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第13話 二人のお茶会


 ベンジャミンが案内された部屋にあったのは、もちろん、あのセーラードレスだ。


「こちらございます」


「ちょ…!これはドレスじゃないか!」


「左様でございますが…?」


「僕にドレスを着せようっていうの?!」


「本日のコンセプトは【セーラードレスを脱がないで】でございます。ご参加される方は皆様こちらのドレスをお召しいただきたく。ぜひご着用ください。きっとお似合いですよ?ベンジャミン様がドレスを着たら、私も思わず恋してしまうかも」


 リアムがうっとりとした表情でベンジャミンを見つめた。


 するとベンジャミンは嫌そうな顔をした。


「ぼくはルシアに恋されたいんだけど!リアムに恋されても嬉しくないよ」


「おや、そうでしたか。ですが本日のお茶会に参加されれば、ルシアお嬢様の中でベンジャミン様は女友達のジャンル入りでしょうね、間違いなく。女友達が増えるのは大歓迎です。どうぞ今後ともドレスを着てお越しくださいね」


「う…、やっぱり今日は遠慮しようかな」


 そう言ってそそくさと帰って行った。


 リアムはくすっと笑ってそんなベンジャミンを見送った。


「本当にお似合いだと思いますがね」


 小柄で見ようによっては美少女に見えるベンジャミンは、きっとドレスを着こなすだろう。


「リアム?ベンジャミンはどうしたの?」


「やはり女の子の会だから遠慮するとのことでお帰りになりました」


「そう。ベンジャミンには悪かったかしら」


「お約束はなかったのですから、お嬢様が気にされる必要はありませんよ」


「それはそうなんだけど」


「また別の機会にお誘いすればよいのでは?」


「そうね」


 そうこうしているうちに、約束の時間となった。


 アリサは時間ちょうどにやって来た。


「ルシア様!本日お時間を作ってくださりありがとうございます」


「ようこそおいでくださいましたわ。こちらこそ、わざわざ領地まで足をお運びいただきありがとう」


「お会いしたかったですわ」


「わたくしもよ!今日は楽しんでもらおうと思って準備しているの」


「まぁ…!嬉しいです」


「うふふ、こちらにいらして」


 ルシアが弾んだ足取りでアリサを案内する。


 ペアで用意されたセーラードレスを見て、アリサは感激した。


「アリサ様にはこちらの白いドレスを、と考えたの。ピンクのラインがアリサ様にぴったりでしょう?でも、もし水色の方が良ければこちらでもいいですよ?こちらはリアムの髪色と同じオーガンジーを使ってみたの」


 アリサは静かにほほ笑んでいるリアムをちらりと見て、水色のドレスを見て、それからルシアの顔を見た。


「わたくしは白いドレスがいいですわ。ルシア様が水色のドレスを着てください」


「そう?ではそうしましょう」


 二人はセーラードレスに着替えた。


 思い切って膝丈にしたドレスの裾から、たっぷりとフリルが出ていてかわいらしい。


「ルシア様、とってもお似合いです!」


「ありがとう。アリサ様もかわいいわ」


「ありがとうございます」


 二人のお茶会が始まった。


「まずはドレスを納めさせてください」


 アリサが持って来たルシアのドレスは、ワインレッドに染め上げられ、美しい光沢を輝かせている。


「わぁ、きれいに染まったわね」


「お気に召していただけたでしょうか…?」


「もちろんよ!ありがとう」


「いえ!本当に申し訳ありませんでした」


「もういいのよ。十分謝ってもらったわ」


「ありがとうございます!」


 アリサは目をうるうるさせて頭を下げた。


「実は、今回のことで父も腹を決め、侯爵派から抜けることにしたのです。スチュワート家に喧嘩を売るようなご令嬢がいる家にはつけないとの判断ですわ。わたくしもスカーレット様のやりようには辟易していましたので、よくぞ決心してくれたとの気持ちです」


「派閥から抜けても影響はないのですか?」


「スチュワート伯爵様にお許しいただいたので、なんとか生き残れますわ」


「お父様が?」


「ええ!寛大な処置をいただきました。販路はつぶれましたが、私たちは領民の技術の高さを信じています。また新たな販路を築けばいいのです」


「たしかに染めの技術は素晴らしいわ。よかったらわたくしにも協力させてね。次にドレスを着る機会があったらこのドレスを着て宣伝してくるわ」


「いいのですか?ありがとうございます!」


 ルシアが後見していると表明するだけで、新たな販路は開けることだろう。


 リアムがお茶のおかわりをカップに注ぎながら、アリサに話しかけた。


「ノースポール男爵様は機に敏いお方ですね。さすが一代で財を築き爵位を得ただけのことはあります」


「ありがとうございます。・・・ですが、機に敏いとは?」


「おそらくこんな噂を耳にしたのではないですか?アンドレイ侯爵家の資金繰りが悪いと」


「そうなのですか?私は存知ませんでした」


「わたくしも知らないわ」


「アンドレイ侯爵家の領地が売りに出されています。もし侯爵家が取り潰しされるようなことになれば、その下についている下位貴族もただではすまないでしょう」


アンドレイ侯爵家は肥沃な土地を領地に持っている。


 まともな領地経営を行っていればそうそう貧することはないはずなのだが、奥方と娘のスカーレットの浪費癖は並大抵ではなかった。


 年間収入を超えるような宝飾品を欲しがり、社交のためと次々と値の張るドレスを注文する。


 アンドレイ侯爵はそれをたしなめることはせず、領民からの取り立てる税率を上げた。


 それでも支払いきれないツケが巨額になっている。


 リアムはその債権をすべて買い取り、アンドレイ侯爵家に督促を掛け追い詰めている本人である。


 そうは知らないアリサは、侯爵家が没落することを想像し、恐ろしさに身震いした。


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