第42話 成り行き上しかたなく
リアムとコルティジアーナは幼馴染である。
コルティジアーナの家は、正妃の実家である侯爵家と対立関係にあるため、反正妃派の筆頭とされている。
反正妃派は側妃ミランダとその息子のアルフォンソに好意的だった。
アデレードの事件前は、アルフォンソとコルティジアーナが婚約することは既定路線だった。
この度のニコラオとの婚姻は、力を持ち過ぎた正妃一派とのパワーバランスを取るために必要だったとの見方もある。
実際のところは、優秀なコルティジアーナを取り入れなければニコラオの世代で王政が瓦解しかねないとの危機感から王が決断したことであった。
リアムはできればニコラオの断罪にコルティジアーナを巻き込みたくなかった。
内密にアデレードの名前で謁見を申し入れ、受諾されたため、二人はコルティジアーナの部屋へと出向いた。
「お待ちしておりました、アデレード様」
「まぁ、おやめになってコルティジアーナ様。あなたは王子妃、わたくしよりも身分が上ですわ」
「いいえ、まだわたくしは侯爵令嬢に過ぎません」
「ではこうしましょう。わたくしたち、お友達になるの。そうしたら身分も関係ないわ」
「まぁ・・・!嬉しいお言葉ですわ。ぜひお友達になってくださいまし」
一瞬で意気投合した女子二人は早くも友情を確立してテーブルに着いた。
お茶が出されると、コルティジアーナはメイドも護衛騎士も席を外させた。
「それで、そちらの方はどなたですの?」
コルティジアーナに問われ、リアムはそっと仮面を外した。
「コルティジアーナ、オレだ」
コルティジアーナは目を見張ってリアムの顔をまじまじと見た。
「アルフォンソ殿下…!」
コルティジアーナは信じられないものを見た、と言った風情で両手で口元を覆った。
じわじわと両目に涙がにじんでくる。
コルティジアーナも、仲の良かったアルフォンソの失踪に心を痛めていた一人である。
「今まで一体どうしていたの?心配したのよ」
「ごめん。母が殺された夜、オレは窓から逃げ出しオーウェルズ国に渡ったんだ。今はアデレード様と一緒にいる」
「オーウェルズに。それがなぜ、いまこんな所にいるの。正妃様に見つかったら今度こそ命がないわ。なぜ戻って来たの。まさかお母様の復讐をしようと思っているの?」
「いや、復讐なんてするつもりはなかったんだが、成り行き上しかたなく?」
リアムはちらりとアデレードの顔を見た。
アデレードは薄くほほ笑んで知らん顔を決め込んでいた。
「ふざけないで。せっかくこんな国から逃げ延びたのに、馬鹿ね」
「馬鹿はお前だろう。なぜニコラオと結婚なんかするんだ」
「仕方ないじゃない、王命だったのだから。わたくしだってニコラオとなんか結婚したくないわよ」
「ふふふふ、その言葉を待っていたわ」
アデレードが嬉しそうに口をはさむ。
「コルティジアーナ様、この結婚、おやめなさい」
「え!やめるって無理よ。明日宣誓式なのよ?!」
「明日の宣誓式まではあなたは侯爵令嬢なのでしょう?」
「え、ええ。宣誓式が終わると正式に夫婦となるわ」
「もしもニコラオが廃嫡されるとしたら、あなたのお父様はそれでもあなたにニコラオと結婚するように命じるかしら?」
「え…?廃嫡?」
コルティジアーナはアデレードとリアムの顔を交互に見やり、どうやら物事がすでに大きく動き始めているということに気が付いた。
「廃嫡されるような罪を犯したというのであれば、我が家としては王家側の過失として婚約破棄を申し出るでしょう」
「そう…。ならよかったわ。あなたも結婚したくないのでしょう?」
「ええ」
その返答にアデレードは満足そうに頷いた。
しかしコルティジアーナは心配そうにリアムを見た。
「アルフォンソ殿下、もしや名乗り上げるおつもりなの? 王位継承権を請求して」
「さあ、どうかな。もしそうなったらコルティジアーナは俺を支持してくれる?」
「もちろんよ。はっきり言うけど、ニコラオなんて王位につけてはいけない人種よ。馬鹿で甘ったれで残虐なんだから!あんなのが王になったら一瞬でこの国は亡びるわ。そうならないためにわたくしが嫁ぐ予定だったのだけれども。いいわ、わたくし、あなた方に人生を賭けます。婚約を破棄する方向で動きますわ」
「いいのかい?」
「ええ!女は度胸ですわ!そうと決めたらこうしてはいられないわ。すぐにお父様と連絡を取らなくては」
リアムとアデレードは部屋から辞した。
こうして国内で唯一ニコラオ王太子を支持してきた(せざるを得なかっただけだが)メンフィス侯爵家を寝返らせることに成功した。
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