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第54話 共に生きていきたい

「ルシア!リアム!帰って来たのか!」


 ローガンは二人に足早に近づき、ルシアを抱きしめた。


「無事で良かった…!」


「お父様、ご心配をおかけしてごめんなさい。アンダレジアで無事にリアムに会えたの。リアムの魔術で戻って来たの」


「おお、そうか。おかえり、ルシア、リアム」


「…ただいま戻りました」


 リアムはローガンのお帰りの言葉に、温かさを感じて泣きたくなった。


 護衛騎士が急いで声を掛けたのか、夫人クレアとセバスチャンが慌てた様子でやって来た。


 二人の無事を確認するとクレアはハンカチでそっと目頭を押さえた。


「本日は話があって戻ってまいりました」


「そうか。ちょうど晩餐の時間だ。食事を取って、その後にゆっくり話そうか」


「「はい」」


 セバスチャンは音もなく退出し、二名分の食事の追加を手配しに行った。


 リアムのエスコートで食堂へと移動する。


「久しぶりに家族と食事ができて嬉しいわ」


 ルシアの心から安心しきった表情を見て、時々はこちらで食事ができるように手配しようと考えるリアムであった。


 これまでだったら家族の晩餐にリアムは給仕として参加していたのだが、本日は一緒に席に着いた。


 もうリアムはルシアの専属執事ではないのだ。


 ルシアの弟のマテオも同席している。


「お姉さま、会いたかったです。どこに行っていたのですか」


「マテオ、いい子にしていたかしら?お姉さまはスパニエル大陸にお船で行ったのよ」


「お船に乗ったのですか?あの海を渡る大きなお船?」


「そうよ、とっても大きなお船よ」


「いいなぁ!ぼくも乗りたい!」


「ふふふふ」


 このマテオの願いは近いうちに叶うことになる。


 ルシアとリアムの結婚式にマテオも招待されるのだから。


 和やかにおいしい食事を終えると、マテオは侍女に連れられて部屋へと戻って行った。


 テーブルに新しいお茶が配られると、セバスチャン以外の使用人はみな下がった。


「では、話を聞こうか」


 ローガンがリアムに話を促す。


「はい。この度祖国アンダレジアにて、第一王子として復権しました。これまで身の上を隠しておりましたこと、深くお詫び申し上げます」


 ローガンは深く息を吐きだした。


「そうではないかと思っていたが、やはりアンダレジアのアルフォンソ王子であったか」


 これにはルシアがびっくりした。


「お父様はリアムがアルフォンソ王子じゃないかとわかっていたの?」


「ああ。この屋敷で働き始めるときに身辺調査をした。アルフォンソ王子が失踪したと情報が駆け巡ったあたりからサガンに姿を現すようになったとの報告があった。それに加え、このような目立つ容姿に明らかに高度な教育を受けた立ち居振る舞いを見れば、大体予想がつくだろう」


 驚いているのはルシアだけで、皆はリアムの正体も察していたし、察していることをリアムも承知していたようだ。


「旦那様には感謝しきれない恩があります。危険があるかもしれないのに私を匿ってくださり、必要な教育も受けさせていただきました。本当にありがとうございました」


「よいのだ。こちらにも利のあることだったのだから。それで、もうこの国には戻らないということか?」


「はい。立太子した弟をあちらで支えなければなりません」


「そうか。お前なら立派に務めを果たすことだろう」


「ありがとうございます」


 リアムは姿勢よく少しだけ頭を下げた。


「重ね重ね勝手を申しますが、ルシアをアンダレジアに連れて行くことをお許しください」


 リアムがはっきりと申し出る。


 強い眼差しをローガンに向け、ローガンも負けじと威圧的な視線を返す。


 しばしどちらも動かず、緊迫した時が流れた。


 折れたのはローガンだった。


「連れて行くとはどういうことだ」


「私の妃になってもらいたいと思っています。私にはルシアが必要です。生涯をかけて、ルシアを守り、愛しぬくと誓います」


 それを聞いて、ルシアはふにゃりと笑み崩れ、クレアは満足そうに微笑んだ。


 ローガンはいかめしい表情をくずさなかったが、納得のいく返事だったことは確かだ。


「ルシアの気持ちを聞かせておくれ。お前はどうしたいのだ?」


「わたくしもリアムを愛しています。リアムがいない人生など、色も音もない暗闇と一緒だとわかったのです。わたくしはアンダレジアに行きたいです。リアムと共に生きていきたい」


 リアムがいなくなってからのルシアは、生気もなく、ただ日々をやり過ごしているだけの人形のようだった。


 その姿を見ている両親も大変辛かった。


 だからリアムを探しにスパニエル大陸へ渡りたいとルシアが申し出た時、心配を押して行かせてやったのだ。


 いま、リアムと共に生きたい、と言ったルシアはキラキラと輝いて見えた。


「わかった。許可しよう。リアム、ルシアを幸せにしてやってくれ」


「はい、この命に代えても」


 ルシアとリアムは互いを見つめ合い、にこりとほほ笑んだのだった。


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