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第52話 見たら減るから見るな

 

「あのー、そろそろよろしいでしょうか」


 いつの間にか控えの間に下がっていたステラがそっと声を掛ける。


 ルシアは真っ赤になってリアムから離れた。


「ステラ、ごめんなさいね。もういいわ」


 恥ずかしがるルシアとは対照的に、リアムはいつも通りしれっとステラに挨拶する。


「やあステラ、長旅ご苦労様」


「リアムさん!お嬢様を泣かせるなんて、いくら王子様になっても許しませんよ!」


 リアムはくくくっと笑って降参、と両手を挙げた。


「俺が悪かったよ。ルシアを泣かせるつもりはなかったんだ」


「急にいなくなったら泣くに決まってるじゃないですか!私たちだって寂しかったんですよ。セバスさんなんか急に老け込んじゃって見ていられませんよ」


「ごめん。でも義父さんが老け込んだのは今に始まったことじゃないよな」


 リアムは別れも告げず置いて来てしまった義父を思うと少しだけ寂しくなりそうだったので、あえて笑い話にした。


 ルシアもステラも、そんなリアムの気持ちに気が付いて一緒に笑った。


「それで、リアムさんはこれからどうするんですか?」


 ルシアも聞きたいが、なんとなく聞けずにいた質問をズバリとステラが言ってくれる。


「下の弟が成人するまでは弟の代わりにここで仕事をしなくてはいけなくなった。弟が成人したら、臣下に下り弟の補佐をする」


「ということは、もうオーウェルズには戻らないのね」


「ああ」


「じゃあルシアお嬢様のことはどうするつもりですか?!」


「もうルシアを手放す気はない。俺の妃になってくれ」


「…はい!」


 ステラは口元に両手を当てて、叫びたいのをこらえている。


 ルシアは頬を赤く染めて、力強く頷いた。


「お嬢様、リアムさん、おめでとうございます!ステラはこの瞬間を見守れて幸せでございます。お嬢様がアンダレジアの王子妃になられるなんて…!」


「でもリアム、わたくしに王子妃など務まるかしら」


「ルシアほどにふさわしい人はいないよ。王族並みの教育を受けてもらっていたからね」


「「え?!」」


 ルシアとステラは目を見合わせた。


 そうだったの?と互いの顔に書いてある。


 リアムは用意周到だった。


 いずれかならず自分がルシアと結婚するつもりであった。


 伯爵令嬢と一介の執事が結婚できるわけもなく。


 場合によっては自分の身分を取り戻し、ルシアに求婚するしかないと考えていた。


 国に戻れば公爵位を叙爵されることは確実だ。


 そのためにルシアには王家に嫁いでも遜色ない教育を受けさせてきたのだった。


 ニコラオの失脚は予定外だったが、おおむねリアムの予定通りにことは運んだ。


「一度オーウェルズに戻らなければならないが、都合をつけるまで少し待ってくれ。ステラもこのままルシアに付いて滞在してくれるか?婚姻後はどうするか考えてもらわなければならない」


「私、ルシアお嬢様のお側から離れません!ここで働かせてください!」


「ステラ…!わたくしはとても嬉しいけど、本当にいいの?」


「もちろんです!お嬢様のいる所が私のいる所なのです!」


「ありがとう」


 ルシアはそっとステラを抱きしめた。


 ステラは嬉しそうにえへへ、と笑った。


 その時、応接間の扉がノックされた。


「なんだ?」


 リアムが答えると、武官の一人が顔を出し、言いにくそうに来客を伝える。


「マドラ国王弟ご息女アデレード様とメンフィス侯爵令嬢コルティジアーナ様がいらっしゃっております」


「え?二人がここに?」


 なぜ、と問う前に、二人は武官を押しやって部屋に姿を現した。


 ルシアとステラは慌てて礼を取る。


「アルフォンソが女性を招いていると聞いて見に来てしまったわ」


「お邪魔だったかしら?」


 二人が並び立つと、場が華やぐ。


 容姿の美しさ、衣装の豪華さもさることながら、二人が発する気のようなものが華やかなのだ。


 リアムは少し嫌そうに顔をしかめた。


「邪魔に決まっているだろう。見たら減るから見るな」


「ま!そんな邪険にしなくてもいいじゃない」


「ルシア様、顔をあげてちょうだい」


 ルシアは礼を解き、低くしていた頭をあげた。


「アデレード様、先日は命を救っていただき有難うございました。おかげさまで元気になりました」


「よかったわ」


「メンフィス侯爵令嬢様、お初にお目にかかります。オーウェルズ国スチュワート伯爵が息女ルシアと申します」


「ご丁寧に痛み入ります。コルティジアーナです。どうぞ名前で呼んでちょうだい」


「ありがとうございます。わたくしのことも名前でお呼びください」


「わかったわ。それで、アルフォンソ殿下とはどういうご関係なの?」


 リアムが珍しく怒ったような顔をして、ルシアを二人から隠すように腕の中に閉じ込めた。


「見ればわかるだろう?俺の婚約者だ」


「「婚約者?」」


「ああ、いまプロポーズしてオッケーをもらったからな」


「まぁ!そうでしたの。それはおめでとうございます」


「ありがとうございます…?」


「わたくしたち、ルシア様と仲良くなりたくてお茶会に誘いに来ましたの。温室に用意をさせているからいらっしゃって?」


「は、はい。光栄でございます」


 リアムがルシアを心配そうに見る。


「大丈夫?嫌なら断ってもいいんだからね?」


「大丈夫よ。全然嫌じゃないわ」


 ほほ笑むルシアを見て、しぶしぶルシアを開放する。


「じゃ、ルシア様はお借りします。殿下はどうぞお仕事に戻ってください」


 コルティジアーナに背中を押されて、リアムは仕方なく執務室へ戻った。


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