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第24話 アントワーヌの最期

誤字報告をくださった読者様ありがとうございました。修正しました。

 

 どこで間違えてしまったのだろう。


 薄暗い牢獄の中にうずくまって、アントワーヌは考える。


 しかし、霞がかったように頭がぼんやりして思考がまとまらない。


「そう…そうだわ。あの女が悪いのよ―――!」


 アントワーヌはある女の顔が脳裏をかすめたことで、急に興奮状態となり牢の鉄格子をつかみガチャガチャと音を立てて揺らす。


「開けなさいよ!!私は被害者なのよ!!あの女にずたずたにされたの!見てよ、この頭を!!あの女がやったのよ!」


 牢番をしていた衛兵は、表情一つ変えず、アントワーヌの方を見ようともしない。


 叫ぶアントワーヌの髪は短く縮れ、かろうじて頭皮を隠している。


 あのナリスのパーティーでリアムに燃やされたせいである。


 リアムの犯行とは知らぬアントワーヌだったが、その後アンドレイ侯爵家の没落の影にスチュワート伯爵家が噛んでいることに気が付いた。


 売りに出された侯爵領がことごとくスチュワート家に買い上げられていたのだ。


 アントワーヌは思った。


 自分の髪が燃やされたのも、アンドレイ侯爵家がつぶされたのも、全部ルシアが糸を引いていると。


 アンドレイ侯爵家が突然に没落したせいで、アントワーヌの家も大きなあおりをくらった。


 そのうえ、王宮で髪が燃やされた者たちは、王家の怒りを買ったからだと噂がたった。


 もともと悪い連中とつるんでいることは、耳の早い貴族の間では有名な話だったし、アンドレイ侯爵家の威光を笠に着ていばりちらしていたアントワーヌが、社交界のつまはじきになったのは当然の成り行きだった。


 評判の悪い娘と付き合っても、何の得にもならない。


 だれにも相手にされないのは、これまでスカーレットの名のもと、やりたい放題だったアントワーヌにとっては痛い仕打ちだった。


 日に日にルシアへの恨みが募り、ルシアを害そうとスチュワート領までやって来たものの、思いのほかスチュワート家の警備が厳しかった。


 ルシアに近づくチャンスがなかなか巡ってこなかった。


 そんな時に、ナリスが王都からサガンの町へやって来た。


 町歩きを始めた二人を付け回す。


(何食わぬ顔で歩けば、ただの町娘にしか見えないはず)


 案の定、ナリスとルシアを遠巻きに守っている護衛たちは、アントワーヌを警戒しない。


 建物に入ってしまう前にかたをつけようと、アントワーヌはルシアの背後に忍び寄り、勢いよくナイフを突き立てた。


「やった!ざまあみろ!」


 こうしてアントワーヌは事を成したのである。


 アントワーヌはその場でナリスの護衛騎士に取り押さえられ、衛兵に引き渡され牢へ連行された。


 両手足を縛られたまま、牢の中へ転がされる。


「ぎゃははははは!やった!やったよ!」


 アントワーヌは目を爛々と輝かせて叫んだ。


 衛兵が強烈な張り手を食らわせた。


「黙れ!何ということをしたのだ!お前はだれだ?なぜスチュワート伯爵令嬢を襲った?」


 口の中が切れ、血が口から垂れたまま、アントワーヌはゲラゲラと笑い続けた。


 アントワーヌを殴った衛兵の耳元に、部下からアントワーヌの身許が知らされた。


「何だって?この女が貴族?…おい、お前はエジンバラ子爵令嬢アントワーヌで間違いないか?」


「そうよ!あんた子爵令嬢のわたしを殴ったりして、ただで済むと思わないことね!」


 いつもの調子で高飛車にセリフを吐くが、衛兵は鼻で笑った。


「お前こそ、王族に刃物を向け殺害を図ろうとしたのだ。ただで済むと思うなよ。たかが子爵家の分際で、何を威張っているんだ。この犯罪者が!」


「何ですって…!王族ってなによ!私が刺したのはただの伯爵令嬢よ」


 アントワーヌは目を吊り上げて衛兵を睨む。


 しかし衛兵は物ともせず、尋問を開始した。


「なぜナリス様をつけ狙ったのだ」


「ナリス様は狙ってないわ」


「一緒にいたお方を襲ったのだ。ナリス様を襲ったのと同等だろう。凶器のナイフはどこで手に入れたのだ?」


「うるさい、うるさい、うるさい!」


「吐け!吐かないならば拷問にかけるしかあるまい」


 そう言って、衛兵はアントワーヌの背中に鞭を振り下ろす。


「ぎゃっ!やめて!」


「吐け!ナイフはどこで手に入れたのだ?」


「知らないわよ!私はただ、家にあった物を使っただけよ!」


「毒が塗ってあっただろう!」


「アハハハ!毒なんか塗ってないわよ!そう言うってことは、あの女が目覚めないのね!ざまーみろだわ。呪われればいいんだわ!」


 この発言から、アントワーヌがナイフに何らかの細工をしており、そのせいでルシアが目覚めないことが判明した。


 すぐさま上に報告が行き、エジンバラ子爵家の捜索が行われた。


 しかし、この捜索ではナイフの出処は判明しなかったのものの、思わぬ成果をあげた。


 エジンバラ子爵邸の地下牢に子供が数名つながれて放置されていたのが見つかったのだ。


 この子供たちは国中のあちこちから連れて来られていた。


 スチュワート領で行方不明になった子供も一人見つかった。


 国中から子供を攫って来ては、奴隷として売りさばいていたのだ。


 人身売買はオーウェルズ国では禁止されている。


 現在はエジンバラ子爵を拷問にかけ、人身売買のルートを洗っているところである。


 また、アントワーヌの様子から、違法薬物の摂取が疑われた。


 それについてもエジンバラ子爵は尋問を受けている。


 違法薬物の売買も重罪である。


 簡単に自白などしなかったが、捜索隊が子爵邸から違法薬物を押収したことで罪が確定した。


 アントワーヌも王族を襲撃したとして、死罪が決まった。


 それも公開処刑であった。


 多くの人々に野次を浴びせられながら、アントワーヌは処刑された。


 これがアントワーヌの最期であった。


 エジンバラ子爵家は取り潰し、一族郎党は連座を免れたが全員平民となった。


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