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02 光の巫女

「エイナ! 精霊の泉に行こうよ」

「うん!」

「じゃあ、競争しようぜ。一番に着いた奴は、今日のおやつ総取りな」

 そう言って、手に持っているおやつが入った袋を掲げた。

「えぇ~、鍛えてるジョシュとマットが有利じゃなーい。お先っ!」

「あっ!」

 聖なる里セレティアに、賑やかな声が聞こえている。少年二人と少女が一人、子供が大好きな競争をしながら森の中へと駆けて行った。

「三人とも、森の深い所へ入っちゃダメだからね!」

「はーい」

 三人とすれ違ったミーネが釘を刺す。


「また森に行って……」

「ナナ」

 ミーネは、ふぅ、とため息をつきながらやって来た友人を見た。

「エイナ、お勤めの時間、忘れてないかしら。たまに遊びに夢中で忘れちゃうから……」

 エイナとは、ナナの娘だ。白髪に金の瞳。生まれてすぐに、片割れと引き離された双子の一人。その赤ん坊は、里の皆に愛され、すくすくと育っていた。今は十二歳になっている。

「年の近いジョシュとマットウェルがいるから、楽しくてしょうがないのよ。あの年は、遊びたい頃だものね」


 ジョシュとマットウェルは、同じ里に住む幼馴染の男の子。エイナよりも二歳年上だ。

 ジョシュは金髪に灰色の瞳。生まれてすぐに森に置き去りにされていた所を、マットウェルの両親が引き取り育てられた。血が繋がっていないからと言って、グレる事なく真っ直ぐ育つ。物静かで心優しい性格だ。

 マットウェルは茶髪で茶色の瞳。活発で、とても元気。一緒に育った同い年のジョシュとは、本当の家族同然だと思っている。信頼できる兄弟、そしてライバル関係。負けないように、置いて行かれないように、日々、鍛錬を頑張っている。


 二人共、この里と光の巫女であるエイナを守る為に剣を父親から習っており、実力を伸ばしていた。


「この里の将来を担った三人だけど、たまには息抜きの時間も必要じゃない?」

 セレティアでは、エレナと影の力を持つ双子が生まれてから、五年間一人も子供が生まれなかった。影の力の影響かと言われていたが原因は不明。しかし、少しずつ赤ん坊が生まれるようになり、里長も巫女のユニも、胸をなで下ろしている。

「あまり、光の巫女だからとうるさく言わないようにしてるけど……。きっと忘れるだろうから、時間が近付いたら様子を見に行くわ」

「そうしてあげなよ」

 困ったように、笑いながら自分の家へ向かうナナ。ミーネはそれを見送り、ホッと息を吐いた。

(ずっと、もう一人の赤ちゃんの事で塞ぎ込んでいたけど、笑顔が戻って良かった……)


 ライルとナナは、エイナに双子の妹がいた事を告げていない。引き離された子が彼女の妹であるが、あの後、赤ん坊がどうなったのかは、ユニしか知らない。どこかに連れて行った男は、ユニに記憶を消されたのだ。二人が探しに行く事がないように計画されていた。一人で生きていく力がない赤ん坊の末路は一つ。あの騒ぎを知る里の大人も、あの赤ん坊の話をする者はいなかった。初めから、ライルとナナの子は一人だったと、暗黙の了解になっている。この話題さえしなければ、里の皆は仲が良く、助け合い、笑いが絶えない幸せな部族だ。

 ライルはそんな里の様子に、異常さともどかしさを感じていたが、里で生きる者として、決め事には従わなければならない。気持ちを切り替えて、悔しく寂しい思いを仕事にぶつけた。ナナは、一人になると密かに我が子を思い出し涙する。それをミーネは知っていたので、できるだけ力になろうと一家を気にかけていたのだ。それも時間が解決してくれたようだ。




「ナナ、お帰り。エイナは?」

 家に戻ると、ライルが薪を割っていた。

「ジョシュとマットと一緒に、精霊の泉に行ってる」

「あの三人は精霊に愛されてるなぁ。あの泉の精霊、俺、ちょっと怖いから、凄いよ」

「ふふ。認められた者しか、近付けないものね」

 くすくすと笑うナナ。その顔を見て、ライルもふっと表情を緩める。笑い合った。

「エイナの奴、光の力を使う訓練、厳しいってぼやいてたよ」

「よし! じゃあ、夜はエイナの好物をたくさん作ってあげよーっと」

「甘やかし過ぎないようにな」

「そう言うあなたもね」

「うっ」


 失った子の分まで、二人はエイナを愛した。巫女の修行はユニが行っていて、厳しい部分もある。二人は我が子を励まし、応援した。エイナが笑顔を失わないように、家は彼女の安らげる場所であるようにした。気持ちをリセットしてまた明日、修行に向かえるように。


 エイナ自身も、両親の愛を十分に理解していたので、幼いながら二人の為にも厳しい修行を頑張っていた。



 聖なる里セレティアは、争いもなく、光が溢れている。


 巫女の祈りのおかげか、世界ガイヤも現在、揺らぐような大きな脅威はない。


 平和だ。


読んでいただき、ありがとうございました。

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