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第22話 ルシア負傷

 

 本日、リアムはルシアと別行動をとることになった。


 ナリスの側近アンソニーと共に商工会へ出向き、渡航の準備を手伝うことになったのだ。


 それはナリスからのお願いだった。


 リアムとルシアを引き離し、ルシアと二人きりで出かけたいという思惑が見え見えであったが、リアムはあっさりと承諾した。


 二人きりと言っても、ナリスの護衛がたんまりと付いて行っている。


 王子の護衛と言えば、近衛隊の中でも腕利きの者が任命されている。


 王子と共にルシアの安全も守ってくれる。


 そうでなければいくらナリスからの依頼であっても、リアムがルシアから離れることに承諾しなかったろう。


 ルシアがナリスと共に出発するのを見送ると、リアムはアンソニーと商工会へと出かけた。


 ルシアとナリスの出かけた先は、サガンが誇る真珠の加工場だ。


 貝から採られた真珠が集められ、熟練の目利きによって品質や微妙な色合いの違い毎に分けられていく。


 温かみを感じさせる白い珠が艶やかに輝く様は大変美しかった。


「これが伯爵家の主力産業なのかな?まさに領地の宝だね」


 王子に問われルシアは軽く首を傾げた。


「そうですね…。真珠も我が領の誇る特産品ですけれど、主力は観光業になります。海もここの町並みも大変美しいんです。わたくしにとっては海と町そのものが宝ですわ」


 ルシアがそう答えると、ナリスは満足そうに頷いて笑顔を見せる。


「なるほど。君はとても領地を愛しているんだね」


「はい」


 ルシアも笑顔になった。


 その後、今日の記念に真珠が欲しいというナリスの要望に応え、加工場に併設された販売所の貴賓室へ通された。


 オーナー自らが選りすぐった品を、ナリスの目の前に並べた。


「ルシア嬢は真珠のアクセサリーをたくさん持っているのだろうか」


「そうですね。領の代表として真珠の良さを見ていただくために、お茶会やパーティーには身につけますので、それなりに持っています」


「そう言えば先日のパーティーでも見事な首飾りを着けていたね」


「ありがとうございます。あれもここの工房の作品ですわ」


「へぇ、ゴールドの細工が美しかったよね」


 ルシアがオーナーに合図をすると、すぐにテーブルにゴールドの細工が美しい品が並んだ。


「母や妹に贈るならどういった物がいいだろうか。ルシア嬢のおすすめは?」


「王妃様と王女様へのお土産ですか?ナリス王子殿下からの贈り物ならきっと普段から身に着けたいと思われるでしょうから、このあたりの品はいかがでしょう?」


「いいね。これとこれは王宮に届けてくれる?それから、こっちはアンダレジアに持って行くからスチュワート邸に届けてくれ」


 オーナーは満面の笑みを浮かべてお辞儀をした。


「かしこまりました。ありがとうございます」


「頼んだよ。ではルシア嬢、行こうか」


「はい」


 ルシアとナリスは加工場兼販売所を後にし、食事の予約をしているレストランまで歩いて行くことにした。


 大変美しいオーシャンビューが人気のレストランである。


 今日もサガンの街は活気があり賑やかである。


 たくさんの人々が行き交うメインストリートを二人は並んで歩いた。


 だれもその殺気を感知できなかったのだが、ルシアを害さんとする者が人ごみに紛れてすぐ側を歩いていた。


 小綺麗なワンピースを着て、頭にスカーフを被っている若い女だ。


 ルシアから付かず離れずの距離を保ち、執拗に付いてくる。


 護衛の一人がふと、その女に違和感を感じ、念のため危険を知らせようと動き出した途端だった。


 女が背後からルシアに体当たりするようにぶつかったのだ。


「きゃっ」


 突き飛ばされ倒れそうになったルシアを、ナリスは咄嗟に抱き留め支えた。


 ルシアの腰に回されたナリスの手に、ぬめりと生温かい物が触れた。


 血だ。


「ルシア嬢!大丈夫か!?」


「ナリス王子で‥んか」


 動き出していた護衛によって、女はすぐさま取り押さえられ、手に握っていたナイフを取り落とした。


 ナイフにはべったり血が付いている。


 ナリスはルシアを抱き上げ、護衛に大声で指示を出した。


「ルシア嬢が刺された。すぐに救護院へ運ぶ。案内せよ。その女の取り調べは任せた。すぐに調べ上げろ」


「はっ」


「ルシア嬢、いま助ける。がんばってくれ」


「‥‥」


 ルシアは痛みに表情をゆがめ、言葉もなく目を閉じた。


 その顔面は蒼白で、一刻を争う事態と感じさせた。



 ◆◆◆



 買い付けた物品が次々と届くスチュワート邸に、ルシア負傷の一報が届いた。


 一報を受け取ったリアムから、炎のようなものが噴き上がった。


 怒気が魔力を伴って全身から湧き出たものだ。


 魔力など持たぬ人々の目にも、鮮やかに見えるほどの強い気だった。


「お嬢様はどこだ」


「町の救護院へ運ばれました」


「容体は」


「腰にナイフを深く刺され、意識不明です」


 それを聞くや否や、リアムの姿はふっと掻き消えた。


 周囲の者は度肝を抜かれた。


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