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第28話 愛らしい姫


 加えて、王子たちの資質にも差が見え始めた。


 何をやらせても卒なくこなす控えめなアルフォンソに対し、ニコラオは我がままな言動が多く、努力を厭う怠け者であったことから、アルフォンソを王太子にと望む声が日に日に増していった。


 1歳しか年の違わぬ異母兄弟が何かにつけ比べられてしまうのは、やむを得ないと言えばそうであった。


 しかし、当のアルフォンソは母からも口酸っぱく言われている通り、決してニコラオを追い落とそうなどとは考えていなかった。


「アルフォンソ、よいですね。決してニコラオ様と競ってはなりません。目立たず、正妃様や正妃様のお子様をたてて暮らすのです。そうでなければ国を乱す原因となります。己の欲で国を乱してはなりませんよ」


「はい、お母様」


 ミランダとアルフォンソの親子は痛くもない腹を探られないよう、細心の注意を払って生活していた。


 それでも正妃からは疎まれ、王座を狙っていると疑われ、常に警戒心を持って監視されていた。




 命を狙われるようになったのは、第二王子ニコラオの失態がきっかけだった。


 隣国マドラの王弟とその娘アデレード姫が外交のためアンダレジアを訪問した。


 歓迎の宴が開かれアデレードと同世代ということもあり、アルフォンソとニコラオも出席することとなった。


 幼いルクスは乳母と共に離宮に待機していた。


 アデレードの真っ白な髪と透けるように白い肌は手入れが行き届き美しく艶やかだ。


 瞳は宝石のような真紅。


 桃色のオーガンジーを幾重にも重ねたかわいらしいドレスを身につけた姿は、お伽噺の中に出てくる妖精のようで大変愛らしい。


 出席者からはその姿に感嘆のため息がもれた。


 ニコラオは目を見開きアデレードに釘付けとなっている。


 口は半開きになっており、まさに呆けているといったありさま。


 しかしみっともないと注意する者はいなかった。


 なぜなら誰もがアデレードに視線を奪われ、ニコラオのことをまともに見ている者などいなかったからだ。


 アデレードはやや伏せていた目を上げ、王と王子たちに視線を送った。


 ニコラオの間抜け面も見ただろうが、吹き出したりはせず、礼儀正しくお辞儀をした。


 この度の訪問は、マドラ国がアンダレジアの武力援助を欲したことからなった。


 マドラの西に位置するポルタ国は少しでも領土を広げようと、頻繁にマドラへの侵略攻撃を仕掛けていた。


 マドラは勇猛と名高いアンダレジア国からの軍事的支援を受け、ポルタに対抗しようと考えていた。


 一方、アンダレジアはマドラで産出される名馬を輸入しさらなる軍事力の強化を狙っている。


 両国の利害が一致し、年の近いアデレードとニコラオの縁談を進め、両国の結びつきを強固にしようとの流れとなり、この度のアデレードを伴っての訪問となった。


 ニコラオは婚約者となるアデレードの愛らしさにのぼせ上がり、いつにもまして失態をさらすことになる。


「情熱の国アンダレジアの王族方にご挨拶申し上げます。マドラ王弟が娘アデレードにございます。どうぞお見知りおきくださいませ」


 アデレードが発した声までもが愛らしく、鈴を転がしたように美しく響いた。


 アンダレジア国王ドミニクは満足そうに頷いた。


「遠い所をよく参られた。話には聞いていたが、愛らしい姫であられるな。会場が一層華やいだ。我が愚息を紹介しよう。そなたの婚約者となる予定の第二王子ニコラオだ」


 アデレードの視線が二コラオに移ると、ニコラオの頭から白い湯気でも出そうなほどにニコラオは真っ赤になってしまった。


「ニコラオ王子殿下、アデレードです。よろしくお願い申し上げます」


「か、か、かわい・・・、ちがっ!ニコラオだ。よろしく」


 ニコラオがアデレードの虜となったことは、誰の目にも明らかであった。


 国王ドミニクはガハハと豪快に笑ってニコラオの背中をバンと叩いた。


「すっかり姫の愛らしさに参っているようだ。滞在中に親交を深めてくれ。それから、こちらは第一王子のアルフォンソだ。兄として頼ってくれ」


「アルフォンソです。アデレード姫、よろしく」


「よろしくお願い致します」


 歓迎の宴では、子供たちは顔合わせをしただけで、早い時間に部屋へと戻った。


 翌日から婚約者として交流を深める名目で、ニコラオとアデレードのお茶会が開かれた。


 そこにはアルフォンソは呼ばれなかった。


 この日のアデレードはレースをふんだんに使用した薄紫色のドレスを身に着け、共布のリボンで髪を結いあげていた。


 真っ白な肌に薄紫色が美しく映える。


 ニコラオは前日同様、アデレードの愛らしさに完全に舞い上がってしまった。


 緊張から全身がガチガチに力んでおり、それを悟られたくなくていたずらに思わぬ言葉を重ねてしまう。


「お前の髪はなぜそんなに白いんだ。まるで老婆ではないか」


 アデレードはあまりに不躾な物言いにピキリと固まる。


 内心で何を思っていようとも、表情にはあらわさないのは、さすがに王族である。


「わたくしの白い髪は生まれつきでございます故、なぜ、というご質問にはお答えできかねます」


「生まれつきだと?では何かの病気なのだな?そのような病気持ちが我が国に嫁ぐのか?」


「いいえ、病気ではございませんわ。人にうつったりも、もちろんしません」


「ならば何かの呪いか?」


 アデレードは言葉を返さず黙り込んだ。


 その背後でアデレードに付き従ってきた年かさの侍女が怒りで手を震わせている。


 ニコラオ側の付き人たちは凍り付いた空気の中で、やや青ざめて事の成り行きを見守っている。


 王族同士の会話に踏み込む勇気のある者はいなかった。


「なぜ答えないのだ。やはり呪いなのか?」


「呪われてはいません。わたくし自身はこの白い髪も、肌も、気に入っておりますの。ニコラオ様は、わたくしの髪がお嫌いですか?」


 そう聞かれてニコラオはたいして考えもなく、雑に言い放つ。


「嫌いではないが、気持ちわるいな」


 ニコラオの付き人たちは、それはもう見ていられないほど顔色が悪くなった。


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