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第55話 お嬢様を全力でお守りします~セバスチャンの回顧録②~


 本日はルシアお嬢様とせがれの結婚式でございます。


 せがれ、などと言っては失礼かもしれません。


 リアムはアンダレジア国の第一王子アルフォンソ様として名を取り戻され、ドミニク王という本物の父親が、今は側にいるのですから。


 ルシアお嬢様とリアムの結婚が決まってから、伯爵家をあげて嫁入り準備を進めて参りました。


 ドレスやらなにやらのお支度にはルシアお嬢様ご本人がおられなければ話にならないというのに、リアムは片時も離れたくないと言って、アンダレジアに連れて帰ろうとするではありませんか。


 私は心を鬼にしてお諫めいたしました。


 嫁入り前の最期の貴重な時間をご家族から奪ってはいけないと。


 しぶしぶリアムも分かってくれたようでございます。


 アンダレジアの情勢が落ち着く頃が良いだろうと、半年間の婚約期間を設けましたが、王族に嫁ぐ準備としては半年などきわめて短い期間だったとだけ申しておきましょう。


 伯爵家の威信にかけて総力あげて準備をしましたとも。


 ああ、そう言えば。


 アンダレジアの王宮に置いてきぼりになっていたステラは、翌日リアムの転移の魔術で帰ってまいりました。


 なんでも、ルシアお嬢様がいなくなったことに気が付いて半狂乱になっていたようですが、帰って来たリアムに伯爵家に戻ったことを聞き大激怒。


 リアムを締め上げる勢いで、自分を連れて転移するよう要求したとか。


 こちらの感覚で申しますとステラとリアムはメイドと執事、いわば同僚でございますが、あちらではメイドと王子。


 一体周囲にはどんなに無礼な娘と映ったことでしょう。


 心配ではございます。


 今頃、結婚宣誓式の真っただ中でしょうか。


 伯爵様、奥方様、マテオ坊ちゃまのお三方が遥々船に揺られて、アンダレジアの大聖堂へ駆けつけております。


 このセバスチャンはご主人様の留守をあずかっております。


 筆頭執事でありますから。


 ルシアお嬢様とリアムの晴れ姿を見たかったなぁ…などとは、間違っても口に出しません。


 私はいつも通り、淡々と屋敷の管理を、領地の管理を進めるだけでございます。


 リアムが使っていた使用人部屋は、もう必要がなくなりました。


 もし今度帰って来ても使用人部屋を使わせるわけにはいきません。


 もう立派な王族になられたのですから。


 どれ、ちょっと片付けてしまいましょうか。


 リアムの部屋に入ると、まるでまだリアムが一緒に生活しているような錯覚に陥ります。


 きちんと畳まれた寝具、ハンガーにかけられた仕事用のスーツ、本棚に並んだ教科書。


 ああ、たくさんの思い出がよみがえります。


 リアムがやって来て、私の息子になった日。


 お嬢様に気安く話しかけてはいけないと叱った日。


 リアムが熱を出して、心配で寝ずに看病した日。


 初めて仕事用のスーツをあつらえてやった日。

 世の父親は、みな子どもの巣立ちの時にこうした気持ちになるのでしょうか。


 寂しいような、誇らしいような、そんな気持ちでございます。


 私としたことが、リアムの荷物を一つも片付けることができません。


 仕方がありません。


 また日を改めて挑戦することとしましょう。


 おや、人がいないはずなのに、物音がしますね。


 見て参りましょう。


 廊下を歩いて行くと、何やら話し声もしてきました。


 まさか?


 この声はリアムとルシアお嬢様でしょうか。


 結婚宣誓式で、なにごとか起きたのでしょうか。


 胸騒ぎを覚えて、急いで声の方向へ向かいました。


「あ、いたいた」


「セバス!こっちへ来て!」


 タキシード姿のリアムと、ウェディングドレスを着たルシアお嬢様がいらっしゃるではありませんか。


 領地の特産品である真珠を惜しみなく縫い付けた清楚かつ豪華なウェディングドレスを着て、ルシアお嬢様は幸せそうに笑っています。


 なんと嬉しそうな。


「どうされました。なぜここに」


 慌てて伺うと、お二人は晴れやかな笑顔を見せてくださいました。


「義父さんにも見て欲しくて、隙を見て飛んできた」


「・・・!アルフォンソ様」


「よしてくれよ、義父さん。俺はリアムだ。リアム・ロード。義父さんの息子だ」


「ふふふ、私もウェディングドレス姿を見てもらいたかったの。どうかしら」


「お嬢様、おきれいです。とても幸せそうで…」


「はははは、泣くなよ、義父さん」


「セバス、ありがとう」


 いつの間にか涙があふれてしまったようでございます。


「ルシアお嬢様、本当におめでとうございます。リアム、これからはお前がルシアお嬢様を全力でお守りするのだぞ」


「これから()!お嬢様を全力でお守りします」


「そうでしたな」


 三人でひとしきり笑うと、リアムとルシアは時間がないと言って、慌ててアンダレジアへ帰ってゆきました。


 私は涙をぬぐって仕事に戻りました。


 青い空にはさんさんと光が降りそそぎ、庭の花々も風に揺られながら、口々に祝詞をあげているようでございます。


 リアムとルシアお嬢様に幸あれ!と。




 おしまい

 

これにて本編は終了です。

あと1話だけ閑話がありますので、よかったらご覧ください。

たくさんの応援をありがとうございました。

気に入っていただけましたら、評価を付けてくださると嬉しいです。

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