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序 清須同盟

すごく久しぶりの新作です。

リハビリがてら書いていきますので、ほどほどに……


竜興(りゅうこう)』 飛竜が天に昇る。王業をいう。


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 永禄5年1月、三河の大名松平元康は隣国尾張の清洲城に赴いていた。この地を支配する織田弾正忠家は累代の敵であり、先年には駿河・遠江の大大名今川家の一門として攻め込んでいた相手である。だが今回の訪問の目的は戦いではない。同盟を結ぶためであった。


 これまで敵対してきた織田家と和を結ぶ。更に進んで同盟を結ぼうという話には、多くの家臣の反対があった。妻も反対した。何より元康自身も抵抗があった。しかし使者の口上を聞き、悩み、そして遂には同盟を結ぶことに決した。その後はトントン拍子に条件が定まり、こうして清須にて正式に盟を結ぶことと相成ったのである。


「久しいな、竹千代!」

広間に導かれた元康を迎えたのは、懐かしい呼び声だった。少年の頃とは声の質は変わっているのだが、ハリというか節回しというか、独特の調子が昔のままだった。

 元康は深々と頭を下げて応えた。


「吉法師様も、お久しゅう……!」


 元康は幼少の一時期、人質として織田家で過ごしていたことがあった。その時後の織田信長と出会い、友誼を結んでいたのである。

二人の目には涙が浮かんでいた。


 ……というのは、本当のことである。一応本当なんだけど、演技でもある。それぞれの背後に控える硬い表情の重臣たちを、なんとか和ませようという友情演出なのである。


「いやー、めでたい! これで我ら()国は安泰ですなぁ!」


そういって大げさに騒ぎ立てる少年が一人。信長、元康と対等の座に座り、尚且つその背後にも相応の武士たちが控えていた。


彼の名は斎藤龍興。つい先日までは一色龍興と名乗っていた。

数え14歳ながらも美濃50万石の大名であり、他の二人と違って正式な守護であり、官位もあった。そういう意味では最も格上である。


だが彼はうるうると瞳を濡らしながら、いかにも感動しているという様子で頻りに頷いていた。

ちなみに彼は、先の二人と幼馴染でもなんでもない。つい最近初めて会ったばかりである。

だが、彼の喜びは本心であった。心の底から喜んでいた。マジ泣きである。


「大名がこんなんで良いのか?」と思われても仕方がないところだが、これまでの交渉でこの少年が只者でないことは織田家や松平家の重臣たちも分かっていた。むしろ、「ほう、年相応なところもあるのだな」という感じの好意的で生暖かい視線を向けられたほどだ。


しかしそんな優しい大人ばかりではない。


「こりゃ、喜太郎(龍興の幼名)! 泣くでない!」


信長の後ろに控えていた女性が厳しい声を上げた。龍興の叔母にして信長の正室、帰蝶である。


「そなたに元服は早すぎたのではないかえ?」


龍興はブンブンとかぶりをふった。


「これで心置きなく隠居できるから、嬉しくって……」

「隠居はもっと早すぎじゃっ!」


どっと笑い声が上がる中、龍興の背後に控える者たちだけが苦い顔をしていた。


彼らの内心は複雑だった。当初は然程に期待していなかった龍興が、織田と松平を手球に取るように同盟をまとめてみせるという才気を見せたのだ。そして自らは責任ある立場から降りたがるのである。

自らの目が節穴ではないのかと疑いたくなる一方で、龍興が織田に対抗する道を選んでくれていたらという思いもあった。


彼らは内心で思っていた。あの日までは、ごく普通の若者であったのだが……と。


龍興の様子が突然変わったのは、先代義龍の葬儀の日からであった。


世に戦国時代者のフィクションは数あるものの、斎藤龍興について語られているものの少ないことよ!

特に美濃追放後の彼について書かれてるのは、 天野純希著『蝮の孫』 と 重野なおき著『信長の忍び』 くらいしか見あたりませんでしたよ。

まあ後者ではただのネタキャラなんですけどね……

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