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第37話 何食わぬ顔で嘘をつく ~過去・出会い④~


「リアム、このクッキーも食べて!とっても美味しいのよ!」


 ルシアが自分の好きなクッキーを嬉しそうにリアムに勧めると、リアムはふわっとほほ笑んだ。


 何の思惑もなく、ただ幸せそうに笑っているルシアに、リアムもなんだか嬉しさがこみあげたのだ。


「ありがとう。いただくね」


 勧められたクッキーを一つつまんで食べると、ルシアがワクワクとした表情でリアムを見ている。


「おいしいね」


 そう言うと、ルシアがさらにパッと笑顔を咲かせた。


「そうでしょう!うふふ」


「あらあら、二人はとっても仲良しなのね?ルシアが言っていた通り、リアムは本物の王子様みたいに素敵ね」


「アハハハ、まさか!」


「おほほほ、本当よ」


「いえいえ、とんでもないことでございます」


「まぁ!慎ましやかな子ね。好ましいわ」


 ルシアは大好きな母と大好きなリアムが談笑している姿を見てほのぼのしている。


 言外に込められた本心はまだ読めない。


 そこへ執事のセバスチャンがやって来て声を掛ける。


「スチュワート伯爵様がおいでになりました」


 リアムはさっと立ち上がり、ローガンを迎えた。


 伯爵に会うからと言って、リアムは特段なんの気負いもない様子だ。


 もちろん、油断はしていないのだけれども。


 それが普通の平民あるまじき態度だなんて、リアムにはわからなかった。


 セバスチャンはそういったリアムの様子も逐一観察していた。


(なかなかの大物ですな。ルシアお嬢様もやりおる)


「ああ、よく来てくれた。君がリアム君だね」


「はい、メアリの船問屋で下働きをしていますリアムと申します。本日はお招きいただき有難うございます」


「ルシアを助けてくれたそうだね。ありがとう」


「もったいないお言葉でございます」


「ルシアが君に会いたがってね。すっかり懐いてしまったようだ」


「光栄です」


「まあ座り給え」


「はい」


 ローガンも席に着き、今度はメイドが改めてお茶を用意した。


「ルシアが攫われそうになっていたと聞いた。まだ本人は幼く、何があったかを正確には話せないのだ。よかったら、助けてくれた一部始終を教えてくれないだろうか」


「はい、自分がわかる範囲になりますが…。仕事で荷を届けた帰りでした。お嬢様が裏道で行ったり来たりしていたので、迷子かと思い様子を見ていました。するとガラの悪い大男がお嬢様に近づき、あっという間にお嬢様を担ぎ上げました。これはまずいと思い、助けに入ろうかと思った矢先、男がぬかるみに足を取られて転倒したのです。その際にお嬢様は放り出されてしまいましたが、男も打ち所が悪かったのか意識を失いましたので、自分が手足をしばって転がしておいた次第です。ですから、自分は本当にたいした事をしていないので、このようにお礼を言われるほどのことではないと思い、大変恐縮しております」


 何食わぬ顔で嘘をつくが、ローガンも何食わぬ顔で信じたふりをした。


「そうだったか。いや、しかしタイミングよくその場にいてくれて、すかさずルシアを救出してくれたのだ。本当に助かった」


「え、違うわ!わたくしが男に放り投げられて倒れているとき、男は転んでいなかったわ。しばらく立っていて、ゴボゴボ言いながら倒れたのよ」


 ルシアは男が倒れる姿こそ見ていなかったが、割と正確に起きたことを把握していた。


「自分から見た限りの話ですから、お嬢様の感じ方と多少ずれがあるようですね」


「そうだな。ああ、しかしそう言えば、男を取り調べた際に水の中に沈められて苦しくて気を失ったようなことも言っていたな。その辺りは、心当たりがあるかね?」


「さあ、足元がぬかるんでいたのですから、水たまりがあったのではないでしょうか。転倒した際に水たまりに顔が浸かったのかもしれませんね」


「ほう…。君の所からも水たまりが見えたのかい?」


「どうだったでしょうか…。ぼくもお嬢様が攫われると思って慌てていたものですから細部まで覚えていません。すみません」


 リアムは柔らかな笑みを浮かべ、申し訳なさそうに頭を下げた。


 お辞儀をすると、その所作の美しさにローガンは内心舌を巻いた。


 もし報告にあった通りに魔術の使い手であれば欲しいと思っていたが、実物を前にローガンはたとえ魔術が使えなくても、手元に置きたいと評価を上方修正した。


「ところで、君は船問屋の下働きをしているとのことだが、親御さんはどうしているんだい?」


「…母はなくなりました。ぼくに父はいません」


「そうか、亡くなったのか。すまないね、辛いことを思い出させて」


「いえ、もうずいぶん昔のことですから。母が死んでからは、サガンの下町で一人で生きてきました。今世話になっている船問屋の女将さんが、見かねて拾ってくださったので、なんとか生き延びたようなものです」


「そうか。恩義があるんだね。もしよかったら、うちで働かないか」


「え…?」


 思いもかけない申し出に、リアムは一瞬戸惑った。


 しかし、答えは決まっている。


「ありがたい申し出ですが…」


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