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第40話 神の思し召し


 ルシアがリアムの帰りを待つと決めた頃。


 リアムはマドラ国王弟の娘アデレードと共にアンダレジア王宮にいた。


 アデレードは華やかなパーティードレスを着て完全武装である。


 ゴージャスな赤が似合うアデレードだが、今日は濃い紫紺のドレスだ。


 その隣に立つリアムも本日は執事用のスーツでなくアデレードのドレスと対となるような正装で、顔を隠すため鼻から上には仮面を着けている。


 仮面を着けていてもなお、美しい面立ちが読み取れる。


 アンダレジアでは王太子二コラオと侯爵令嬢コルティジアーナの婚礼のため、各国から来賓がやってきており、厳重な警備が敷かれていた。


 マドラ王室にも結婚式への招待状が届き、アデレードが女王の名代として出席することになった。


 というのも現在マドラでは数々の緊急課題が浮上しており、女王とその娘たちはその対応に追われていたためである。


 まずは隣国ポルタからの領地侵犯である。


 ポルタは常に領土の拡大を狙っており、これまで幾度となく国境付近での小競り合いを続けて来た。


 アンダレジアとの同盟も不調に終わり、結局片の付かないまま現在に至る。


 ポルタ軍が国境付近の集落を襲い、家畜から農作物、家財一切を略奪していく。


 村の人々は殺され、凌辱され、ついには土地を捨てて国を出て行った者もいる。


 第一王女が軍を率いて応戦しているところである。


 侵略攻撃の回数が増してきているのとほぼ時を同じくして、国内、特に南部地区に起きているのが違法薬物による事件である。


 この薬物を摂取すると一時的に力がみなぎり、気分が高揚し、睡眠すら必要なく動き回れる。


 しかし薬の効果が切れると反動でぐったりと怠くなり、嘔吐、眩暈が続くのだ。


 再び薬物を摂取すると症状が改善するため、多くの人が繰り返し薬物を摂取したがった。


 マドラ国内では製造も販売も禁止となっているのだが、ここのところ被害が増えている。


 薬物の摂取が原因で廃人のようになった人が町中に倒れていたり、興奮状態となった人が暴れまわり人を襲ったりする事件が頻発している。


 こちらの対応は第二王女が全力で取り組んでいる。


 どうやら薬物はアンダレジアから流通しているらしいことを掴んでいた。


 その証拠となる売買記録と売人を押さえたとの連絡がアンダレジアにいるアデレードのもとにも入った。


 第三王女が担当しているのは、幼児の失踪事件である。


 こちらもほぼ同時期から被害が増えている。


 闇ルートで幼子が奴隷として売買されているらしいのだが、まだ全容はつかめていない。


 ただ、被害のあった地ではポルタの商人を騙る者が頻繁に出入りしていたことがわかっている。


「これらの出来事が意味していることがわかるかしら」


 マドラの現状をリアムに説明していたアデレードは、妖艶な笑みを浮かべてリアムに問う。


 リアムは考え込みながら、予測をつぶやく。


「ポルタとアンダレジアが組んでいる?」


 アデレードはにこりと笑みを深めて、うなづいた。


「やはりそう思う?アンダレジアの王太子二コラオはわたくしのことを恨んでいるわ。わたくしが婚約を突っぱねて恥をかかせたと思い込んでいるの。だからポルタに手を貸し、マドラに痛い目を見せたいのね」


「なんて愚かな。二コラオが恥をかいたのは、俺のせいじゃないか」


「違うわよ。二コラオ自身のせいよ。あなたは悪くないわ。とにかく、マドラを窮地に陥れたい二コラオによって、違法薬物が持ち込まれたの。薬物によって国の内側からマドラが病むのを待っているのよ。そして混乱に乗じてポルタと同時に攻め込む。そうなったらマドラは苦戦を強いられるわ。なんとか現状を変えたいと考えていたけれども、わたくしたちには打つ手がなかったの」


「なるほど」


「そこに現れたのがあなたよ。神の思し召しだと思ったわ」


「俺に何をやらせる気?」


「うふふふ。大したことじゃないわ。ちょっとした国盗りよ」


 リアムは己の立ち位置を知り、がっくりとうなだれた。


 行方不明となっていた第一王子がマドラの後ろ盾を得て、第二王子を断罪し王位を奪う。


 この筋書きなら大義名分が成り立つため、マドラが内政干渉のそしりを受けることもない。


 アデレードの息がかかったリアムが王位を取り、アデレードが王妃となれば、国を盗ったも同然の結果となる。


「ごめんなさいね。でもあなたにとっても、いい話でしょう?いつまでも逃げ回っているわけにいかないじゃない」


「はぁ、そうですね。私はあなたのしもべですから、何でもやりますよ」


「うふふふ、頼もしいわね」


 アデレードは嬉しそうにリアムの腕に自分の腕を絡めた。


「この後のパーティーで仕掛けるわよ。まずは味方作りでもしましょう」


 この日の夜は、招待されて来た各国の来賓をもてなすためのパーティーが予定されている。


 結婚式を前にして、この2週間あまり連日連夜あらゆる方面が主催して何らかのパーティーが開かれている。


 今夜の国王主催のパーティーから、明日の結婚宣誓式、パレード、披露目パーティーまでがいわゆる結婚式の正式行事となっている。


 主役の二コラオとコルティジアーナも顔を出すが、明日の結婚式に備えるため、夜が更ける前には退出するらしい。


 アデレードに誘導されてやって来たのは、王宮のとある一室。


 アデレード率いるマドラ国一行が滞在するために割り当てられた部屋の一つである。


 アデレードの護衛騎士がノックをし、中に入ると、中にいた人物は立ち上がって頭を下げ、アデレードを迎え入れた。


「マドラ国王弟ご息女のアデレード様にご挨拶申し上げます」


「急な呼び出しに応えてくださりありがとう。顔を上げてちょうだい」


「はっ」


 顔を上げた人物を見て、リアムは一瞬息を止めた。


 それはリアムの母ミランダの父だった。


「マンフレット・リアム・シモンズでございます。アデレード様に御目文字叶い光栄でございます。私はしがない男爵でございます故、失礼がありましたら平にお許しください」


「かまわないわ。シモンズ男爵、早速ですがこちらの者を紹介させてください。わたくしの友人のリアム・ロードよ」


 リアムがおもむろに仮面を外して素顔をさらした。



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