小六達に頼むような話ではない。小右衛門は納得がいかなかった。
「まあ、中で話そう」
小六は小右衛門を誘って家の中に入ると、二人で膝を突き合わせた。
「築城と言っても、実際に作るのは簡素な砦みたいなものだ。それを墨俣に作れとおっしゃった」
「なんじゃ、そんな話か」
墨俣は最前線の1つではあるが、織田方とは大きな川で隔てられている。簡単に邪魔されることはない。
であれば、誰にでもできる簡単なお仕事ということなのだ。
「面白いのはここからだ。右兵衛大夫様は一晩で作れと仰せなのだ」
「…………はぁぁあぁ!?」
小右衛門は目を剥いた。
「いやいやいや、たった一晩で作れるわけなかろう!?」
「作り方もお指図を頂いたのよ」
「ほう? どうやるんじゃ」
小六は大柄の体を小さくしてこっそりと打ち明けた。
「木材は予め加工しておいて、それを筏にして流すのだ。墨俣ではそれを引き上げて、組み立てるだけだ」
小右衛門はジョリジョリと顎を撫でながら首をかしげた。
「うーむ、それなら出来るかも……いや、出来るかぁ? 仮に出来たとしても、そもそも一晩で造る必要なんてあるのか?」
小六は至って真面目な顔をして頷いた。
「尾張の連中の度肝を抜きたいらしい」
「…………」
小右衛門は唖然とした。
「さらにそれを織田にくれてやるらしい」
「それは……度肝を抜かれたわ」
なにしろ自分の領地にこっそり城を建てて、さらにそれを敵国にくれてやろうというのだ。正気を疑う話である。
「どうじゃ、小右衛門殿もやってみんか?」
小右衛門は再び首を捻った。怪しい話だ。実に怪しい。しかし織田を嵌める罠とも思えない。そしてもしこれが罠でないなら、斎藤にも織田にも良い顔ができる。
小右衛門はジロリと小六を睨めつけた。
「……褒美は十分に出るのだろうな?」
こうして彼らは、手下を率いて上流の山の中に向かった。
誰もが知ってる一夜城
実際にやったらすぐに腐り落ちそうな一夜城
城というより野戦陣地+αくらいに考えた方が良いでしょうね。
それにたっぷり水を含んだ木材は、火矢では燃えませんし。
まあ橋頭堡さえ確保してしまえば、乾いた木材を運び込んで増築することも出来るでしょう。