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光秀

ちょっと短いですが……

「これは真のことにござるか?」


手にした書状を一読した後、光秀は思わずそう口にしていた。

眼の前では書状を持ってきた知人が困り顔を浮かべていた。


「いや、失礼致した。思いもよらぬ事にて、つい埒もないことを申しました」


もしこの書状に書いてあることが嘘であったとしても、企んだのはこれを書いた人物ーー一色龍興であろう。使者として選ばれたこの知人にまでその企みを明かしているとは思えない。


「時に、そこもとはこの書状の内容をご存知であろうか?」

「うむ。美濃への帰参を促すものと聞いている」


なるほど、と光秀は頷いた。確かに間違いではない。


「明智城を返して頂けるとのことです」

「なんと! まことか!?」


今度は使者が驚いた。思わず二人で見つめ合い、どちらからともなく笑いあった。


「ただし条件として、使者として帰蝶様のもとへ赴けとのことにて」

「ふむ。だが貴殿の立場としてはさして難しくもないはず」


光秀は一色家(当時は斎藤家)と敵対して美濃を追われた身であり、尚且つ帰蝶の母方の従兄弟である。彼が帰蝶の元を訪れたとしても面会を拒まれることはないだろう。あまりにも美味い話に思える。


「それとも、なんぞ無理難題を呑ませよと仰せか?」

「さて、仔細は稲葉山にて伺えるとのことにて……」

「うーむ」


ひょっとして光秀を謀殺するための罠ではないか……と思ってしまうのも(むべ)なるかな。しかし所領を、それも故地を得られるとなれば、無視することも出来なかった。


「……ところで、右兵衛大夫様(龍興)にはお会いになられましたかな?」

「うむ、この書状を受け取った時に」

「どのような御仁であられましたか」

「然様ですな……奇妙、いや、不思議な印象でしたな」

「不思議ですか」


漠然とした評価である。


「まだ若く、しかも突如守護職を継がれたというのに気負ったところがありませんでした」

「ほう、自然体ということですか」

「然り。それとは別に妙な噂もありましてな。実は御先代の葬儀の場にて、灰を位牌に投げつけたとのことなのですが……」

「なんですと!?」


あまりにも不調法な振る舞いである。おいそれとは信じられない。


「いや、これは大勢の国人たちが目撃したので確かなことです。噂というのは、右兵衛大夫様が織田上総介様に憧れているとのことにて……」

光秀は意外な言葉に目を瞬かせた。

「……なるほど。上総介様を真似て灰を投げたと」

「然り」


大名が敵対する隣国の大名に憧れるなど有り得ないことである。まずそんな者は後継者候補から外されて、他の者が推戴されることになるだろう。しかし斎藤家には龍興以外の候補がなかった。そして信長の名声は桶狭間以来天を突かんばかりに高まっていた。ならばそういうこともあるのかもしれない。


「しかし、重臣たちが反対しましょう。空手形になるやもしれませんな」

「ん? いや、この書状を受け取った時には、六人衆も同席されておられましたぞ」

「おや? では重臣方も了承しておられるのか……」


ますます策謀の匂いを感じるのだが、落魄した小国人を一人殺すために大国美濃の大名と重臣たちがこのような虚言を弄するものだろうか?


ーーこのまま越前にいてもどうにもならぬ。一か八か賭けてみるか……


光秀は決断を下した。


「よろしい、美濃に向かいましょう」


昼頃にもう一話投稿する予定

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