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第48話 ぼくたちは友達じゃない


「アルベルトよ…。あいわかった。側妃が襲撃されたときには私も頭に血が上っていて、的確な判断ができていなかったようだ。十分な調べを尽くさず、夜盗の仕業と決めつけ、アルフォンソは連れ去られたものと思い込んでおった。真実は違ったのだな…」


 ドミニクはしばし言葉もなく、何かをかみしめるように立ち尽くした。


 そしておもむろに口を開いた。


「皆の者、犯罪に手を染めたニコラオは王太子にふさわしくない。ここにニコラオの廃嫡を宣言する。ニコラオとコルティジアーナ嬢の婚約も解消となる。また側妃殺害の罪で王妃は生涯幽閉とする。その者たちを連れていけ」


「はっ!」


 王妃は力なくへたり込んだまま、近衛兵に持ち上げられるようにして連れ去られた。


 ニコラオは何事かわめいているようだったが、もう誰もその声に耳を貸すことはなかった。


 ドミニクはあらためてリアムに向き合った。


「アルフォンソ…。お前は王妃を恨んでいるであろうな。そしてあれを好きにさせていた私のこともな。しかしニコラオがこんなことになってしまった以上、お前には戻って来てもらいたい」


 ドミニクの切実な願いに、しかしリアムは首を横に振った。


「アルフォンソはあの日に死んだのです。もう第一王子はいない。しかし、ルクスがいるではありませんか」


「ルクスは体が弱い。王の重責には耐えられないだろう」


「ルクスはまだ子供です。これからいかようにも育つ希望があります」


「しかし、あの子の体は治らないのだ。これまで何人もの医者が匙を投げてきた」


「実はこの夜会が始まる前にルクスの部屋へ行って来ました。ルクスは半身に呪いを受けていました。その呪いを先ほどアデレード様が解呪してくださったのです」


「なんだと」


「ルクス、こちらへ」


「…はい」


 そこに現れたのはたしかに第三王子ルクスであった。


 これまで半身に麻痺が残り一人で立って歩くことなどできなかったのに、まるで何事もなかったかのように、ルクスは自由に動き自らの足でここまで歩いて来た。


 そしてぎこちなく正式な礼を取る。


「陛下。ご心配をおかけしてきましたが、アデレード様のお力で健康な体を取り戻すことができました。これからは父上の助けとなれるよう、必死に学んでいきたいと思います」


「おお!ルクスよ!なんという奇跡だ!アデレード殿、感謝申し上げる」


 ドミニクはルクスを抱き上げ、本当に嬉しそうに言った。


 一人の父親として、ルクスの病状に心痛めていたのである。


 会場から拍手が起きた。


「第三王子ルクスを王太子とし、第一王子アルフォンソを復権する!皆には集まってもらったのにすまなかったが、今日はルクスの回復を祝ってやってくれ!」


 王がそう宣言するとようやくオーケストラが曲を奏で始め、断罪劇に終止符が打たれたのだった。

 


◆◆◆



 呪いが解かれルシアが意識を取り戻してから、はや一月が過ぎようとしている。


 半月の間眠っていたルシアの体は、はじめ思うように動かなかったが、毎日少しずつ体を動かす練習をして、ようやくもとの体調を取り戻した。


「リアムが戻って来た時に、元気な姿を見せなくちゃね」


 そう言って、地道にリハビリに取り組むルシアの姿に、メイドのステラは涙を誘われた。


(もう、リアムさんてば。お嬢様にこんな悲しい思いをさせるなんて、専属執事失格です!早く帰ってきてください)


 心の中でリアムに憤りながらも、ステラはルシアの髪の毛を器用にコテで巻き、可愛らしいウェーブを作り出し、最後に真珠の髪飾りを付けた。


「さあ、出来上がりましたよ。今日はアリサ様がいらっしゃいますから、可愛らしく仕上げてみました」


「ありがとう、ステラ」


 ノースポール男爵令嬢アリサから、ルシアの意識が戻ってすぐから見舞い行きたいとの連絡があったが、ルシアが本調子に戻るのを待ってもらい、ようやくこの日、会えることとなった。


 アリサの来訪が告げられルシアは応接室へ向かった。


 部屋に入るとソファーにはアリサと共になぜかベンジャミンが座っていた。


「ようこそおいでくださいました、アリサさま」


「ルシア様!お元気になられてよかった!」


「ルシア、大丈夫?少しやせたんじゃないか?」


 二人が立ち上がってルシアのそばまでやって来た。


「ベンジャミン?何故あなたまでいるの?」


「何故って、アリサがルシアのお見舞いに行くって言うから付いて来たんだよ」


「え?二人は知り合いだったの?」


「ルシア様、説明いたしますわ。まずは座りませんか?」


「え、ええ、そうね」


 三人が席に着くと、すかさずステラがお茶をそれぞれの前に差し出した。


 ルシアはお茶を一口飲んでから、並んで腰かけたベンジャミンとアリサを交互に見た。


「それで、二人はいつの間にお友達になったの?」


「ぼくたちは友達じゃないんだ」


「お友達じゃない?」


「そうなのです。実はわたくしたち婚約いたしましたの」


「え―――っ!?」


 ルシアは思わず声をあげてしまってから、自分の口を両手で軽く押さえた。


「ごめんなさい、大きな声を出して失礼しましたわ。婚約と言ったの?二人が?」


「ええ」


「驚いてしまったけれど、おめでとう!」


 ルシアはとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「ありがとう」


「ありがとうございます」


 ベンジャミンが照れくさそうに頭を搔いている。


「本当にびっくりしたわ。どういった経緯なの?」


「父さんに結婚するよう言われていたことは知ってるだろ?どうせ結婚するならルシアが親しくしている人がいいと思ってアリサに結婚を申し込んだんだ。アリサはルシアのことが大好きだからね」


「え!?そんな風に選んだの?」


「わたくしもルシア様のことが大好きな人と結婚できるなんて本望です。ルシア様の素敵な所を語り合えて最高ですわ。それに、ベンジャミン様と結婚すれば、これからもいつでもルシア様に会いに来れるでしょう?」


「うん、そうだね。二人で一緒に会いに来よう」


 ルシアは少し戸惑いつつも、二人がそれで納得しているなら…と受け入れた。



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