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第6話 スカーレット

 アンドレイ侯爵令嬢スカーレットは、幼いころから王家に嫁ぐため、厳しい教育を受けて育った。


 第一王子チャールズは二つ年上、第二王子ナリスは一つ年下のため、どちらの王子との縁談があってもおかしくない。


 公爵家、侯爵家の同じ世代の令嬢は三名しかいない。


 当然のように、婚約者候補に名前があがった。


 いずれ王妃に、そうでなくても王子妃になるという意識は、スカーレットの性格をゆがめた。


 高慢で鼻持ちならない性格のスカーレットは、学園でも嫌われ者であったが、王家とつながりを持ちたい野心家の貴族家の子女たちが取り巻きとして近付いていた。


 正直、ろくでもない友人関係であった。


 第一王子チャールズは学園を卒表するとすぐに大国ナバランドの姫君との婚約が発表され、同時に立太子された。


 スカーレットはチャールズの婚約者に選ばれると思っていたため、この知らせを聞いて激怒し、知らせを持って来た使用人の頬を扇で強く打ち付けた、と噂されている。


 こうなるとナリスの婚約者にどうしても選ばれなくてはならない。


 スカーレットはナリスに懸想する令嬢がいれば、取り巻きを使って徹底的に排除してきた。


 公爵家の娘にだけは手が出せないが、どうやら公爵家は王家への嫁入りを望んでいないようだった。


 ナリスはもう、自分の婚約者なのだと、スカーレットは信じ切っていたが、王家からの打診は実はまだない。


 この度の誕生パーティーで婚約者を選ぶという情報が入ってきて、スカーレットは歯ぎしりをするほど悔しかった。


(ナリス様にふさわしいのはわたくししかいないと言うのに…!)


 スカーレットはイライラしていた。


 そんな時に、ナリスが優しいほほ笑みを向ける女が現れた。


 デビュタントらしく、白いドレスを身に着けている。


 シンプルなデザインだが、見るからに質の良いシルクを使った一級品のドレスだった。


 清楚で美しく、ナリスが目を奪われるのも不思議ではなかった。


 スカーレットは取り巻きの令嬢たちに合図を送り、さっそく嫌がらせを始めた。


 しかし強気な執事に邪魔をされ、うまくいかなかった。


 しかもまだ決まってもいない婚約者内定などと大きな声で言われてしまい、その場を立ち去るしかなかった。


「あの女…!許さないわ」


 目を吊り上げて恐ろしい表情をしたスカーレットに、アリサは勇気を出して意見した。


「でも、あちらが謝罪しましたわ。スカーレット様の勝ちですわ」


 しかしスカーレットはアリサをキッと睨みつけ、吐き捨てるように言った。


「馬鹿なことを言わないで!あんな取ってつけたような謝罪、認めないわ!」


 するとアントワーヌとベラもスカーレットに同調して、激しくルシアを非難しだした。


「伯爵家ごときが生意気ですわ!」


「そうよ!スカーレット様にたてつくなんて、許せません!」


「そうよね。アントワーヌ、あなたの忠誠にはいつも感謝しているのよ」


「そんな!もったいないお言葉です」


「アントワーヌ、いつものように頼むわね?あの女がナリス様の前に二度と出て来られないように、辱めて欲しいの」


「…わかりましたわ。お任せください。本日の招待客の中には協力者もいます。人目に付くように休憩室に連れ込み、悪い噂がたつように手配します」


 スカーレットは満足そうににこりとほほ笑んだ。


「まかせるわ」


「はい!」


 アントワーヌはそそくさとその場を去り、大広間にいる協力者に渡りをつけ始めた。


 ベラはいつもアントワーヌに追随しているが、こういった犯罪事となるとまるで役に立たないことをスカーレットはわかっていた。


(王子妃になったら、アントワーヌには報いてやらなくてはね)


 そう考えていたスカーレットに、アリサが言った。


「スカーレット様、わたくしも何かお役に立ちたいですわ」


「まぁ、アリサ。そんな風に思ってくださるの?嬉しいわ。それで?何ができて?」


「アントワーヌ様が準備をされている間にナリス様に近づくようなことがあってはいけません。わたくしは足止めをしようと思います」


「…そうね。ではやってごらんなさい」


「はい」


 アリサは足早にスカーレットの前から去り、ワインを持ってルシアに近づいたのだった。


「わたくしの家はアンドレイ侯爵家の傘下でございます。逆らえばこの貴族の世界では生きていけないと考え、これまでスカーレット様の言いなりになってきました。しかし、何の罪もないスチュワート伯爵令嬢様を陥れようとすることは、さすがに黙っていられませんでした。かと言って、正直にアントワーヌ様の計画をお話したところで、わたくしはアンドレイ侯爵家側の人間、信じてはいただけないと思い、どうすればスチュワート伯爵令嬢様が穏便に退席されるかと考え実行した次第です。時間がなく、あのようなことになってしまいました」


 ルシアはスカーレットとアントワーヌの画策を知り、ざっと血の気が引く感覚を覚えた。


 そのような標的にされかけていたなど、思いもしなかった。


 たしかにドレスが汚れてしまえば、退席せざるを得ない。


 リアムが用意周到にドレス飾りを持参していたことで、リカバリーしようと思えばできてしまったが、 おかげで悪い男たちに絡まれることなく無事に帰宅できた。


 ルシアは、どう対応しようか迷った。


(どこまで本当の話かわからないわ…。どうしましょう)



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